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第34話 風の古都
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港町ロゼッタは、アッシュたち三人を、英雄として盛大に送り出してくれた。
町長は、感謝のしるしとして、秘宝である巨大な真珠を快く受け取り、代わりに『港の全店舗で使える、生涯有効のイカ焼き食べ放題券』を、アッシュに贈呈した。アッシュは、これ以上ないほどに喜んだ。
十分すぎるほどの補給(そのほとんどはアッシュのおやつ)と、町長老から譲り受けた、より正確な遺跡への地図を手に、三人は、いよいよ、最後の目的地へと、足を踏み出した。
彼らの目の前には、荒涼とした、風の吹きすさぶ平原が広がっていた。かつて、古代ゼファー帝国が栄えた、豊穣の大地だ。
やがて、地平線の向こうに、白く、壮麗な塔が林立する、巨大な都市のシルエットが見えてくる。
風化し、今は、ただ沈黙している、伝説の都。古代遺跡ゼファー。
「あれが……」
リリアナが、息をのむ。
しかし、遺跡に近づくにつれて、風は、ただの風ではなくなっていた。
まるで、意思を持っているかのように、三人の行く手を阻む、強力な障壁となって、牙を剥く。
「これが、噂の『風の精霊の守り』ね。古代の、強力な防衛結界だわ」
リリアナが、魔力の流れを分析する。アレクシスは、剣を杖代わりにして、暴風に耐えるのがやっとだ。
このままでは、前に進むことすらできない。
絶望的な状況の中、アッシュだけは、涼しい顔をしていた。
彼は、この強風を、不快だとは思わなかった。むしろ、どこか、懐かしい感覚を覚えていた。
「この風、じいちゃんが、朝、庭でやってる、特別な呼吸の練習の時と、同じ感じがするなあ」
彼は、祖父の言葉を思い出す。
『風と喧嘩するな、アッシュ。風と、友達になるんじゃ。風の息と、自分の息を合わせるんじゃよ。そうすれば、風は、お前を仲間として、受け入れてくれる』
アッシュは、目を閉じると、吹き荒れる暴風に向かって、すーっ、と、深く、穏やかな呼吸を始めた。
風が吹き、彼が息を吸う。風が止み、彼が息を吐く。
彼の、規格外の生命エネルギーが、風の結界を構成する、大いなる自然の魔力と、共鳴していく。
結界のシステムは、異物を排除するように、プログラムされていた。
しかし、アッシュは、風と「一体化」することで、もはや、異物として認識されなくなったのだ。
すると、不思議なことが起こった。
アッシュの正面だけ、あれほど荒れ狂っていた風が、ぴたり、と止み、穏やかな、凪いだ一本の道が、まっすぐに、遺跡の入り口まで続いている。
「ほら、簡単でしょ?」
アッシュは、目を開けると、呆然としている二人の手を引いた。
「さあ、行こう!」
彼に手を引かれている間は、リリアナとアレクシスもまた、「風の仲間」として認識され、何事もなかったかのように、数百年、誰も通れなかったはずの、風の結界を、通り抜けることができたのだった。
静寂に包まれた、白亜の古都。
建物は、風化しているものの、その壮麗な姿は、今なお、見る者を圧倒する。
アッシュは、『おやつコンパス』をかざした。針は、都の中心にある、ひときわ高い、一本の巨大な尖塔を、指し示している。
(コンパスによると、あそこに、一番おいしそうな魔力があるみたいだ)
三人は、尖塔のふもとにある、巨大な神殿へとたどり着いた。
そして、その中央に、目的のものが、鎮座していた。
緑色に輝き、宙に浮かんで、ゆっくりと回転する、美しい宝石。
『風の礎石(ウォードストーン)』だ。
しかし、その周囲は、まばゆい光の結界で、固く守られている。
三人が、それに近づいた、その時。
神殿全体に、風そのものが意思を持ったような、古く、荘厳な声が、響き渡った。
『我は、礎石の守護者。囁きにして、嵐なり。石に触れる資格を望むなら、まず、我の問いに答えよ』
祖父が言っていた、「なぞなぞ」だ。
リリアナとアレクシスは、ゴクリと唾をのみ、身構える。伝説の守護者が出す、超難解な問いが来るに違いない、と。
『声は無くして、万物に語りかける。手は無くして、王城をも覆す。体は無くして、常に、汝のそばを通り過ぎる。……さて、これ、なーんだ?』
それは、英雄の知恵を試す、古の賢者の問い。
しかし、アッシュは、悩むことすらなかった。
彼は、ただ、今、自分が体験している、ありのままの事実を、元気いっぱいに、答えただけだった。
「はい、はーい!わかった!答えは、『風』でしょ!」
一瞬の、沈黙。
やがて、守護者の声が、今度は、どこか、途方もなく、驚いたような響きで、再び、神殿に響き渡った。
『……正解』
その声と共に、礎石を守っていた光の結界が、すうっと、消えていった。
アッシュは、またしても、伝説の試練を、あまりにも、まっすぐな、常識で、突破してしまったのだった。
町長は、感謝のしるしとして、秘宝である巨大な真珠を快く受け取り、代わりに『港の全店舗で使える、生涯有効のイカ焼き食べ放題券』を、アッシュに贈呈した。アッシュは、これ以上ないほどに喜んだ。
十分すぎるほどの補給(そのほとんどはアッシュのおやつ)と、町長老から譲り受けた、より正確な遺跡への地図を手に、三人は、いよいよ、最後の目的地へと、足を踏み出した。
彼らの目の前には、荒涼とした、風の吹きすさぶ平原が広がっていた。かつて、古代ゼファー帝国が栄えた、豊穣の大地だ。
やがて、地平線の向こうに、白く、壮麗な塔が林立する、巨大な都市のシルエットが見えてくる。
風化し、今は、ただ沈黙している、伝説の都。古代遺跡ゼファー。
「あれが……」
リリアナが、息をのむ。
しかし、遺跡に近づくにつれて、風は、ただの風ではなくなっていた。
まるで、意思を持っているかのように、三人の行く手を阻む、強力な障壁となって、牙を剥く。
「これが、噂の『風の精霊の守り』ね。古代の、強力な防衛結界だわ」
リリアナが、魔力の流れを分析する。アレクシスは、剣を杖代わりにして、暴風に耐えるのがやっとだ。
このままでは、前に進むことすらできない。
絶望的な状況の中、アッシュだけは、涼しい顔をしていた。
彼は、この強風を、不快だとは思わなかった。むしろ、どこか、懐かしい感覚を覚えていた。
「この風、じいちゃんが、朝、庭でやってる、特別な呼吸の練習の時と、同じ感じがするなあ」
彼は、祖父の言葉を思い出す。
『風と喧嘩するな、アッシュ。風と、友達になるんじゃ。風の息と、自分の息を合わせるんじゃよ。そうすれば、風は、お前を仲間として、受け入れてくれる』
アッシュは、目を閉じると、吹き荒れる暴風に向かって、すーっ、と、深く、穏やかな呼吸を始めた。
風が吹き、彼が息を吸う。風が止み、彼が息を吐く。
彼の、規格外の生命エネルギーが、風の結界を構成する、大いなる自然の魔力と、共鳴していく。
結界のシステムは、異物を排除するように、プログラムされていた。
しかし、アッシュは、風と「一体化」することで、もはや、異物として認識されなくなったのだ。
すると、不思議なことが起こった。
アッシュの正面だけ、あれほど荒れ狂っていた風が、ぴたり、と止み、穏やかな、凪いだ一本の道が、まっすぐに、遺跡の入り口まで続いている。
「ほら、簡単でしょ?」
アッシュは、目を開けると、呆然としている二人の手を引いた。
「さあ、行こう!」
彼に手を引かれている間は、リリアナとアレクシスもまた、「風の仲間」として認識され、何事もなかったかのように、数百年、誰も通れなかったはずの、風の結界を、通り抜けることができたのだった。
静寂に包まれた、白亜の古都。
建物は、風化しているものの、その壮麗な姿は、今なお、見る者を圧倒する。
アッシュは、『おやつコンパス』をかざした。針は、都の中心にある、ひときわ高い、一本の巨大な尖塔を、指し示している。
(コンパスによると、あそこに、一番おいしそうな魔力があるみたいだ)
三人は、尖塔のふもとにある、巨大な神殿へとたどり着いた。
そして、その中央に、目的のものが、鎮座していた。
緑色に輝き、宙に浮かんで、ゆっくりと回転する、美しい宝石。
『風の礎石(ウォードストーン)』だ。
しかし、その周囲は、まばゆい光の結界で、固く守られている。
三人が、それに近づいた、その時。
神殿全体に、風そのものが意思を持ったような、古く、荘厳な声が、響き渡った。
『我は、礎石の守護者。囁きにして、嵐なり。石に触れる資格を望むなら、まず、我の問いに答えよ』
祖父が言っていた、「なぞなぞ」だ。
リリアナとアレクシスは、ゴクリと唾をのみ、身構える。伝説の守護者が出す、超難解な問いが来るに違いない、と。
『声は無くして、万物に語りかける。手は無くして、王城をも覆す。体は無くして、常に、汝のそばを通り過ぎる。……さて、これ、なーんだ?』
それは、英雄の知恵を試す、古の賢者の問い。
しかし、アッシュは、悩むことすらなかった。
彼は、ただ、今、自分が体験している、ありのままの事実を、元気いっぱいに、答えただけだった。
「はい、はーい!わかった!答えは、『風』でしょ!」
一瞬の、沈黙。
やがて、守護者の声が、今度は、どこか、途方もなく、驚いたような響きで、再び、神殿に響き渡った。
『……正解』
その声と共に、礎石を守っていた光の結界が、すうっと、消えていった。
アッシュは、またしても、伝説の試練を、あまりにも、まっすぐな、常識で、突破してしまったのだった。
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