【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない

シマセイ

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第17話 王者の密談

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『賢者の水晶迷宮』から、アッシュが誇らしげに『水晶の御旗』を掲げて帰還した時、闘技場は異様な空気に包まれた。

アストリア王国の学生たちは、自分たちの代表が勝ったにもかかわらず、その勝利の「過程」が全く理解できず、ただ困惑したような、あるいは怯えたような拍手を送るしかなかった。

「優勝おめでとう、アッシュ君!」
「うん!ねえ、この水晶、やっぱりリンゴ飴みたいな味がするよ!」

リリアナが祝福の言葉をかけると、アッシュは早速、御旗をぺろりと舐めて、感想を述べていた。
第一競技の優勝賞品として、四王国全ての最高級菓子が詰まった巨大なバスケットを贈呈されたアッシュは、これ以上ないほど幸せそうな顔で、早速クッキーを頬張り始めた。彼にとって、大会とは、美味しいお菓子がもらえる素晴らしいイベントでしかなかった。

その夜、各国の選手団が宿泊する宿舎の一室で、アストリア以外の三国の代表選手たちが、密かに顔を合わせていた。
会合を提案したのは、砂漠の王国の王女、アミーラだった。

部屋の空気は重い。蒼氷帝国のクラウス皇子は、昼間の敗北から立ち直れず、苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んでいる。

「がっはっは!どうした、氷の兄さん!噂のちびっ子に、よっぽど酷い目に遭わされたようじゃのう!」

ドワーフの王子ブロックが、無遠慮に笑い飛ばす。

「黙れ、ドワーフ。貴様にはわかるまい。あの小僧の力は……我らが知る、この世の理で測れるものではない」

クラウスは、忌々しげに呟くと、自分の切り札であった氷の魔法が、赤子の手をひねるよりたやすく、ただ「触れられた」だけで消滅させられた一部始終を語った。

ブロックの笑い声が、ぴたりと止まる。

「……ほう。それは、ただ事じゃねえな」

「ええ、実に興味深いお話ですわ」
静かに話を聞いていたアミーラが、扇子で口元を隠し、妖艶に微笑んだ。

「直接的な魔力は、彼には通用しない。予選の噂を聞く限り、純粋な物理攻撃も、何らかの不可解な現象で無力化される。彼はまるで、あらゆる攻撃を無に帰す『絶対的な理不尽』そのもの」

アミーラの分析に、三人は沈黙する。
どうすれば、そんな怪物に勝てるというのか。

「力押しも、魔法もダメ。……なら、どうする?」
ブロックが、腕を組んで唸る。
アミーラの笑みが、さらに深くなった。

「簡単なことですわ。プレイヤーを倒せないのであれば、ゲームのルールそのものを、こちらに有利なように変えてしまえばよろしいのです」

彼女の瞳には、怜悧な策略の色が浮かんでいた。

翌日、交流戦の第二競技が発表された。
『王家の森の狩猟祭(ロイヤル・ハント)』。

今度は、各国一名ずつの代表選手による個人戦だ。
王家の広大な森に放たれた、様々な魔法生物を「狩る」ことでポイントを競う。ただし、目的は討伐ではなく、「鎮静化」。殺傷能力の高い攻撃魔法や、過度な物理攻撃は禁止され、選手の純粋な追跡技術、罠の知識、そして対象を無力化する専門的な技術が問われる、まさに「狩人」のためのが競技だった。
このルールは、前日の夜、アミーラの提案によって、三国の総意として大会運営に申し入れられ、エリアス学院長も、全てを察した上で、それを承認していた。

各国の代表が名乗りを上げる。
雪辱に燃えるクラウス皇子。
追跡と罠の達人であるブロック王子。
そして、精霊を操り、狩りを得意とするアミーラ王女自身。
誰もが、今度こそ、自分たちの土俵で戦えると確信していた。

そして、アストリア王国の代表が発表される。

「アストリア王国代表、『王家の森の狩猟祭』参加選手は……アッシュ・リンクス!」

観客席で、昨日もらったお菓子のパイを食べていたアッシュは、むせてしまった。

「ええっ!?また僕!?狩りなんて、大変そうじゃないか!」

彼がいつものように辞退しようとした時、隣にいたリリアナが、そっと囁いた。

「アッシュ君、考えてみて。魔法生物の中には、とっても美味しいものもいるのよ。例えば、グリフォンの肉なんて、この世で一番の珍味だって、本で読んだわ」

「ぐりふぉんの……丸焼き……」

アッシュの頭の中に、涎の出そうな光景が広がる。
彼は、がばっと立ち上がると、高らかに宣言した。

「やります!僕が、この森で一番美味しい獲物を、捕まえてきます!」

こうして、第二競技の舞台である『王家の森』の入り口に、四人の代表選手が立った。
クラウスは、アッシュに冷徹な視線を送る。
アミーラは、アッシュに謎めいた笑みを向ける。
ブロックは、アッシュの肩をバンと叩き、「がっはっは!どっちがうまいもんを捕まえるか、勝負と行こうぜ、ちびっ子!」と笑った。

アッシュは、支給された鎮静化用のロープと、相棒の木の枝だけを手に、やる気に満ち溢れていた。その動機は、国の名誉でも、勝利への渇望でもない。ただ、まだ見ぬ「珍味」への期待だ。

開始の角笛が鳴り響く。
三人の王族は、一流の狩人として、即座に森の中へと駆け出し、それぞれの専門技術で獲物の痕跡を探し始めた。

しかし、アッシュだけは、その場から動かなかった。
彼は、すーっと、大きく息を吸い込むと、満足そうに頷いた。

「うん。一番おいしそうな匂いは……あっちの方からだ!」

彼は、地図もコンパスも無視し、ただひたすら、自分の「お腹」が指し示す方角へと、呑気に歩き始めた。
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