落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第114話 精神の鍛錬、そして迷宮の主へ

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魂の祭祀場で得た、ギフトの根源に関わるかもしれない情報の断片。
それはアルトに大きな希望をもたらしたが、同時に、「制御」という新たな、そして途方もなく困難に思える課題を突きつけた。
Cランク冒険者として依頼をこなしながらも、アルトはエリアーヌと共に、この未知なる力の解明と制御に向けた、地道な努力を始めていた。

エリアーヌがアルトのために考案した訓練メニューは、これまでの肉体を鍛え上げるものとは全く異質だった。
それは、精神と意志、そしてギフトそのものと深く向き合う、内面への旅路とも言えるものだ。

訓練は、まず長時間の瞑想から始まった。
騒がしい王都の片隅にある下宿屋の一室で、アルトは目を閉じ、呼吸を整え、心を無にするように努める。

最初は、街の喧騒や、依頼のこと、リナのことなど、様々な雑念が浮かんでは消え、なかなか集中することができない。
しかし、エリアーヌの指導を受けながら、毎日辛抱強く続けるうちに、アルトは徐々に、自身の内側に存在する、温かく、そして力強いエネルギーの流れ――ギフトの源流のようなもの――を、微かにだが感じ取れるようになってきた。

次に試みたのは、精神的な負荷に対する抵抗力を高める訓練だ。
エリアーヌが、古代の遺物からヒントを得て試作したという、特殊な音叉のような魔道具。
それを鳴らすと、聞く者の精神に直接働きかけ、軽い幻聴や、集中力を削ぐような不快なノイズを生み出す。

アルトはそのノイズの中で、平常心を保ち、剣の素振りや、あるいは計算問題のような単純な作業に集中する訓練を行った。
これもまた、最初は苦痛でしかなかったが、繰り返すうちに、外部からの精神的な干渉に対して、自分の心を閉ざし、守る技術が、少しずつ身についていくのを感じた。

そして、最も重要で、最も難しいのが、「守る」という意志を具体的な力へと変換するための訓練だった。
エリアーヌは様々な方法を試した。

訓練場に、リナや仲間たちの姿を模した人形を置き、それを擬似的な魔物(訓練用ゴーレムなど)に襲わせる。
アルトはその状況下で、人形を守ることを強く意識しながら、ギフトを発動させる。
あるいは、過去の戦闘…ホブゴブリンやコア・ゴーレムとの死闘を詳細に思い出し、あの時の極限状態と、「守りたい」という強い想いを再現しようと試みる。

しかし、リフレクト・ショックの任意発動は、依然として成功しなかった。
あの蒼白い閃光が現れることはなく、反射ダメージやインパクト・パルスが発動するだけだった。

「やはり、本物の生命の危機と、心の底から湧き上がる、純粋で強烈な守護意志…その二つが揃わない限り、あの力は目覚めないのかもしれませんわね…」
エリアーヌは、少し残念そうに、しかし諦めることなく分析を続ける。
「あるいは、まだ何かが足りない…ギフトとの『対話』が、まだ浅いのかもしれませんわ」

ギフトとの対話。
アルトは、瞑想の中で、自身の内なる力の流れを感じながら、それに語りかけるように意識を向けてみた。
(俺の力…ダメージ反射…リフレクト・ショック…お前は、一体何なんだ?どうすれば、お前をちゃんと使えるようになる?)
もちろん、ギフトが言葉で答えてくれるわけではない。
しかし、その問いかけを続ける中で、アルトは、自分のギフトが、単なる能力ではなく、自分自身の魂の一部であり、意志と深く結びついた存在であるという感覚を、より強く持つようになっていた。


訓練と研究に没頭する一方で、アルトはCランク冒険者としての活動も、もちろん続けていた。
経験を積み、資金を稼ぎ、そして何より、自分の実力を試し続けることが、さらなる成長には不可欠だからだ。

