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第九十一話:根の迷宮、共鳴する仲間(とも)
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聖山の地下深く、私とフレイヤさんは、光る地図が示す、次なる地点を目指していた。
あの魔術師の追撃を振り切ったとはいえ、安心はできない。
奴らは、必ず、また現れる。
私たちは、休息もそこそこに、先を急いだ。
通路は、徐々に、その様相を変えていった。
無機質な岩肌は、いつしか、巨大な、木の根のようなものに覆われ始めた。
まるで、太古の巨木の、その根の内部を、進んでいるかのようだ。
壁も、床も、天井も、全てが、複雑に絡み合った、石化したかのように硬い根でできている。
「……『根の迷宮』か」
フレイヤさんが、低い声で呟いた。
「この山に伝わる、古の聖域の一つだ。
一度、迷い込めば、二度と出られない、とも言われているが……」
「でも、地図は、確かに、この奥を指しています」
私の胸の中の二つの欠片もまた、この迷宮の中心に、強く、引かれている。
私たちは、慎重に、その、根が作り出す、天然の迷宮へと、足を踏み入れた。
道は、いくつにも分かれ、上下左右、複雑に入り組んでいる。
フレイヤさんが、わずかな空気の流れや、苔の生え方で、進むべき方向を探り、私が、力の共鳴を頼りに、その選択が正しいかどうかを、判断する。
完璧な、連携だった。
「……ミキ、止まれ」
不意に、フレイヤさんが、私の腕を掴んだ。
「……何か、いる」
彼女の、鋭い視線が、前方の、巨大な根が絡み合った、影の濃い場所を捉えている。
私も、感覚を研ぎ澄ます。
確かに、何か、土とも、木とも違う、異質な気配が、複数、潜んでいた。
「……来るぞ!」
フレイヤさんの叫びと同時に、私たちの周りの、根や、壁の一部が、まるで、生きているかのように、動き出した!
それは、木の根や、枝でできた、人形(ひとがた)の魔物。
『根歩き(ルートウォーカー)』とでも呼ぶべき存在だ。
その数は、四体。
音もなく、私たちを、包囲しようとしていた。
「散開して、各個撃破する!」
フレイヤさんが、指示を飛ばす!
彼女は、弓を放ちながら、一体の根歩きを、巧みに、開けた場所へと誘導していく。
残るは、三体!
一体が、その、木の枝のような腕を、鞭のようにしならせ、私に襲いかかってきた!
私は、幻惑魔法で、自分の足元に、燃え盛る炎の幻影を作り出す。
根歩きは、明らかに、炎を恐れたのか、一瞬だけ、動きを止めた。
その隙に、私は、聖なる光を纏わせた短剣を、その、胸の中心にある、節くれだった「核」のような部分へと、突き立てる!
「ギ……!」
根歩きは、声にならない悲鳴を上げ、その体から、聖なる光に焼かれるように、黒い煙を噴き出した。
動きが、鈍る!
そこへ、別の方向から、新たな根歩きが、私に迫る!
「ミキ、後ろ!」
フレイヤさんの声が聞こえるが、間に合わない!
そう、思った瞬間。
私の体が、勝手に、動いた。
体を、半回転させ、短剣を逆手に持ち、迫り来る根歩きの、振り下ろされた腕を、革の腕当てで受け止める!
そして、そのまま、体ごと、相手の懐に潜り込み、がら空きになった、その「核」を、下から、抉(えぐ)り取るように、貫いた!
フレイヤさんとの、日々の訓練の成果だった。
二体目の根歩きが、動きを止め、崩れ落ちる。
しかし、その時、最初の根歩きが、体勢を立て直し、そして、三体目の根歩きと共に、私に、同時に、襲いかかってきた!
まずい、二体同時は……!
その時だった。
ヒュン!
ヒュン!
二本の矢が、寸分の狂いもなく、二体の根歩きの、ちょうど、動きの基点となる、関節部分に突き刺さった。
矢に、特別な力はない。
でも、その正確無比な一射が、二体の動きを、ほんの一瞬だけ、完全に、止めた。
「……今だ、ミキ! やれ!」
フレイヤさんの声。
私は、その、千載一遇の好機を、逃さなかった。
胸の奥の、二つの欠片の力を、一つに束ねる。
そして、その、増幅された聖なる力を、光の奔流として、二体の根歩きへと、解き放った!
「はああああああっ!」
金色の閃光が、根の迷宮を、一瞬だけ、真昼のように照らし出す!
