【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ

文字の大きさ
90 / 106

民宿の老婆

しおりを挟む
ふと、昔、バックパッカーやってた頃に泊まった、海外の安宿のこと思い出した。

あれは、マジで、洒落にならないくらい怖かったんだ…。

東南アジアの、とある国の、本当に辺鄙な田舎町だった。

ガイドブックにも載ってないような、小さな村。

その村で、一軒だけあった、古びた木造の民宿に泊まることにしたんだ。

一泊、日本円にして数百円くらいの、激安の宿。

宿の主人は、ほとんど言葉の通じない、無口な爺さんだった。

案内された部屋は、二階の、一番奥の薄暗い部屋。

まあ、値段が値段だし、文句は言えねえなって。

その部屋で、夜、寝ようとしたんだけど、なかなか寝付けなくてさ。

窓の外は、真っ暗で、虫の声と、遠くで犬が吠える声くらいしか聞こえない。

そしたら、隣の部屋から、

——— ギィ……ギィ……。

って、古い木の床が軋むような音が、ずっと聞こえてくるんだ。

誰か、部屋の中を、ゆっくりと、行ったり来たりしてるみたい。

まあ、安宿だし、壁も薄いんだろうなって。

でも、その足音が、妙に、一定のリズムで、しかも、全く途切れない。

まるで、何か、儀式でもやってるみたいに。

気味が悪いな、と思ってたら、今度は、

——— コツ…コツコツ…コツ……。

って、隣の部屋の壁を、内側から、軽く叩くような音が聞こえ始めた。

最初は、小さく。

でも、だんだん、その音が、大きくなってくる。

そして、明らかに、俺がいる、こっちの部屋の壁を叩いてる。

おいおい、なんだよ、って。

俺、イラっとして、こっちからも、壁をドン!って叩き返してやったんだ。

そしたら、隣の部屋の物音、ぴたりと止んだ。

なーんだ、やっぱり、ただの嫌がらせか、って。

安心して、また寝ようとした、その時。

——— ドンドンドン!!!

今度は、俺の部屋の「ドア」を、外から、ものすごい勢いで叩かれた!

心臓、飛び出るかと思ったよ。

「誰だ!?」って叫んだけど、返事はない。

ただ、ドアを、ガンガン叩く音だけが、響いてる。

そして、その叩く音の合間に、

——— ヒッヒッヒッ……。

って、甲高い、女の人の、引きつったような笑い声が聞こえるんだ。

もう、完全にパニック。

俺、ドアに鍵かけて、部屋の隅で、ガタガタ震えてた。

どれくらい時間が経ったか。

ふと、ドアを叩く音も、笑い声も、止んでるのに気づいた。

シーン…。

恐る恐る、ドアスコープから外を覗いてみた。

誰もいない。

暗い廊下が、続いてるだけ。

ホッとして、ドアから離れようとした、その瞬間。

ドアスコープの、向こう側。

廊下の暗闇の中に、

——— にゅっ、と、一つの「目」が現れたんだ。

真っ赤に充血した、大きな、老婆の目。

それが、ドアスコープのレンズに、ぴったりと張り付いて、

内側を、俺の部屋を、じろり、と覗き込んでいる。

俺は、もう、声も出なかった。

腰が抜けて、その場にへたり込んだ。

老婆の目は、しばらく、ドアスコープの向こうから、俺を睨みつけてたけど、

やがて、満足したのか、すっ、と消えた。

その夜は、もちろん一睡もできなかった。

朝になって、荷物をまとめて、宿の爺さんに文句言おうとしたけど、

爺さん、俺の顔見るなり、何も言わずに、宿泊費を突き返してきたんだ。

そして、一言だけ、現地の言葉で、何かを呟いた。

後で、別の町で、その言葉の意味を調べてもらったら、

それは、「もう来るな、客ではないものが目をつけた」みたいな意味だったらしい。

あの民宿には、一体、何がいたんだろうか。

あの、隣の部屋の気配。

ドアを叩いた、甲高い笑い声の女。

そして、最後に見た、あの、真っ赤な老婆の目…。

今でも、海外の、古びた安宿とか見ると、あの時のことを思い出して、

背筋が、ぞっとするんだ。

あの老婆の目は、今も、どこかで、誰かを、

ドアスコープの向こうから、覗いているのかもしれないって…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

きさらぎ駅

水野華奈
ホラー
親友から電話があった。 きさらぎ駅という場所にいるらしい… 日常の中の小さな恐怖が今始まる。 触れてしまったが最後。 二度と戻れない。

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

父の周りの人々が怪異に遭い過ぎてる件

帆足 じれ
ホラー
私に霊感はない。父にもない(と言いつつ、不思議な体験がないわけではない)。 だが、父の周りには怪異に遭遇した人々がそこそこいる。 父や当人、関係者達から聞いた、怪談・奇談を集めてみた。 父本人や作者の体験談もあり! ※思い出した順にゆっくり書いていきます。 ※場所や個人が特定されないよう、名前はすべてアルファベット表記にし、事実から逸脱しない程度に登場人物の言動を一部再構成しております。 ※小説家になろう様、Nolaノベル様にも同じものを投稿しています。

コウの怪異日誌

覧都
ホラー
主人公コウが経験する。不思議な体験記です。 不思議な出来事に興味がありましたら。 どうぞ。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...