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第25話 初めての旅路
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国王直々の、あまりにも奇妙な任務(クエスト)を受けてから数日後。
アッシュ、リリアナ、アレクシスの三人は、王都の門の前に立っていた。
彼らの初めての、本格的な冒険の旅が、今、始まろうとしていた。
「よし、地図もポーションも持ったわ。食料も三日分。完璧ね」
リリアナは、真面目な学級委員のように、入念な準備に満足げに頷く。
「フン、僕のテントは一級品だ。野宿になっても、快適な睡眠は保証しよう。別に、君たちの分まで用意したわけではないがな」
アレクシスは、相変わらず素直ではないが、彼の用意した装備は、どれも最高品質のものだった。
「見て見て!母さんが、特製のサンドイッチを、こんなにたくさん作ってくれたんだ!」
アッシュの背負う巨大なリュックサックは、その九割が、お菓子と弁当で埋め尽くされている。
母親からは、小さな革袋も渡されていた。
『これは、じいちゃんからのお守りよ。本当に、本当に困って、道に迷った時だけ、開けなさいって』
アッシュは、その言葉を思い出し、大事に革袋をポケットにしまった。
こうして、三人の少年少女は、期待と、少しの不安、そして、大量のおやつを胸に、王都の門をくぐった。
王都を離れ、街道を歩く。
どこまでも続く青い空、緑の平原、遠くに見える山々。
学院の中しか知らなかったアッシュとリリアナにとって、その全てが新鮮で、輝いて見えた。アッシュは、道端の花や、珍しい形の雲を見つけるたびに、大はしゃぎだ。
そんな、ピクニックのような旅が、数時間続いた頃。
道の先の、森の入り口で、数人の、ガラの悪そうな男たちが、道を塞いでいるのが見えた。
「へっへっへ。見ろよ、兄貴。世間知らずの坊ちゃんと嬢ちゃんだぜ」
「こりゃあ、いいカモだ。おい、ガキども。有り金、食料、その綺麗な服も、全部置いていきな。そうすりゃあ、痛い目には遭わずに済むぜ」
明らかに、追い剥ぎの盗賊だった。
アレクシスは、即座に剣の柄に手をかける。
「愚か者め。僕が誰だか知っての言葉か。命が惜しくば、道を空けるがいい」
リリアナも、いつでも魔法が使えるように、杖を握りしめた。
しかし、アッシュの反応は、全く違っていた。
彼は、薄汚れた服を着て、お腹を空かせているように見える男たちを、じっと見つめ、そして、一つの結論に達した。
(この人たち、すごくお腹がすいてて、困ってるんだ……!)
アレクシスが、一歩前に出ようとした、その時。
アッシュが、彼の前に、ひょいと立った。そして、満面の笑みで、先ほど立ち寄った村で買ったばかりの、まだ温かい大きなミートパイを、盗賊の頭に差し出した。
「はい、どうぞ!お腹、すいてるんでしょう?」
「……はあ?」
盗賊の頭は、間の抜けた声を出す。
「じいちゃんが言ってました!お腹がすくと、人はイライラして、悪いことを考えちゃうものだって!だから、まずはこれを食べて、元気を出してください!」
「いや、だから、俺たちは、お前らを襲ってるんであってだな……」
「わかってます!でも、お腹が空いたままじゃ、いい仕事はできませんよ!ほら、みなさんにも!クッキーもあります!」
アッシュは、リュックから、次々と自慢のおやつを取り出しては、困惑する盗賊たちに配り始めた。
そのあまりにも予想外の行動に、武装した盗賊たちは、完全にペースを乱されてしまう。
一人の若い盗賊が、おずおずと、差し出されたクッキーを一枚、口に運んだ。
それは、アッシュの母親が、愛情と、そして、規格外の素材をたっぷりと練り込んで焼き上げた、特別なクッキーだった。
サクッとした食感の後、口の中に広がる、優しく、懐かしく、そして、涙が出るほど美味しい味。
「……うめえ……」
若い盗賊の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「兄貴……なんだか、おふくろの味を、思い出しました……」
その一言を皮切りに、盗賊たちは、次々とアッシュのおやつを食べ始め、そして、一人、また一人と、その場に座り込んで泣き出してしまった。
彼らは、凶作で村を出ざるを得なかった、ただの農民の集まりだったのだ。
数分後。
街道の脇では、元盗賊たちが、アッシュを囲んで、身の上話に花を咲かせるという、奇妙なピクニックが開かれていた。
すっかり改心した盗賊の頭は、アッシュに深々と頭を下げた。
「坊主……いや、恩人様。あんたのおかげで、俺たちは、目が覚めた。こんな稼業はもうやめだ。村に帰って、もう一度、畑を耕してみるよ」
そして、彼は、リリアナが持っていた地図を指さした。
「あんたたち、『竜の牙山脈』に向かうんだろ?この先の街道は、最近の『地響き』で、橋が落ちちまってる。だが、近道があるんだ。『囁きの湿原』を抜ける道さ。少し不気味な場所だが、二日は早く着けるはずだ」
彼は、そう言うと、地図に、新しい道を書き込んでくれた。
盗賊たちに手を振って見送られ、再び旅路につく三人。
アレクシスは、まだ目の前の出来事が信じられず、呆然としている。
「僕は、戦う準備をしていたのに……。なぜ、お菓子で、盗賊が改心するんだ……」
リリアナは、そんな彼の肩を、ぽん、と叩いた。
「慣れるしかないわよ、アレクシス君。これが、アッシュ君との旅なんだから」