光に飲み込まれた、二体の根歩きは、悲鳴を上げる間もなく、その体を、塵(ちり)へと変え、消滅していった。
……静寂。
「……はあ……はあ……」
私は、その場に、膝をついた。
フレイヤさんが、駆け寄ってくる。
「……見事なもんだよ、ミキ。
あんた、本当に、強くなったな」
彼女の言葉が、疲れた体に、温かく染みた。
私たちが、ようやく、息を整えていると。
通路の奥から、拍手のような音が、聞こえてきた。
パチ……パチ……。
そして、あの、忌まわしい声。
「……いやはや、素晴らしい連携ですな。
『星の子』と、その、しがない番犬くん」
闇の中から、姿を現したのは、あの、魔術師だった。
彼の体からは、まだ、土砂に埋もれた時の、傷の気配が感じられる。
でも、その目は、前にも増して、狂信的な光を宿していた。
彼の後ろには、数人の、黒い外套の部下たちも控えている。
「……我々も、この迷宮には、少々、手こずりましてな。
あなた方が、道を切り開いてくれたおかげで、助かりましたよ」
魔術師は、私たちを、追っていたのではない。
先回りして、私たちが、番人である根歩きと戦い、消耗するのを、待っていたのだ!
「さあ、お嬢さん。
その身に宿した、三つ目の欠片も、渡していただきましょうか」
「……誰が、渡すものですか!」
私は、立ち上がり、短剣を構え直す。
でも、もう、力は、ほとんど残っていない。
フレイヤさんも、弓を構えるが、その表情には、焦りの色が浮かんでいた。
絶体絶命。
「……では、力ずく、というわけですな」
魔術師が、杖を、ゆっくりと、掲げた、その時。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
突如、迷宮全体が、地響きと共に、激しく揺れ始めた!
「な、なんだ!?」
魔術師が、狼狽(ろうばい)の声を上げる。
天井から、無数の、巨大な根が、落下してくる!
「ミキ、こっちだ!」
フレイヤさんが、私の手を掴み、近くにあった、横穴へと、飛び込んだ。
魔術師たちも、慌てて、崩落から逃れようとしている。
轟音と、土煙の中で、私は、確かに、見た。
私たちが、根歩きを倒し、欠片を手に入れるべき、迷宮の中心。
そこに、欠片を納めていたであろう、巨木の根の「心臓部」が、今、まばゆい光を放ちながら、その形を、変えようとしているのを。
そして、その光は、私たちを、追っ手から守るように、巨大な、根の壁を作り出していた。
あの魔術師の追撃を振り切ったとはいえ、安心はできない。
奴らは、必ず、また現れる。
私たちは、休息もそこそこに、先を急いだ。
通路は、徐々に、その様相を変えていった。
無機質な岩肌は、いつしか、巨大な、木の根のようなものに覆われ始めた。
まるで、太古の巨木の、その根の内部を、進んでいるかのようだ。
壁も、床も、天井も、全てが、複雑に絡み合った、石化したかのように硬い根でできている。
「……『根の迷宮』か」
フレイヤさんが、低い声で呟いた。
「この山に伝わる、古の聖域の一つだ。
一度、迷い込めば、二度と出られない、とも言われているが……」
「でも、地図は、確かに、この奥を指しています」
私の胸の中の二つの欠片もまた、この迷宮の中心に、強く、引かれている。
私たちは、慎重に、その、根が作り出す、天然の迷宮へと、足を踏み入れた。
道は、いくつにも分かれ、上下左右、複雑に入り組んでいる。
フレイヤさんが、わずかな空気の流れや、苔の生え方で、進むべき方向を探り、私が、力の共鳴を頼りに、その選択が正しいかどうかを、判断する。
完璧な、連携だった。
「……ミキ、止まれ」
不意に、フレイヤさんが、私の腕を掴んだ。
「……何か、いる」
彼女の、鋭い視線が、前方の、巨大な根が絡み合った、影の濃い場所を捉えている。
私も、感覚を研ぎ澄ます。
確かに、何か、土とも、木とも違う、異質な気配が、複数、潜んでいた。
「……来るぞ!」
フレイヤさんの叫びと同時に、私たちの周りの、根や、壁の一部が、まるで、生きているかのように、動き出した!
それは、木の根や、枝でできた、人形(ひとがた)の魔物。
『根歩き(ルートウォーカー)』とでも呼ぶべき存在だ。
その数は、四体。
音もなく、私たちを、包囲しようとしていた。
「散開して、各個撃破する!」
フレイヤさんが、指示を飛ばす!
彼女は、弓を放ちながら、一体の根歩きを、巧みに、開けた場所へと誘導していく。
残るは、三体!
一体が、その、木の枝のような腕を、鞭のようにしならせ、私に襲いかかってきた!
