69 / 106
白昼夢
しおりを挟む
なあ、俺、最近ちょっとおかしいんだ。
いや、おかしいのは、俺が見てる「世界」の方なのかもしれないけど…。
先週の金曜日、昼過ぎだった。
神戸の元町商店街を、一人でぶらぶら歩いてたんだ。
天気も良くて、人もそこそこ多くて、まあ、いつもの週末前の、ちょっと浮かれた感じの雰囲気。
それが、ふっと、変わった。
本当に、一瞬。
周りの音が、全部消えたんだ。
人々の話し声も、店のBGMも、遠くの車の音も、何もかも。
シーン…と、耳が痛くなるくらいの静寂。
そして、目の前を歩いてた人たちの動きが、カクン、カクン、って、コマ送りみたいに、ぎこちなくなった。
顔も、みんな、のっぺりとした、表情のないマネキンみたいに見えて。
え? と思った。
立ち止まって、周りを見回した。
世界から、色が抜けたみたいに、全体が、セピア色っていうか、古い写真みたいになってる。
空だけが、なぜか、毒々しいほどの、真っ赤な夕焼け空みたいに見えた。
昼間なのに。
「…なんだこれ…」
声を出そうとしたけど、喉が詰まって、音にならない。
体が、鉛みたいに重い。
数秒だったか、数十秒だったか。
ふっと、また、世界が元に戻った。
周りの音も、人々の動きも、色も、全部、いつも通り。
俺は、商店街の真ん中で、一人だけ、呆然と立ち尽くしてた。
なんだ、今の…? 立ちくらみか何か…?
その時は、そう思ったんだ。
疲れてるんだろうって。
でも、それから、毎日、同じようなことが、何度も起こるようになった。
最初は、ほんの数秒だった「おかしい世界」が、だんだん長くなってきてる。
そして、その「おかしい世界」の中で、何かを見るようになったんだ。
誰もいないはずの路地の奥に、黒くて、背の高い人影が、じっと立ってたり。
ショーウィンドウのガラスに、俺じゃない、知らない誰かの、苦悶に歪んだ顔が一瞬映ったり。
耳元で、誰もいないのに、
「…まだ、気づかないの…?」
って、女の人の、冷たい囁き声が聞こえたり。
その声が聞こえる時、決まって、どこからか、甘ったるい、線香みたいな匂いが漂ってくるんだ。
俺、もう、どっちが現実で、どっちが夢なのか、分からなくなってきた。
仕事中も、友達と飯食ってる時も、容赦なく、あの「おかしい世界」に引きずり込まれる。
その度に、あの黒い人影は、少しずつ、俺に近づいてきてる気がする。
あの囁き声も、だんだん、はっきりとした言葉になってきてる。
「…もうすぐ、迎えに行くからね…」
って。
昨日なんて、その「おかしい世界」の中で、自分の手を見たら、
指先が、黒く、炭みたいに、ボロボロ崩れていくのが見えた。
悲鳴を上げて、目を閉じたら、また、いつもの世界に戻ってたけど、
手のひらには、まだ、あの、炭の粉みたいな、黒い感触が残ってる気がするんだ。
これ、本当に、ただの白昼夢なのかな…?
それとも、俺は、もう、半分、あっちの世界に、足を踏み入れちまってるのかな…?
あの黒い人影が、次に現れた時。
あの声が、もっと近くで聞こえた時。
俺は、もう、こっちの世界に、戻って来れないんじゃないかって…。
なあ、誰か、教えてくれよ。
これは、夢なんだよな…?
俺は、まだ、大丈夫だよな…?
いや、おかしいのは、俺が見てる「世界」の方なのかもしれないけど…。
先週の金曜日、昼過ぎだった。
神戸の元町商店街を、一人でぶらぶら歩いてたんだ。
天気も良くて、人もそこそこ多くて、まあ、いつもの週末前の、ちょっと浮かれた感じの雰囲気。
それが、ふっと、変わった。
本当に、一瞬。
周りの音が、全部消えたんだ。
人々の話し声も、店のBGMも、遠くの車の音も、何もかも。
シーン…と、耳が痛くなるくらいの静寂。
そして、目の前を歩いてた人たちの動きが、カクン、カクン、って、コマ送りみたいに、ぎこちなくなった。
顔も、みんな、のっぺりとした、表情のないマネキンみたいに見えて。
え? と思った。
立ち止まって、周りを見回した。
世界から、色が抜けたみたいに、全体が、セピア色っていうか、古い写真みたいになってる。
空だけが、なぜか、毒々しいほどの、真っ赤な夕焼け空みたいに見えた。
昼間なのに。
「…なんだこれ…」
声を出そうとしたけど、喉が詰まって、音にならない。
体が、鉛みたいに重い。
数秒だったか、数十秒だったか。
ふっと、また、世界が元に戻った。
周りの音も、人々の動きも、色も、全部、いつも通り。
俺は、商店街の真ん中で、一人だけ、呆然と立ち尽くしてた。
なんだ、今の…? 立ちくらみか何か…?
その時は、そう思ったんだ。
疲れてるんだろうって。
でも、それから、毎日、同じようなことが、何度も起こるようになった。
最初は、ほんの数秒だった「おかしい世界」が、だんだん長くなってきてる。
そして、その「おかしい世界」の中で、何かを見るようになったんだ。
誰もいないはずの路地の奥に、黒くて、背の高い人影が、じっと立ってたり。
ショーウィンドウのガラスに、俺じゃない、知らない誰かの、苦悶に歪んだ顔が一瞬映ったり。
耳元で、誰もいないのに、
「…まだ、気づかないの…?」
って、女の人の、冷たい囁き声が聞こえたり。
その声が聞こえる時、決まって、どこからか、甘ったるい、線香みたいな匂いが漂ってくるんだ。
俺、もう、どっちが現実で、どっちが夢なのか、分からなくなってきた。
仕事中も、友達と飯食ってる時も、容赦なく、あの「おかしい世界」に引きずり込まれる。
その度に、あの黒い人影は、少しずつ、俺に近づいてきてる気がする。
あの囁き声も、だんだん、はっきりとした言葉になってきてる。
「…もうすぐ、迎えに行くからね…」
って。
昨日なんて、その「おかしい世界」の中で、自分の手を見たら、
指先が、黒く、炭みたいに、ボロボロ崩れていくのが見えた。
悲鳴を上げて、目を閉じたら、また、いつもの世界に戻ってたけど、
手のひらには、まだ、あの、炭の粉みたいな、黒い感触が残ってる気がするんだ。
これ、本当に、ただの白昼夢なのかな…?
それとも、俺は、もう、半分、あっちの世界に、足を踏み入れちまってるのかな…?
あの黒い人影が、次に現れた時。
あの声が、もっと近くで聞こえた時。
俺は、もう、こっちの世界に、戻って来れないんじゃないかって…。
なあ、誰か、教えてくれよ。
これは、夢なんだよな…?
俺は、まだ、大丈夫だよな…?
0
あなたにおすすめの小説
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
父の周りの人々が怪異に遭い過ぎてる件
帆足 じれ
ホラー
私に霊感はない。父にもない(と言いつつ、不思議な体験がないわけではない)。
だが、父の周りには怪異に遭遇した人々がそこそこいる。
父や当人、関係者達から聞いた、怪談・奇談を集めてみた。
父本人や作者の体験談もあり!
※思い出した順にゆっくり書いていきます。
※場所や個人が特定されないよう、名前はすべてアルファベット表記にし、事実から逸脱しない程度に登場人物の言動を一部再構成しております。
※小説家になろう様、Nolaノベル様にも同じものを投稿しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる