18 / 22
第十八話:月影の奇襲、そして王宮に響く鉄と魔法
しおりを挟む
王都アヴァロンを包囲する魔物の群れと、『黒き月の結社』の不気味な魔力結界。
その鉄壁とも思える布陣に対し、レオンハルト辺境伯が下した決断は、フィリアの知識と勇気を鍵とする、大胆不敵な奇襲作戦だった。
決行は、月が最も細くなる新月の前夜。
深い闇が、潜入部隊の姿を隠してくれるはずだ。
フィリアは、レオンハルト、騎士団長のゲルハルト、そして選りすぐられた十数名の精鋭騎士と共に、夜陰に紛れて王宮の地下水路へと繋がるという秘密の通路の入り口へと向かった。
その通路は、王宮の古い庭園の、今はもう誰も近づかない荒れ果てた一角に、苔むした石像に隠されるようにして存在していた。
「……ここですわ。幼い頃、一度だけ迷い込んだことがございます。確か、この石像の台座の一部を動かすと……」
フィリアは、記憶を頼りに石像の台座に手をかけ、ある特定の模様が刻まれた部分を押し込んだ。
ゴゴゴ……という低い音と共に、地面の一部が静かにずれ動き、地下へと続く暗い階段が現れた。
「素晴らしい……本当にあったとは。」
ゲルハルトが感嘆の声を漏らす。
フィリアは、懐から取り出した小さな水晶の小瓶――聖なる力を持つとされる植物から抽出した、清浄な芳香を放つ金色の香油――を染み込ませた布を、騎士たちに手渡した。
「この香りを、通路の要所要所に置いていってください。そして、王宮内に到達したら、できる限りこの香りを拡散させるのです。『黒き月の結社』の魔術師たちの闇の魔力は、聖なる香気に弱いと古文書にありました。完全に無力化はできなくとも、彼らの力を削ぐことはできるはずです。」
騎士たちは、フィリアの言葉に力強く頷き、香油の布を手に、次々と暗い通路へと降りていく。
レオンハルトは、最後にフィリアの手を強く握った。
「フィリア、君も十分に気をつけるんだ。決して無理はするな。」
「はい、レオンハルト様もご武運を。」
二人は、互いの瞳に宿る決意を確かめ合うと、静かに頷き合った。
同じ頃、王都アヴァロンの城門の外では、辺境伯軍の主力が、陽動のための攻撃準備を完了させていた。
約束の時刻。
夜空に、一本の赤い火矢が高く打ち上げられる。
それを合図に、辺境伯軍は一斉に鬨の声を上げ、魔法の光弾や投石器の石弾を城門へと叩きつけ始めた。
轟音と共に、城壁の一部が崩れ、守備についていた魔物たちが混乱し、その注意は完全に城門へと引きつけられた。
「来たか……!」
地下通路を進んでいたレオンハルトは、遠く響く戦闘の音を聞き、静かに呟いた。
そして、フィリアの指示通りに設置された香油の布から立ち昇る清浄な香りが、地下通路を満たし、やがて王宮の深部へと流れ込み始める。
その効果は、予想以上だった。
王宮内で魔力の結界を維持し、あるいは新たな魔物を召喚しようとしていた『黒き月の結社』の魔術師たちが、次々と原因不明の頭痛や吐き気、そして魔力の著しい減退を訴え始めたのだ。
「ぐっ……な、何だこの香りは……力が……!」
「結界が……結界が弱まっているぞ!」
彼らの間に動揺が広がり、王宮内の守備体制に、明らかな綻びが生じ始めた。
「今だ!突入する!」
レオンハルトの号令一下、潜入部隊は地下通路から王宮の一階へと躍り出た。
そこは、かつてフィリアが慣れ親しんだ、美しいタペストリーが飾られた回廊だったが、今は薄暗く、不気味な魔力の残滓が漂っている。
「敵襲!敵襲だ!」
異変に気づいたエルドラード兵や、弱体化しつつも抵抗を試みる『黒き月の結社』の魔術師たちが、次々と潜入部隊の前に立ちはだかった。
しかし、レオンハルトとゲルハルト、そして選りすぐりの騎士たちの武勇は圧倒的だった。
レオンハルトの振るう長剣は、闇を切り裂く稲妻のように煌めき、ゲルハルトの戦斧は、敵兵の盾ごと叩き割る。
騎士たちもまた、主君の背中を守り、一糸乱れぬ連携で敵を打ち破っていく。
フィリアは、直接的な戦闘には加わらなかったが、常にレオンハルトの傍近くに位置し、その知識と機転で彼らをサポートした。
「レオンハルト様、その先の角を曲がったところに、衛兵の詰め所が!おそらく数人の伏兵がおります!」
「ゲルハルト様、あの魔術師の詠唱……恐らくは幻覚系の魔法ですわ!目を閉じて、気配を頼りに!」
時には、懐から取り出した薬草の粉末を投げつけ、敵の視界を奪ったり、あるいは負傷した騎士に素早く応急手当を施したりと、彼女の存在は、潜入部隊にとってなくてはならないものとなっていた。
一方、王宮の最上階にある玉座の間では、セレスティア王女とアルフレッド元王子が、城門への攻撃と、王宮内部からの不審な物音に、パニックを起こしていた。
「な、何なのよ一体!魔物たちはどうしたの!?『黒き月の結社』の魔術師たちは、ちゃんと戦っているの!?」
セレスティアは、美しい顔を恐怖に歪ませ、金切り声を上げる。
「落ち着け、セレスティア!きっと、ただの陽動だ!我々には、まだ『黒き月の結社』の切り札がある……はずだ……」
アルフレッドは強がりを言いつつも、その声は明らかに震えていた。
彼らの浅はかな計算と、自己中心的な欲望は、今まさに破綻しようとしていた。
その二人を、玉座の影から冷ややかに見つめる一人の人物がいた。
漆黒のローブを深く被り、その顔を窺い知ることはできないが、その体からは禍々しいほどの魔力が放たれている。
『黒き月の結社』の、おそらくは高位の指導者なのだろう。
「……使えぬ駒どもめ。だが、まあ良い。計画の最終段階に、多少の騒ぎはつきものだ。」
ローブの人物は、そう呟くと、静かに闇の中へと姿を消した。
潜入部隊は、次々と現れる敵を打ち破りながら、ついに国王の寝室がある区画へと到達した。
その重厚な扉の前には、数人の屈強な『黒き月の結社』の魔術師が、最後の守りとして立ちはだかっていた。
彼らは、フィリアの香油の効果で弱ってはいたものの、その瞳には狂信的な光が宿っている。
「我らが主の邪魔はさせぬ!」
魔術師たちが、一斉に闇の魔法を放とうとした、その瞬間。
「そこまでですわ!」
フィリアが、凛とした声で叫んだ。
そして、彼女は懐から取り出した、小さな銀の笛を吹き鳴らした。
その笛の音は、人間には心地よい調べにしか聞こえないが、『黒き月の結社』の魔術師たちにとっては、脳髄を直接かき乱されるかのような、耐え難い苦痛をもたらすものだった。
それは、フィリアが古文書で見つけた、闇の魔術を中和するとされる、特殊な音波を発する笛だったのだ。
「ぐあああああっ!」
魔術師たちは、頭を押さえてその場に崩れ落ち、戦闘能力を完全に失った。
「……フィリア、君は本当に……」
レオンハルトは、驚きと称賛の入り混じった表情でフィリアを見つめた。
そして、彼らはついに、国王の寝室の扉を開け放った。
薄暗い部屋の中、天蓋付きの大きなベッドの上には、フィリアの父であるエルドラード国王が、まるで抜け殻のように横たわっていた。
その顔は土気色で、呼吸も弱々しく、意識も混濁しているようだ。
「父上……!」
フィリアが、思わず駆け寄ろうとした、その時。
部屋の奥の暗がりから、ゆらりと一つの人影が姿を現した。
それは、先程玉座の間から姿を消した、漆黒のローブをまとった人物だった。
その手には、禍々しい輝きを放つ、黒水晶の杖が握られている。
「……ようやくお出ましか、ネズミどもめ。だが、少しばかり遅かったようだな。王の魂は、既に我が手の中よ。」
ローブの人物は、くぐもった、しかし底知れぬ悪意に満ちた声でそう言うと、フィリアとレオンハルトの前に、ゆっくりと立ちはだかった。
そのフードの奥から覗く瞳は、人間のものではないかのように、赤く不気味に輝いていた。
その鉄壁とも思える布陣に対し、レオンハルト辺境伯が下した決断は、フィリアの知識と勇気を鍵とする、大胆不敵な奇襲作戦だった。
決行は、月が最も細くなる新月の前夜。
深い闇が、潜入部隊の姿を隠してくれるはずだ。
フィリアは、レオンハルト、騎士団長のゲルハルト、そして選りすぐられた十数名の精鋭騎士と共に、夜陰に紛れて王宮の地下水路へと繋がるという秘密の通路の入り口へと向かった。
その通路は、王宮の古い庭園の、今はもう誰も近づかない荒れ果てた一角に、苔むした石像に隠されるようにして存在していた。
「……ここですわ。幼い頃、一度だけ迷い込んだことがございます。確か、この石像の台座の一部を動かすと……」
