奈落の聖女

シマセイ

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第八十九話:執拗なる追撃、闇との攻防

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地底湖で、二つ目の『鍵』の欠片を手に入れた、その安堵も、束の間。

背後から迫る、松明(たいまつ)の光と、複数の足音。

そして、あの、魔術師風の男の、粘つくような声。

私たちは、一瞬の躊躇(ためら)いもなく、祭壇の奥にあった、新たな通路へと、身を投じた。

「急げ、ミキ! 奴ら、本気だ!」

フレイヤさんの、緊迫した声が、暗い通路に響く。

後ろからは、呪文の詠唱らしき、不気味な声と、そして、時折、闇色の魔力の弾が、壁に当たって砕ける音が聞こえてくる!

(なんて、執拗(しつよう)なの……!)

通路は、狭く、そして、どこまでも続いているように思える。

私たちは、ただ、ひたすらに、走った。

「フレイヤさん、次は、右です!
そっちの方が、力の流れが……!」

私は、胸の中で、より強く輝き始めた欠片の感覚と、地図の光を頼りに、進むべき道を叫ぶ。

フレイヤさんは、私の言葉を信じ、迷いなく、その身のこなしで、危険な岩場や、崩れかけた場所を、飛び越えていく。

しかし、追っ手は、しつこかった。

特に、あの魔術師。

彼の放つ、闇の魔法は、まるで、生き物のように、私たちを追いかけてくる。

通路の壁から、影でできた、無数の腕が伸びてきて、私たちの足首を掴もうとする!

「きゃっ!」

「ミキ、止まるな!」

私は、咄嗟に、自分の体から、聖なるオーラを、わずかに放出した。

光に触れた、影の腕は、悲鳴を上げるようにして、霧散していく。

でも、こんなことを続けていては、すぐに、力が尽きてしまう。

「……ダメだ、このままじゃ、追いつかれる……!」

フレイヤさんが、歯噛みする。

「どこかで、一度、叩かなきゃ……!」

彼女は、周囲を見回し、一つの、少しだけ開けた、しかし、出口は一つしかない、袋小路のような場所を、指差した。

「……ミキ、あそこで、迎え撃つ。
いいかい?」

「……はい!」

私たちは、その、小さな広間へと飛び込み、息を殺して、追っ手を待ち構えた。

すぐに、黒い外套(マント)の男たちが、二人、そして、その後ろから、ゆっくりと、あの魔術師が、姿を現した。

「……ようやく、袋のネズミになったようだな、『星の子』よ」

魔術師が、歪んだ笑みを浮かべる。

「その、忌まわしき光の力、我らが『主』のために、大人しく、差し出すがいい」

「断る!」

フレイヤさんが、叫びと共に、矢を放つ!

しかし、矢は、魔術師の前に現れた、黒い、半透明の障壁に阻まれ、力なく、地面に落ちた。

「無駄だ、狩人よ。
お前のような、ただの人間が、我らに敵うものか」

魔術師が、杖を掲げると、二人の部下が、私たちに、襲いかかってきた!

「ミキ、援護を!」

フレイヤさんが、短剣を抜き、部下の一人と、切り結ぶ!

もう一人が、私に向かってくる!

私は、幻惑魔法で、相手の足元に、深い亀裂があるかのような、幻影を見せた。

「うおっ!?」

男は、一瞬、怯み、動きが止まる。

その隙に、私は、聖なる光を纏わせた短剣を、その、無防備な胸へと、突き立てた!

「ぐ……!」

男は、短い呻き声を残し、崩れ落ちる。

でも、その間に、フレイヤさんが、もう一人の男に、押され始めていた!

そして、何よりも、厄介なのは、後方で、高みの見物をしている、あの魔術師だ!

彼が、杖を振るうたびに、闇の弾丸が、フレイヤさんを襲う。

「フレイヤさん、上!」

私が、叫ぶ!

魔術師は、にやりと笑うと、今度は、洞窟の天井を狙って、魔法を放った。

ゴゴゴゴゴ……!

天井から、巨大な岩が、フレイヤさんの頭上めがけて、落下してくる!

絶体絶命!

「……させない……!」

私は、最後の力を振り絞り、胸の奥の、二つの欠片の力を、一つに束ねるイメージを描いた。

そして、その、凝縮された聖なる力を、光の槍のように、落下してくる岩へと、放った!

「貫けええええええっ!!」

金色の光の槍は、巨大な岩を、まるで、紙のように、貫き、粉々に、砕け散らせた!

「……な、に……!?」

魔術師が、初めて、驚愕の声を上げる。

その隙を、フレイヤは見逃さなかった。

彼女は、体勢を立て直し、残っていた、最後の一人の部下を、一瞬で、仕留める。

そして、今だ!

「フレイヤさん、彼の、頭上を!」

私は、叫んだ。

フレイヤさんは、私の意図を、瞬時に理解した。

彼女の放った矢は、魔術師本人ではなく、彼の、すぐ真上の、もろくなっていた天井の岩盤へと、突き刺さった!

「しまっ……!」

魔術師が、慌てて、防御魔法を展開する。

それと同時に、私は、砕け散った岩の破片と共に、ありったけの『衝撃』の波を、そこへ叩き込んだ!

凄まじい轟音と共に、天井が、大きく崩れ落ち、魔術師の姿は、大量の土砂と、岩石の下へと、飲み込まれていった。

……静寂。

「……やった……か?」

フレイヤさんが、荒い息をつきながら、言う。

「……いえ、まだです!
でも、これで、少しは、時間が稼げるはず!」

魔術師の気配は、岩の下から、まだ、微かに感じられる。

でも、すぐには、出てこられないだろう。

私たちは、互いに頷き合うと、再び、通路の奥へと、駆け出した。

体は、ボロボロだ。

魔力も、聖なる力も、もう、ほとんど残っていない。

フレイヤさんも、いくつかの傷を負っているようだった。

それでも、私たちは、生き延びた。

そして、あの、強敵を、二人で、退けたのだ。

私たちは、しばらく走り続け、ようやく、安全そうな、小さな横穴を見つけ、そこに、倒れ込むようにして、身を隠した。

「……ミキ、あんたの、あの力……。
本当に、すごいな……」

フレイヤさんが、感心したように、そして、少し、呆れたように、言った。

私は、彼女の腕の傷に、そっと、手のひらを当て、残っていた、最後の聖なる力で、それを、癒やし始めた。

温かい光が、フレイヤさんの傷を、優しく包み込む。

「……ありがとう」

彼女の、小さな、しかし、心のこもった言葉が、私の胸に、温かく響いた。

私たちは、勝った。

でも、敵の力も、また、強大だ。

あの魔術師も、きっと、生きている。

そして、次こそは、もっと、大きな力で、私たちを、排除しに来るだろう。

地図が示す、次なる欠片の場所は、まだ、遠い。
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