【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない

シマセイ

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第38話 熱血の弟子

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『灰被りの峠』を越えた一行は、いよいよ、巨大な活火山『五竜山』の登山を開始した。
彼らのパーティには、元騎士にして峠の門番、そして、今やアッシュの一番弟子を自称する、ボーリスが、新たに加わっていた。

「おお、お師匠さま!その干し肉の咀嚼の仕方、常人にはない、力強い顎の動き!それこそが、剛力の源なのでございますな!」

「え?ううん、ただ、お腹がすいてるだけだよ?」

「なんと!『空腹こそが、最強の動機となり得る』と!また一つ、深淵なる教えを、ありがとうございます!」

ボーリスは、アッシュの一挙手一投足を、彼なりに解釈し、勝手に感動しては、修行の極意として、心に刻み付けていた。
アレクシスのこめかみには、青筋が浮かんでいる。リリアナは、笑いをこらえるのに必死だ。
騒々しい、しかし、どこか頼もしい仲間が加わったことで、彼らの旅は、新たな局面を迎えていた。

五竜山の登山道は、これまでの旅とは、全く異なる厳しさがあった。
地面は、熱を帯び、足の裏から、じんわりと体力を奪っていく。あちこちの亀裂から、硫黄の匂いがする蒸気が、絶えず噴き出していた。

「うっ……暑い……」

リリアナは、水魔法で、なんとか体を冷やしているが、それも、気休めにしかならない。騎士の鎧を着込んだアレクシスは、まるで、歩くオーブンのようになっていた。

ガサッ!
突如、前方の溶岩石の陰から、灼熱の体を持つ、トカゲ型の魔獣『マグマサラマンダー』が、数匹、姿を現した。

「お師匠さまは、お下がりくだされ!ここは、弟子である、このボーリスめと、弟弟子にお任せを!」

「誰が弟弟子だ、老人!」

アレクシスとボーリスは、いがみ合いながらも、見事な連携で、魔獣たちを打ち払っていく。ボーリスの、圧倒的なパワーと、アレクシスの、洗練された技術。その、ちぐはぐなコンビネーションは、意外なほど、効果的だった。

そんな、二人の奮闘を、アッシュは、少し離れた場所から、呑気に眺めていた。
彼にとって、この火山の熱気は、全く苦にならない。むしろ、温泉卵のような、心地よい匂いに、食欲をそそられるだけだった。

やがて、一行の行く手を、巨大な、灼熱の障害が、阻んだ。
大地が裂け、真っ赤な溶岩が、川のように、とうとうと流れている。対岸までは、数十メートル。橋はもちろん、かかっていない。

「これは……万事休すか」
アレクシスが、絶望的な声を上げる。

「迂回路を探しましょう。何時間、かかるかわからないけれど……」
リリアナも、厳しい表情で、地図を広げた。

「ふむ。山が、我々の覚悟を、試しておるわい」
ボーリスが、腕を組んで唸る。

しかし、アッシュは、その溶岩の川を見て、目を輝かせていた。

「わあ、すごい!とろとろのスープの川みたいだ!じいちゃんが言ってたなあ。熱いスープは、体を芯から温めてくれるって」

そして、彼は、また一つ、祖父の、他愛もない教えを思い出す。
農作業の時、ぬかるんだ溝を越えなければならなかった時のことだ。
『橋がなければ、作ればいいんじゃ、アッシュ。手頃な、頑丈な岩を、一つ、置くだけでいい』

アッシュは、辺りを見回すと、崖の上に、家ほどもある、巨大な岩が、鎮座しているのを見つけた。

「よし!僕が、橋を作ってあげる!」

「お、お師匠さま、何を!?」

ボーリスが、止める間もなかった。
アッシュは、猿のような身軽さで、崖を駆け上がると、その巨大な岩の前に立つ。
そして、両手を、その岩肌にかけると、んんんーっ、と、全身の力を込めて、それを、押した。

ゴゴゴゴゴ……ッ!

家ほどもある巨岩が、地響きと共に、崖から剥がれ落ち、眼下の、溶岩の川へと、落下していく。
ドッッッッッッッッッッ!!!!!!
灼熱の溶岩が、巨大な水しぶきのように、天高く、舞い上がった。

そして、後には、溶岩の川を、完璧に、両岸へと繋ぐ、巨大な、天然の「橋」が、完成していた。
王国の土木技術者と、宮廷魔術師が、束になっても、数週間はかかるであろう、難工事。
それを、アッシュは、ただ、岩を押すという、単純な行為で、一瞬にして、成し遂げてしまったのだ。

「よし、できた!さあ、行こう!温泉卵が、僕らを待ってる!」

アッシュは、満足そうに、埃を払うと、まだ、ほのかに赤く光る、即席の橋を、ぴょんぴょんと、楽しそうに渡り始めた。

「おお……!おおお……!」
ボーリスは、その光景に、感涙にむせんでいた。

「大地そのものを、捻じ曲げ、道を創造されるとは……!これぞ、まさしく、お師匠さまの教えの真髄!」

「……我々は、あれを、渡るのか……?」
アレクシスは、まだ熱を帯びている、巨大な岩の橋を、呆然と見つめていた。

リリアナは、深いため息をつくと、水筒の水を一口飲んだ。

「……もう、驚かないわよ。彼が、火山そのものを、どうにかしなかっただけ、マシだと思うことにしましょう」

一行は、その、あまりにも規格外なリーダーに導かれ、ついに、『竜の腹』と呼ばれる、火山の頂上へと、その一歩を、踏み出した。
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