フィリアは、記憶を頼りに石像の台座に手をかけ、ある特定の模様が刻まれた部分を押し込んだ。
ゴゴゴ……という低い音と共に、地面の一部が静かにずれ動き、地下へと続く暗い階段が現れた。
「素晴らしい……本当にあったとは。」
ゲルハルトが感嘆の声を漏らす。
フィリアは、懐から取り出した小さな水晶の小瓶――聖なる力を持つとされる植物から抽出した、清浄な芳香を放つ金色の香油――を染み込ませた布を、騎士たちに手渡した。
「この香りを、通路の要所要所に置いていってください。そして、王宮内に到達したら、できる限りこの香りを拡散させるのです。『黒き月の結社』の魔術師たちの闇の魔力は、聖なる香気に弱いと古文書にありました。完全に無力化はできなくとも、彼らの力を削ぐことはできるはずです。」
騎士たちは、フィリアの言葉に力強く頷き、香油の布を手に、次々と暗い通路へと降りていく。
レオンハルトは、最後にフィリアの手を強く握った。
「フィリア、君も十分に気をつけるんだ。決して無理はするな。」
「はい、レオンハルト様もご武運を。」
二人は、互いの瞳に宿る決意を確かめ合うと、静かに頷き合った。
同じ頃、王都アヴァロンの城門の外では、辺境伯軍の主力が、陽動のための攻撃準備を完了させていた。
約束の時刻。
夜空に、一本の赤い火矢が高く打ち上げられる。
それを合図に、辺境伯軍は一斉に鬨の声を上げ、魔法の光弾や投石器の石弾を城門へと叩きつけ始めた。
轟音と共に、城壁の一部が崩れ、守備についていた魔物たちが混乱し、その注意は完全に城門へと引きつけられた。
「来たか……!」
地下通路を進んでいたレオンハルトは、遠く響く戦闘の音を聞き、静かに呟いた。
そして、フィリアの指示通りに設置された香油の布から立ち昇る清浄な香りが、地下通路を満たし、やがて王宮の深部へと流れ込み始める。
その効果は、予想以上だった。
王宮内で魔力の結界を維持し、あるいは新たな魔物を召喚しようとしていた『黒き月の結社』の魔術師たちが、次々と原因不明の頭痛や吐き気、そして魔力の著しい減退を訴え始めたのだ。
「ぐっ……な、何だこの香りは……力が……!」
「結界が……結界が弱まっているぞ!」
彼らの間に動揺が広がり、王宮内の守備体制に、明らかな綻びが生じ始めた。
「今だ!突入する!」
レオンハルトの号令一下、潜入部隊は地下通路から王宮の一階へと躍り出た。
そこは、かつてフィリアが慣れ親しんだ、美しいタペストリーが飾られた回廊だったが、今は薄暗く、不気味な魔力の残滓が漂っている。
「敵襲!敵襲だ!」
異変に気づいたエルドラード兵や、弱体化しつつも抵抗を試みる『黒き月の結社』の魔術師たちが、次々と潜入部隊の前に立ちはだかった。
しかし、レオンハルトとゲルハルト、そして選りすぐりの騎士たちの武勇は圧倒的だった。
レオンハルトの振るう長剣は、闇を切り裂く稲妻のように煌めき、ゲルハルトの戦斧は、敵兵の盾ごと叩き割る。
騎士たちもまた、主君の背中を守り、一糸乱れぬ連携で敵を打ち破っていく。
フィリアは、直接的な戦闘には加わらなかったが、常にレオンハルトの傍近くに位置し、その知識と機転で彼らをサポートした。
「レオンハルト様、その先の角を曲がったところに、衛兵の詰め所が!おそらく数人の伏兵がおります!」
「ゲルハルト様、あの魔術師の詠唱……恐らくは幻覚系の魔法ですわ!目を閉じて、気配を頼りに!」
時には、懐から取り出した薬草の粉末を投げつけ、敵の視界を奪ったり、あるいは負傷した騎士に素早く応急手当を施したりと、彼女の存在は、潜入部隊にとってなくてはならないものとなっていた。
一方、王宮の最上階にある玉座の間では、セレスティア王女とアルフレッド元王子が、城門への攻撃と、王宮内部からの不審な物音に、パニックを起こしていた。
「な、何なのよ一体!魔物たちはどうしたの!?『黒き月の結社』の魔術師たちは、ちゃんと戦っているの!?」
セレスティアは、美しい顔を恐怖に歪ませ、金切り声を上げる。
「落ち着け、セレスティア!きっと、ただの陽動だ!我々には、まだ『黒き月の結社』の切り札がある……はずだ……」
