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公衆電話
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俺が今住んでるアパートの近くに、使われてんのかどうかも分かんないような、古い公衆電話ボックスがあるんだ。
周りはちょっとした空き地みたいになってて、雑草も生い茂っててさ。
近所の人に聞いたら、「ああ、あそこの電話? たまに夜中に鳴ってるみたいだけど、絶対に出ちゃダメだよ。昔から、出たら良くないことが起きるって言われてるからねぇ…」なんて、真顔で言うんだよ。
まあ、都市伝説みたいなもんだろって、その時は気にも留めてなかった。
それが、先週の水曜日の昼過ぎ。
たまたまその空き地の前を通りかかったら、
——— ジリリリリリリン! ジリリリリリリン!
って、いきなり、あの公衆電話が、けたたましく鳴り出したんだ。
周りには誰もいない。昼間なのに、なんか、その音だけがやけに大きく響いてて。
「絶対に出るな」って言葉が頭をよぎったんだけど、なんか、こう、魔が差したっていうか…。
それに、昼間だし、大丈夫だろ、みたいな。
俺、吸い寄せられるように電話ボックスに入って、受話器を取っちまったんだ。
「……もしもし?」
シー……ン。
向こうは、何も言わない。ただ、微かに、ザー…っていうノイズが聞こえるだけ。
イタズラか? と思って、切ろうとした瞬間、
『………みぃ、つけた………』
って、息みたいな、掠れた、低い声が、鼓膜に直接響いてきた。
ゾッとして、俺、慌てて受話器を叩きつけるように置いた。
なんだよ、今の…。気味悪ぃ…。
その日は、それで終わりだと思ってた。
夜。自分の部屋で寝ようとしたら、スマホが鳴った。
非通知表示。こんな時間に誰だよ、って思いながら出ると、
『…………あと、ろく…………』
あの、公衆電話と同じ、息みたいな声。
「ろく」って何だよ!?
すぐに切れた。間違い電話? いや、あの声は…。
次の日も、同じ時間に、非通知でかかってきた。
『…………あと、ご…………』
その次の日も。
『…………あと、よん…………』
毎日、一人ずつ、確実に、数が減っていく。
着信拒否しても、番号変えても、なぜか、かかってくる。
家の固定電話にかかってきたこともあった。
その声を聞くたびに、体中の血の気が引いて、心臓が冷たくなるんだ。
それだけじゃない。
部屋に一人でいると、ふと、視線を感じる。
窓の外、カーテンの隙間、暗い廊下の隅。そこに、黒くて、背の高い、のっぺりとした顔の「何か」が、一瞬だけ見えて、すぐに消える。
眠ろうとすると、耳元で、あの息みたいな声で、フフ…って、笑い声が聞こえる。
数字が一つ減るごとに、その気配は、どんどん濃く、近くなってきてる気がした。
もう、飯も喉を通らない。眠れない。鏡を見ると、自分の顔が、生気なく、土気色になってる。
あの公衆電話を壊しに行こうかとも思った。でも、そんなことしたら、もっとヤバいことになるんじゃないかって、怖くてできなかった。
そして、ついに、昨日の夜。
スマホが鳴った。分かってる。これが、最後から二番目の電話だ。
『…………あと、いち…………』
声は、もう、すぐ隣で囁かれてるみたいに、はっきりしてた。
俺は、部屋の隅で、毛布にくるまって、ガタガタ震えてた。
もう、ダメだ。次で、終わりだ。
「いち」の次は、「ゼロ」。俺は、どうなるんだ…?
日付が変わって、水曜日の深夜。
ついに、スマホが、最後の着信を告げた。
もう、抵抗する気力もなかった。俺は、震える手で、通話ボタンを押した。
『………………………………おまえだ』
はっきりと、すぐ耳元で、冷たい喜びに満ちたような声が、そう言った。
直後、スマホから、今まで聞いたこともないような、耳を裂くようなノイズと、無数の人間の悲鳴みたいな音、ケタケタという甲高い笑い声が、一気に溢れ出した!
——— ドンドン!ドン!ドン!!!
同時に、アパートの玄関のドアが、外から、ものすごい勢いで叩かれた!
ヤバい! 来た!
俺は、這うようにしてドアの覗き穴に近づき、震えながら、外を覗いた。
そこには—————。
覗き穴いっぱいに、巨大な、血走った、一つの「目」が、映っていた。
その目は、人間のものではなかった。爬虫類のような、縦に裂けた瞳孔。
そして、その目の周りには、歪に吊り上がった、巨大な口元が見えた。
それは、間違いなく、嗤っていた。
俺は、そこで、意識が飛んだ。
…気がついたら、朝だった。
部屋は、何も変わってない。ドアも、破られてない。
スマホは、床に落ちてて、画面が割れてたけど、電源は入ってた。
着信履歴には、「非通知」の表示が、昨夜の時刻で、一つだけ。
あれは、夢だったのか…?