彼はギルドへ向かい、Cランク向けの依頼の中から、次なる挑戦を探した。

護衛任務、未踏地域の調査、強力な魔獣討伐…。
様々な依頼が並ぶ中、アルトの目を引いたのは、王都の地下に広がる古代迷宮に関する依頼だった。

『迷宮ミノタウロス討伐:王都地下迷宮・浅層(第3区画)に出現したミノタウロス1体の討伐。ラビュリス(両刃斧)による攻撃に注意。報酬 銀貨5枚。ランクC推奨』

ミノタウロス。
牛の頭を持つ、屈強な半人半獣の魔物。
その圧倒的なパワーと突進力は、オーガにも匹敵すると言われ、さらに迷宮という複雑な地形を熟知し、それを活かした戦い方をしてくるという。
Cランク冒険者にとっても、単独で挑むには危険度の高い相手だ。

(今の俺なら、どこまでやれるか…)

アルトは、この依頼に挑戦することを決めた。
今回は、あえて単独で挑む。
それは、自分の限界を知りたいという気持ちと、そして何より、極限状況の中で、ギフトの新たな側面…特にリフレクト・ショックの制御の糸口を掴みたい、という想いがあったからだ。
パーティでの連携も重要だが、時には一人で強敵と向き合い、自分自身の力と可能性を突き詰める経験も必要だと感じていた。

ギルドマスターは、アルトが単独でミノタウロス討伐に挑むと聞き、さすがに驚いた表情を見せたが、最終的には彼の決意と実力を信じ、依頼を承認した。

「君ならあるいは…と思ったが、くれぐれも油断はするなよ、アルト君。迷宮の中では、方向感覚も失いやすいし、ミノタウロス以外の危険…例えば、他の魔物や、古代の罠が残っている可能性もある。生きて帰ってくることが、冒険者の最低条件だからな」

マスターからの念押しを受け、アルトは準備を万端に整えた。
黒曜の剣とバックラー、強化された革鎧。
回復薬と、リナが新たに調合してくれた強力な気付け薬。
そして、迷宮探索に不可欠な、詳細な地図(ギルドで購入したもの)と、多めの松明、ロープ。

アルトは、王都の一角にある、古代迷宮への入り口へと向かった。
ひんやりとした石造りの階段が、地下深くへと続いている。
地上とは全く違う、湿った、そしてどこか古びた、独特の匂いが漂ってくる。
壁には、等間隔で魔法の灯り(あるいは松明)が灯されているが、通路の奥は深い闇に包まれており、底知れぬ不気味さを感じさせた。

地図を頼りに、アルトは迷宮の中を慎重に進んでいく。
複雑に入り組んだ通路、時折現れる不気味な石像、そして壁に残る、意味不明な古代文字。
時折、遠くから、巨大な獣の唸り声のようなものが、壁に反響して聞こえてくる。
それが、目的のミノタウロスのものだろうか。
緊張感が高まる。

そして、ついにアルトは、依頼書に示された第3区画、少し開けた円形の広間のような場所にたどり着いた。
その広間の中央に、それはいた。

身長は3メートル近くあろうかという、筋骨隆々の、まさに怪物と呼ぶにふさわしい巨体。
筋肉の盛り上がった人間のような体に、獰猛な牛の頭部。
その二本の巨大な角は、鋭く尖り、壁を容易く砕いてしまいそうなほどの威圧感を放っている。
そして、その両手には、人間の背丈ほどもある、巨大な両刃斧(ラビュリス)が、鈍い光を放ちながら握られていた。
迷宮の主、ミノタウロス。
その赤い目が、侵入者であるアルトを確かに捉え、獰猛な殺気を迸らせる!

「モォォォォォーーーーーッ!!」

迷宮全体を震わせるかのような、凄まじい咆哮。
ミノタウロスは、その巨体に見合わぬほどの俊敏さで地を蹴り、ラビュリスを振り上げながら、アルトに向かって突進してきた!

(来た…!)

アルトは、黒曜の剣とバックラーを構え、迫り来る圧倒的な脅威に備える。

この迷宮の主を相手に、アルトはどこまで戦えるのか。
彼の真価が、再び試される。
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