アルフレッドは強がりを言いつつも、その声は明らかに震えていた。
彼らの浅はかな計算と、自己中心的な欲望は、今まさに破綻しようとしていた。
その二人を、玉座の影から冷ややかに見つめる一人の人物がいた。
漆黒のローブを深く被り、その顔を窺い知ることはできないが、その体からは禍々しいほどの魔力が放たれている。
『黒き月の結社』の、おそらくは高位の指導者なのだろう。
「……使えぬ駒どもめ。だが、まあ良い。計画の最終段階に、多少の騒ぎはつきものだ。」
ローブの人物は、そう呟くと、静かに闇の中へと姿を消した。
潜入部隊は、次々と現れる敵を打ち破りながら、ついに国王の寝室がある区画へと到達した。
その重厚な扉の前には、数人の屈強な『黒き月の結社』の魔術師が、最後の守りとして立ちはだかっていた。
彼らは、フィリアの香油の効果で弱ってはいたものの、その瞳には狂信的な光が宿っている。
「我らが主の邪魔はさせぬ!」
魔術師たちが、一斉に闇の魔法を放とうとした、その瞬間。
「そこまでですわ!」
フィリアが、凛とした声で叫んだ。
そして、彼女は懐から取り出した、小さな銀の笛を吹き鳴らした。
その笛の音は、人間には心地よい調べにしか聞こえないが、『黒き月の結社』の魔術師たちにとっては、脳髄を直接かき乱されるかのような、耐え難い苦痛をもたらすものだった。
それは、フィリアが古文書で見つけた、闇の魔術を中和するとされる、特殊な音波を発する笛だったのだ。
「ぐあああああっ!」
魔術師たちは、頭を押さえてその場に崩れ落ち、戦闘能力を完全に失った。
「……フィリア、君は本当に……」
レオンハルトは、驚きと称賛の入り混じった表情でフィリアを見つめた。
そして、彼らはついに、国王の寝室の扉を開け放った。
薄暗い部屋の中、天蓋付きの大きなベッドの上には、フィリアの父であるエルドラード国王が、まるで抜け殻のように横たわっていた。
その顔は土気色で、呼吸も弱々しく、意識も混濁しているようだ。
「父上……!」
フィリアが、思わず駆け寄ろうとした、その時。
部屋の奥の暗がりから、ゆらりと一つの人影が姿を現した。
それは、先程玉座の間から姿を消した、漆黒のローブをまとった人物だった。
その手には、禍々しい輝きを放つ、黒水晶の杖が握られている。
「……ようやくお出ましか、ネズミどもめ。だが、少しばかり遅かったようだな。王の魂は、既に我が手の中よ。」
ローブの人物は、くぐもった、しかし底知れぬ悪意に満ちた声でそう言うと、フィリアとレオンハルトの前に、ゆっくりと立ちはだかった。
そのフードの奥から覗く瞳は、人間のものではないかのように、赤く不気味に輝いていた。
193
あなたにおすすめの小説
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です
有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。
ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。
高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。
モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。
高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。
「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」
「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」
そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。
――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。
この作品は他サイトにも掲載しています。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。