でも、あの、覗き穴いっぱいの「目」の感触。あの、耳を劈く音。
あれは、絶対に、現実だった。
今、俺の部屋のドアは、内側から、ありったけの家具でバリケードしてある。
でも、意味ないよな。
だって、あの声は言ったんだ。
『おまえだ』って。
次、ドアが叩かれたら。
次、あの電話が、どこかで鳴ったら。
俺は、もう—————。
周りはちょっとした空き地みたいになってて、雑草も生い茂っててさ。
近所の人に聞いたら、「ああ、あそこの電話? たまに夜中に鳴ってるみたいだけど、絶対に出ちゃダメだよ。昔から、出たら良くないことが起きるって言われてるからねぇ…」なんて、真顔で言うんだよ。
まあ、都市伝説みたいなもんだろって、その時は気にも留めてなかった。
それが、先週の水曜日の昼過ぎ。
たまたまその空き地の前を通りかかったら、
——— ジリリリリリリン! ジリリリリリリン!
って、いきなり、あの公衆電話が、けたたましく鳴り出したんだ。
周りには誰もいない。昼間なのに、なんか、その音だけがやけに大きく響いてて。
「絶対に出るな」って言葉が頭をよぎったんだけど、なんか、こう、魔が差したっていうか…。
それに、昼間だし、大丈夫だろ、みたいな。
俺、吸い寄せられるように電話ボックスに入って、受話器を取っちまったんだ。
「……もしもし?」
シー……ン。
向こうは、何も言わない。ただ、微かに、ザー…っていうノイズが聞こえるだけ。
イタズラか? と思って、切ろうとした瞬間、
『………みぃ、つけた………』
って、息みたいな、掠れた、低い声が、鼓膜に直接響いてきた。
ゾッとして、俺、慌てて受話器を叩きつけるように置いた。
なんだよ、今の…。気味悪ぃ…。
その日は、それで終わりだと思ってた。
夜。自分の部屋で寝ようとしたら、スマホが鳴った。
非通知表示。こんな時間に誰だよ、って思いながら出ると、
『…………あと、ろく…………』
あの、公衆電話と同じ、息みたいな声。
「ろく」って何だよ!?
すぐに切れた。間違い電話? いや、あの声は…。
次の日も、同じ時間に、非通知でかかってきた。
『…………あと、ご…………』
その次の日も。
『…………あと、よん…………』
毎日、一人ずつ、確実に、数が減っていく。
着信拒否しても、番号変えても、なぜか、かかってくる。
家の固定電話にかかってきたこともあった。
その声を聞くたびに、体中の血の気が引いて、心臓が冷たくなるんだ。
それだけじゃない。
部屋に一人でいると、ふと、視線を感じる。
窓の外、カーテンの隙間、暗い廊下の隅。そこに、黒くて、背の高い、のっぺりとした顔の「何か」が、一瞬だけ見えて、すぐに消える。
眠ろうとすると、耳元で、あの息みたいな声で、フフ…って、笑い声が聞こえる。
数字が一つ減るごとに、その気配は、どんどん濃く、近くなってきてる気がした。
もう、飯も喉を通らない。眠れない。鏡を見ると、自分の顔が、生気なく、土気色になってる。
あの公衆電話を壊しに行こうかとも思った。でも、そんなことしたら、もっとヤバいことになるんじゃないかって、怖くてできなかった。
そして、ついに、昨日の夜。
スマホが鳴った。分かってる。これが、最後から二番目の電話だ。
『…………あと、いち…………』
声は、もう、すぐ隣で囁かれてるみたいに、はっきりしてた。
俺は、部屋の隅で、毛布にくるまって、ガタガタ震えてた。
もう、ダメだ。次で、終わりだ。
「いち」の次は、「ゼロ」。俺は、どうなるんだ…?
日付が変わって、水曜日の深夜。
ついに、スマホが、最後の着信を告げた。
もう、抵抗する気力もなかった。俺は、震える手で、通話ボタンを押した。
『………………………………おまえだ』
はっきりと、すぐ耳元で、冷たい喜びに満ちたような声が、そう言った。
直後、スマホから、今まで聞いたこともないような、耳を裂くようなノイズと、無数の人間の悲鳴みたいな音、ケタケタという甲高い笑い声が、一気に溢れ出した!
——— ドンドン!ドン!ドン!!!
同時に、アパートの玄関のドアが、外から、ものすごい勢いで叩かれた!
ヤバい! 来た!
俺は、這うようにしてドアの覗き穴に近づき、震えながら、外を覗いた。
そこには—————。
覗き穴いっぱいに、巨大な、血走った、一つの「目」が、映っていた。
その目は、人間のものではなかった。爬虫類のような、縦に裂けた瞳孔。
そして、その目の周りには、歪に吊り上がった、巨大な口元が見えた。
それは、間違いなく、嗤っていた。
俺は、そこで、意識が飛んだ。
…気がついたら、朝だった。
部屋は、何も変わってない。ドアも、破られてない。
スマホは、床に落ちてて、画面が割れてたけど、電源は入ってた。
着信履歴には、「非通知」の表示が、昨夜の時刻で、一つだけ。
あれは、夢だったのか…?
でも、あの、覗き穴いっぱいの「目」の感触。あの、耳を劈く音。
あれは、絶対に、現実だった。
今、俺の部屋のドアは、内側から、ありったけの家具でバリケードしてある。
でも、意味ないよな。
だって、あの声は言ったんだ。
『おまえだ』って。
次、ドアが叩かれたら。
次、あの電話が、どこかで鳴ったら。
俺は、もう—————。
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