「やったね!みんな、喜んでくれてよかった!よーし、次は、不気味な湿原に出発だ!」
アッシュ、リリアナ、アレクシスの三人は、王都の門の前に立っていた。
彼らの初めての、本格的な冒険の旅が、今、始まろうとしていた。
「よし、地図もポーションも持ったわ。食料も三日分。完璧ね」
リリアナは、真面目な学級委員のように、入念な準備に満足げに頷く。
「フン、僕のテントは一級品だ。野宿になっても、快適な睡眠は保証しよう。別に、君たちの分まで用意したわけではないがな」
アレクシスは、相変わらず素直ではないが、彼の用意した装備は、どれも最高品質のものだった。
「見て見て!母さんが、特製のサンドイッチを、こんなにたくさん作ってくれたんだ!」
アッシュの背負う巨大なリュックサックは、その九割が、お菓子と弁当で埋め尽くされている。
母親からは、小さな革袋も渡されていた。
『これは、じいちゃんからのお守りよ。本当に、本当に困って、道に迷った時だけ、開けなさいって』
アッシュは、その言葉を思い出し、大事に革袋をポケットにしまった。
こうして、三人の少年少女は、期待と、少しの不安、そして、大量のおやつを胸に、王都の門をくぐった。
王都を離れ、街道を歩く。
どこまでも続く青い空、緑の平原、遠くに見える山々。
学院の中しか知らなかったアッシュとリリアナにとって、その全てが新鮮で、輝いて見えた。アッシュは、道端の花や、珍しい形の雲を見つけるたびに、大はしゃぎだ。
そんな、ピクニックのような旅が、数時間続いた頃。
道の先の、森の入り口で、数人の、ガラの悪そうな男たちが、道を塞いでいるのが見えた。
「へっへっへ。見ろよ、兄貴。世間知らずの坊ちゃんと嬢ちゃんだぜ」
「こりゃあ、いいカモだ。おい、ガキども。有り金、食料、その綺麗な服も、全部置いていきな。そうすりゃあ、痛い目には遭わずに済むぜ」
明らかに、追い剥ぎの盗賊だった。
アレクシスは、即座に剣の柄に手をかける。
「愚か者め。僕が誰だか知っての言葉か。命が惜しくば、道を空けるがいい」
リリアナも、いつでも魔法が使えるように、杖を握りしめた。
しかし、アッシュの反応は、全く違っていた。
彼は、薄汚れた服を着て、お腹を空かせているように見える男たちを、じっと見つめ、そして、一つの結論に達した。
(この人たち、すごくお腹がすいてて、困ってるんだ……!)
アレクシスが、一歩前に出ようとした、その時。
アッシュが、彼の前に、ひょいと立った。そして、満面の笑みで、先ほど立ち寄った村で買ったばかりの、まだ温かい大きなミートパイを、盗賊の頭に差し出した。
「はい、どうぞ!お腹、すいてるんでしょう?」
「……はあ?」
盗賊の頭は、間の抜けた声を出す。
「じいちゃんが言ってました!お腹がすくと、人はイライラして、悪いことを考えちゃうものだって!だから、まずはこれを食べて、元気を出してください!」
「いや、だから、俺たちは、お前らを襲ってるんであってだな……」
「わかってます!でも、お腹が空いたままじゃ、いい仕事はできませんよ!ほら、みなさんにも!クッキーもあります!」
アッシュは、リュックから、次々と自慢のおやつを取り出しては、困惑する盗賊たちに配り始めた。
そのあまりにも予想外の行動に、武装した盗賊たちは、完全にペースを乱されてしまう。
一人の若い盗賊が、おずおずと、差し出されたクッキーを一枚、口に運んだ。
それは、アッシュの母親が、愛情と、そして、規格外の素材をたっぷりと練り込んで焼き上げた、特別なクッキーだった。
サクッとした食感の後、口の中に広がる、優しく、懐かしく、そして、涙が出るほど美味しい味。
「……うめえ……」
若い盗賊の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「兄貴……なんだか、おふくろの味を、思い出しました……」
その一言を皮切りに、盗賊たちは、次々とアッシュのおやつを食べ始め、そして、一人、また一人と、その場に座り込んで泣き出してしまった。
彼らは、凶作で村を出ざるを得なかった、ただの農民の集まりだったのだ。
数分後。
街道の脇では、元盗賊たちが、アッシュを囲んで、身の上話に花を咲かせるという、奇妙なピクニックが開かれていた。
すっかり改心した盗賊の頭は、アッシュに深々と頭を下げた。
「坊主……いや、恩人様。あんたのおかげで、俺たちは、目が覚めた。こんな稼業はもうやめだ。村に帰って、もう一度、畑を耕してみるよ」
そして、彼は、リリアナが持っていた地図を指さした。
「あんたたち、『竜の牙山脈』に向かうんだろ?この先の街道は、最近の『地響き』で、橋が落ちちまってる。だが、近道があるんだ。『囁きの湿原』を抜ける道さ。少し不気味な場所だが、二日は早く着けるはずだ」
彼は、そう言うと、地図に、新しい道を書き込んでくれた。
盗賊たちに手を振って見送られ、再び旅路につく三人。
アレクシスは、まだ目の前の出来事が信じられず、呆然としている。
「僕は、戦う準備をしていたのに……。なぜ、お菓子で、盗賊が改心するんだ……」
リリアナは、そんな彼の肩を、ぽん、と叩いた。
「慣れるしかないわよ、アレクシス君。これが、アッシュ君との旅なんだから」
「やったね!みんな、喜んでくれてよかった!よーし、次は、不気味な湿原に出発だ!」
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