木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。
不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。
当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。
多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。
しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。
その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。
私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。
それは、先祖が密かに残していた遺産である。
驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。
そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。
それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。
彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。
しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。
「今更、掌を返しても遅い」
それが、私の素直な気持ちだった。
※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)
婚約破棄には婚約破棄を
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『目には目を歯には歯を、婚約破棄には婚約破棄を』
サヴィル公爵家の長女ヒルダはメクスバラ王家の第一王子メイナードと婚約していた。だが王妃の座を狙う異母妹のヘーゼルは色情狂のメイナード王子を誘惑してモノにしていた。そして王侯貴族が集まる舞踏会でヒルダに冤罪を着せて婚約破棄追放刑にする心算だった。だがそれはヒルダに見破られていたのだった。
旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?
木山楽斗
恋愛
英雄の血を引くリメリアは、若くして家を継いだ伯爵の元に嫁いだ。
若さもあってか血気盛んな伯爵は、失言や失敗も多かったが、それでもリメリアは彼を支えるために働きかけていた。
英雄の血を引く彼女の存在には、単なる伯爵夫人以上の力があり、リメリアからの謝罪によって、ことが解決することが多かったのだ。
しかし伯爵は、ある日リメリアに離婚を言い渡した。
彼にとって、自分以上に評価されているリメリアは邪魔者だったのだ。
だが、リメリアという強力な存在を失った伯爵は、落ちぶれていくことになった。彼女の影響力を、彼はまったく理解していなかったのだ。
ソロキャンする武装系女子ですが婚約破棄されたので傷心の旅に出たら——?
ルーシャオ
恋愛
ソロキャンする武装系女子ですが婚約破棄されたので傷心の旅に出たら——?
モーリン子爵家令嬢イグレーヌは、双子の姉アヴリーヌにおねだりされて婚約者を譲り渡す羽目に。すっかり姉と婚約者、それに父親に呆れてイグレーヌは別荘で静養中の母のもとへ一人旅をすることにした。ところが途中、武器を受け取りに立ち寄った騎士領で騎士ブルックナーから騎士見習い二人を同行させて欲しいと頼まれる。
そのころ、イグレーヌの従姉妹であり友人のド・ベレト公女マリアンはイグレーヌの扱いに憤慨し、アヴリーヌと婚約者へとある謀略を仕掛ける。そして、宮廷舞踏会でしっかりと謀略の種は花開くことに——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる