【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

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赤い帽子

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なあ、俺、最近マジでヤバいのに遭遇してるかもしんないんだ。

いや、遭遇してるっていうか、一方的に「見られてる」だけなのかもしれないけど…。

先週の水曜、昼過ぎだったかな。

横浜の、普段よく行く、ちょっと大きめの公園でさ。

天気が良かったから、ベンチで本でも読もうと思ってたんだ。

その公園、結構広くて、平日の昼間でも、散歩してる人とか、休憩してるサラリーマンとか、まあまあ人がいるんだよ。

で、俺がベンチに座って本を広げたら、少し離れた、芝生の隅の方に、一人の男が座ってるのが目に入った。

赤い、野球帽みたいな帽子を深く被ってて、顔はよく見えない。

服装は、地味なグレーのパーカーに、ジーンズ。

特に変わったところはないんだけど、その男、何か、スケッチブックみたいなのを広げて、熱心に絵を描いてるみたいだった。

まあ、公園で絵を描いてる人なんて、別に珍しくもないよな。

そう思って、最初は気にも留めてなかった。

でも、次の日も、その次の日も、俺が同じ時間に公園に行くと、必ず、その男がいるんだ。

いつも同じ場所、芝生の隅。

いつも赤い帽子。

いつもスケッチブックに何かを描いてる。

そして、いつも、ピクリとも動かない。

まるで、風景の一部みたいに、そこに「固定」されてる感じ。

さすがに、ちょっと気味悪くなってきた。

でも、直接何かしてくるわけじゃないし、俺が見てるのに気づいてる様子もない。

ただ、ひたすら、何かを描き続けてる。

それが、一週間くらい続いたかな。

で、昨日のことなんだ。

また、同じ時間に公園に行って、いつものベンチに座った。

赤い帽子の男は、やっぱり、いつもの場所にいた。

俺、もう、怖さ半分、好奇心半分で、今日は、あいつが何を描いてるのか、ちょっと遠くからでも見てやろうって思ったんだ。

本を読むふりしながら、チラチラ、男の方を観察してた。

そしたら、男が、ふと、顔を上げたんだ。

赤い帽子のつばで、顔はやっぱりよく見えない。

でも、その顔が、ゆっくりと、こっちを向いたのが分かった。

俺、咄嗟に目を逸らした。

心臓が、ドクドクいってる。

ヤバい、気づかれた?

恐る恐る、もう一度、男の方を見た。

男は、また、下を向いて、スケッチブックに何かを描き始めてた。

気のせいだったか…?

ホッとしたのも束の間。

男が、また、顔を上げた。

そして、今度は、はっきりと、俺の方を、じっと見てる。

帽子の下の、暗い影になった顔。

その奥で、目が光ったような気がした。

俺は、もう、固まって動けなかった。

男は、しばらく俺をじっと見てたけど、やがて、またスケッチブックに視線を落として、何かを描き始めた。

そして、数分後。

男は、ゆっくりと立ち上がって、スケッチブックを脇に抱え、公園の出口の方へ歩き去っていった。

いつも、俺が帰る時間より、ずっと早い。

俺、なんか、嫌な予感がして。

男がいなくなった後、恐る恐る、男がいつも座ってた、芝生の隅へ近づいてみたんだ。

何か、落ちてないかな、って。

そしたら、あった。

男が座ってた場所に、一枚の紙切れが、石で押さえて置いてあった。

スケッチブックから、破り取ったみたいな、ザラザラした紙。

震える手で、それを拾い上げてみた。

そこには、鉛筆で、何かが描かれてた。

それは———。

俺だった。

公園のベンチに座って、本を読んでる、俺の姿。

構図も、服装も、間違いなく、さっきまでの俺。

でも、その絵の中の俺は、顔が、ぐちゃぐちゃに黒く塗りつぶされてて。

そして、その首には、太い、黒い縄が、何重にも巻き付いてる。

まるで、絞首刑にでも処されるみたいに。

俺は、その絵を見た瞬間、声にならない悲鳴を上げて、紙切れをその場に叩きつけた。

そして、全力で、公園から逃げ出した。

あれは、何なんだよ!?

あの男は、一体、何者なんだ!?

なんで、俺の絵を? あんな、不吉な絵を?

今、俺は、自分の部屋にいるけど、窓の外を見るのが怖い。

あの赤い帽子の男が、どこかから、俺を見てるんじゃないかって。

あのスケッチブックに、また、俺の「次」の姿を、描いてるんじゃないかって。

なあ、これ、ただのイタズラだと思うか…?

俺は、もう、あの公園には、二度と行けない。
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