奈落の聖女

シマセイ

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第九十話:束の間の休息、最後の道標

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あの、魔術師を筆頭とした追撃隊との死闘。

それを、なんとか退けた私たちは、山の胎内の、小さな横穴に身を潜め、傷ついた体を休めていた。

フレイヤさんは、私が『聖光の聖力』で癒やした腕の傷を、不思議そうに眺めている。

「……大したもんだ、あんたの、その力は。
ただの回復魔法とは、まるで違う。
傷口から、邪気が抜けていくような……そんな感じがしたよ」

「……私にも、まだ、よくわからないんです。
でも、これが、私の……」

星の巫女としての、力。

私は、その言葉を、胸の中で、反芻(はんすう)する。

「とにかく、今は、休むんだ」

フレイヤさんは、そう言うと、横穴の入り口近くに陣取り、外の様子を、鋭い目で見張り始めた。

彼女がいる。

その事実が、私に、大きな安心感を与えてくれた。

私は、数日間、その横穴で、ただ、ひたすらに、休息と、力の回復に努めた。

枯渇しかけていた魔力と、『聖光の聖力』が、ゆっくりと、しかし、確実に、私の中に、再び満ちてくるのを感じる。

そして、私は、この時間を使って、レイラさんから託された、古文書の、最後の数冊に、目を通すことにした。

胸の中の、二つの『鍵』の欠片が、古文書の文字と共鳴し、その、難解な内容が、私の頭の中に、流れ込んでくる。

そこには、今まで以上に、重要で、そして、衝撃的な真実が記されていた。

『……星の鍵は、七つに砕かれた。
その、七つの欠片が、再び、一つとなりし時、鍵は、本来の力を取り戻し、星々の律動を、正すだろう……』

七つ……!

私たちが、まだ手に入れたのは、二つだけ。

あと、五つも……?

絶望的な気持ちになりかけた、その時、古文書は、さらに、驚くべき事実を、私に告げた。

『……最後の欠片は、他の六つの欠片の力を集めし、星の子の、魂そのものと、共にある。
故に、六つの欠片を集めし時、星の子は、自らが、最後の鍵となり、完全なる存在へと至る……』

私が……最後の鍵……?

そして、最も重要な記述が、そこにはあった。

『……眠れる聖山の、心臓部。
そこは、世界の境界が、最も、薄らぐ場所。
星の子が、その地で、完全なる鍵の力をもって、星々の律動と共鳴する時、閉ざされし『星の道』は、再び、開かれるだろう……』

星の道が開かれる……!

それは、私が、元の世界へ帰るための、唯一の道。

そして、そのための条件は、残りの、四つの欠辺を集め、そして、聖山の心臓部へと、辿り着くこと……。

(……帰れる……かもしれないんだ……)

その事実に、私の心は、激しく揺さぶられた。

「……どうした、ミキ?
何か、わかったのか?」

私の様子に気づいた、フレイヤさんが、尋ねてくる。

私は、今、古文書から読み解いた、全ての真実を、彼女に話した。

私が、最後の鍵であること。

そして、鍵を完全にすれば、星の道が、開かれることを。

フレイヤさんは、黙って、私の話を聞いていた。

そして、静かに言った。

「……そうか。
お前には、帰る場所が、あるんだな」

その声には、どこか、寂しげな響きがあった。

「……でも、それは、奴らも、知っているのかもしれない。
『蒐集家(コレクター)』たちが、ただ、鍵の力を利用するだけでなく、その『星の道』そのものを、狙っているとしたら……?」

フレイヤさんの言葉に、私は、ハッとした。

そうだ。

彼らの目的は、この世界の力を、手に入れるだけではないのかもしれない。

星の道を使って、他の世界へ……もしかしたら、私の故郷、アストリア王国へも、侵攻しようとしている……?

そして、そのためには、私という「鍵」が、どうしても、必要なのだ。

カイトとセレスが、私から力を奪おうとした、あの『断絶の儀』。

そして、サイラスたちが、私を「回収」しようとする、この執拗な追跡。

全てが、一つの線で繋がった。

これは、もう、私の、個人的な復讐だけの話ではない。

二つの世界を巻き込む、大きな戦いなのだ。

「……行かなければ」

私は、立ち上がった。

「奴らより先に、残りの欠片を、全て集める。
そして、聖山の心臓部へ」

「ああ」

フレイヤさんも、力強く頷く。

「奴らの好きには、させない。
この山も、あんたの故郷も、あたしの故郷も……全部、守るんだ」

私たちの目的は、完全に、一つになった。

地図を広げると、二つの欠片を得たことで、その輝きは、さらに増し、残りの四つの光点の場所を、より、明確に示している。

それらは、全て、この、聖山の、さらに、奥深く……あるいは、地下深くに、点在しているようだった。

そして、その中心に、ひときわ大きく、禍々(まがまが)しくさえある、闇の気配を放つ場所があった。

(……あそこが、奴らの、本拠地……)

そして、おそらく、サイラスも、あの魔術師も、そこにいる。

「……行こう、フレイヤさん」

「ああ、行こう、ミキ」

私たちは、休息を取った横穴から、外へ出た。

体は、まだ、完全に回復してはいない。

でも、心の中には、かつてないほどの、強い、決意の炎が燃えていた。

もう、迷いはない。

進むべき道は、示された。

私たちは、地図が示す、三つ目の光点へと向かって、山の、さらに深い、未知の通路へと、足を踏み出す。
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