【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない

シマセイ

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第33話 港町の厄介者

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アッシュの『おやつコンパス』に導かれ、王家の帆船『スターライト号』は、数日の航海の末、活気あふれる港町『ロゼッタ』に到着した。

多種多様な民族が行き交い、市場には珍しい品々が並ぶ、大陸でも有数の交易港。そして何より、新鮮な海の幸を使った名物料理が、数多くあることで知られていた。

「わーい!着いたー!イカ焼きの匂いがする!」

船が港に着くやいなや、アッシュは、リリアナとアレクシスの手を引き、一目散に屋台が立ち並ぶ通りへと駆け出していく。念願の、特大イカの丸焼きを手にし、彼は、世界で一番幸せそうな顔をしていた。

その間に、リリアナとアレクシスは、情報収集に努めていた。
この港町ロゼッタが、目的地である古代ゼファー帝国の遺跡へと向かう、最後の中継地点であること。
そして、その遺跡には、『風の精霊』が住み着いており、近づく者を追い返すため、今では誰も足を踏み入れない「禁足地」となっていることなどを、聞き出すことができた。

しかし、町の活気とは裏腹に、どこか、人々の顔に、暗い影が差していることにも、二人は気づいていた。

「へい、らっしゃい!まあ、座りなよ、旅のお方」

三人が、一息つくために立ち寄った、港の酒場の主人に、リリアナは、思い切って尋ねてみた。

「この町は、とても活気があるように見えますが……何か、ご心配事でもあるのですか?」

すると、主人は、大きなため息をついた。

「ああ、お嬢ちゃんには、わかるかい。実は、最近、この港の湾内に、一匹の、とんでもなく凶暴な『紅殻の海蛇(クリムゾン・サーペント)』が、住み着いちまってね」

話によると、その海蛇は、港に出入りする船に、無差別に襲いかかり、漁師たちは、漁に出ることもできない。町の騎士団や、腕利きの冒険者も、全く歯が立たず、町の経済は、日増しに、衰退の一途を辿っているという。

「あいつのせいで、自慢の魚介も、ちっとも入ってこない。このままじゃ、町は干上がっちまうよ」

その話を聞いていた、アッシュ。
彼は、魚介の形をした、甘いパンを、もぐもぐと食べながら、自分なりの、重大な結論に達した。
(悪い蛇さんが、お魚を捕るのを邪魔してる……。それって、つまり、僕が食べられるお魚も、減っちゃうってこと!?それは、一大事だ!)

「よし、僕が、その大きな蛇さんを、釣りに行ってくる!」

アッシュは、そう宣言すると、港に繋がれていた、小さな手漕ぎボートを、勝手に借りて、海へと漕ぎ出した。
リリアナとアレクシスも、慌てて、そのボートに飛び乗る。

海蛇が目撃されたという、湾の中心部。
穏やかだった海面が、突如、激しく波立ち、中から、巨大な、真紅の鱗を持つ海蛇が、その姿を現した。鋭い牙を剥き出しにし、威嚇の咆哮を上げる。その迫力は、先日遭遇した沼の主にも、引けを取らない。

リリアナが、雷の魔法を詠唱し、アレクシスが、剣を抜く。
しかし、アッシュは、慌てる二人を手で制し、海蛇の頭部を、じっと見つめた。

「待って、二人とも。よく見て」

彼の指さす先。
海蛇の、目のすぐ横にある、巨大な鱗と鱗の隙間に、何かが、深く突き刺さっていた。
それは、嵐で難破したのであろう、船の、鋭く尖った木片。そして、その木片には、邪悪な呪いの紋様が、刻まれている。
海蛇は、この呪いの木片によって、絶えず、激しい苦痛を与えられ、そのせいで、凶暴化していたのだ。

「なんだ、怒ってるんじゃないんだ。すごく、痛かっただけなんだね」

「アッシュ君、まさか……!」

リリアナの静止も聞かず、アッシュは、またしても、誰もが予想しない行動に出た。
彼は、相棒である「木の枝」を、手に取った。
そして、祖父の、また別の教えを、思い出していた。
『指に、やっかいな棘が刺さった時はな、無理やり引っこ抜くんじゃない。まず、角度を見極めて、先端を、こん、と、綺麗に弾き飛ばすんじゃ』

アッシュは、揺れるボートの上で、すっくと立ち上がる。
そして、威嚇のために、大きく口を開けて、自分たちに襲いかかってくる海蛇の、まさに、その一瞬の隙を突いて、木の枝の先端で、問題の木片を、こん、と、軽やかに、弾いた。

世界樹の枝が、アッシュの完璧なタイミングと、無意識の生命エネルギーを乗せて、呪いの木片を、的確に打ち抜く。
呪いは、一瞬で浄化され、木片は、ぽきり、と根元から抜け折れて、海の中へと落ちていった。

その瞬間。
海蛇の、猛り狂っていた動きが、ぴたり、と止まった。
怒りの赤色に染まっていた瞳から、すうっと、その色が引いていく。長年の苦痛から解放された、安堵と、そして、戸惑いの色が、その巨大な目に浮かんでいた。

巨大な海蛇は、目の前の、小さな少年を見つめた。
そして、感謝を示すかのように、一度、静かに、海中へと潜る。
再び姿を現した時、その口には、赤ん坊の頭ほどもある、巨大な、虹色に輝く真珠が、くわえられていた。

海蛇は、その、数百年はかかるという、秘宝の真珠を、アッシュたちのボートに、そっと、ことり、と置いた。
そして、穏やかな鳴き声を一つ残し、静かに、沖の深い海へと、その姿を消していった。

港で、固唾をのんで見守っていた、町の人々から、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
厄介者の海蛇を、三人の、まだ幼い学生たちが、「退治」したのだ。

ボートの上で、アッシュは、贈られた巨大な真珠を、不思議そうに眺めていた。

「わあ、綺麗だなあ!でも、これは、食べられないや……。イカ焼き、一年分と、交換してもらえないかなあ?」

町の英雄となった少年は、褒美の心配をしながら、港へと戻っていく。
目的地である、古代遺跡には、まだ、たどり着いてもいなかった。
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