私は、幻惑魔法で、自分の足元に、燃え盛る炎の幻影を作り出す。
根歩きは、明らかに、炎を恐れたのか、一瞬だけ、動きを止めた。
その隙に、私は、聖なる光を纏わせた短剣を、その、胸の中心にある、節くれだった「核」のような部分へと、突き立てる!
「ギ……!」
根歩きは、声にならない悲鳴を上げ、その体から、聖なる光に焼かれるように、黒い煙を噴き出した。
動きが、鈍る!
そこへ、別の方向から、新たな根歩きが、私に迫る!
「ミキ、後ろ!」
フレイヤさんの声が聞こえるが、間に合わない!
そう、思った瞬間。
私の体が、勝手に、動いた。
体を、半回転させ、短剣を逆手に持ち、迫り来る根歩きの、振り下ろされた腕を、革の腕当てで受け止める!
そして、そのまま、体ごと、相手の懐に潜り込み、がら空きになった、その「核」を、下から、抉(えぐ)り取るように、貫いた!
フレイヤさんとの、日々の訓練の成果だった。
二体目の根歩きが、動きを止め、崩れ落ちる。
しかし、その時、最初の根歩きが、体勢を立て直し、そして、三体目の根歩きと共に、私に、同時に、襲いかかってきた!
まずい、二体同時は……!
その時だった。
ヒュン!
ヒュン!
二本の矢が、寸分の狂いもなく、二体の根歩きの、ちょうど、動きの基点となる、関節部分に突き刺さった。
矢に、特別な力はない。
でも、その正確無比な一射が、二体の動きを、ほんの一瞬だけ、完全に、止めた。
「……今だ、ミキ! やれ!」
フレイヤさんの声。
私は、その、千載一遇の好機を、逃さなかった。
胸の奥の、二つの欠片の力を、一つに束ねる。
そして、その、増幅された聖なる力を、光の奔流として、二体の根歩きへと、解き放った!
「はああああああっ!」
金色の閃光が、根の迷宮を、一瞬だけ、真昼のように照らし出す!
光に飲み込まれた、二体の根歩きは、悲鳴を上げる間もなく、その体を、塵(ちり)へと変え、消滅していった。
……静寂。
「……はあ……はあ……」
私は、その場に、膝をついた。
フレイヤさんが、駆け寄ってくる。
「……見事なもんだよ、ミキ。
あんた、本当に、強くなったな」
彼女の言葉が、疲れた体に、温かく染みた。
私たちが、ようやく、息を整えていると。
通路の奥から、拍手のような音が、聞こえてきた。
パチ……パチ……。
そして、あの、忌まわしい声。
「……いやはや、素晴らしい連携ですな。
『星の子』と、その、しがない番犬くん」
闇の中から、姿を現したのは、あの、魔術師だった。
彼の体からは、まだ、土砂に埋もれた時の、傷の気配が感じられる。
でも、その目は、前にも増して、狂信的な光を宿していた。
彼の後ろには、数人の、黒い外套の部下たちも控えている。
「……我々も、この迷宮には、少々、手こずりましてな。
あなた方が、道を切り開いてくれたおかげで、助かりましたよ」
魔術師は、私たちを、追っていたのではない。
先回りして、私たちが、番人である根歩きと戦い、消耗するのを、待っていたのだ!
「さあ、お嬢さん。
その身に宿した、三つ目の欠片も、渡していただきましょうか」
「……誰が、渡すものですか!」
私は、立ち上がり、短剣を構え直す。
でも、もう、力は、ほとんど残っていない。
フレイヤさんも、弓を構えるが、その表情には、焦りの色が浮かんでいた。
絶体絶命。
「……では、力ずく、というわけですな」
魔術師が、杖を、ゆっくりと、掲げた、その時。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
突如、迷宮全体が、地響きと共に、激しく揺れ始めた!
「な、なんだ!?」
魔術師が、狼狽(ろうばい)の声を上げる。
天井から、無数の、巨大な根が、落下してくる!
「ミキ、こっちだ!」
フレイヤさんが、私の手を掴み、近くにあった、横穴へと、飛び込んだ。
魔術師たちも、慌てて、崩落から逃れようとしている。
轟音と、土煙の中で、私は、確かに、見た。
私たちが、根歩きを倒し、欠片を手に入れるべき、迷宮の中心。
そこに、欠片を納めていたであろう、巨木の根の「心臓部」が、今、まばゆい光を放ちながら、その形を、変えようとしているのを。
そして、その光は、私たちを、追っ手から守るように、巨大な、根の壁を作り出していた。
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