【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない

シマセイ

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第40話 次なる旅路

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『五竜山』の、あまりにも規格外な試練を乗り越えた一行は、穏やかになった山を下っていた。
その途中、『灰被りの峠』で、一行の弟子兼荷物持ちであった、ボーリスが、立ち止まった。
そして、アッシュに向かって、深々と、頭を下げる。

「お師匠さま!ワシとの旅は、ここまででございます。ワシは、この峠を守るという、己の使命に戻らねばなりませぬ」

「うん、わかった!ボーリスさん、リュックを持ってくれてありがとう!すごく助かったよ!」

アッシュが、屈託なく手を振る。
ボーリスは、その顔に、感涙の涙を浮かべていた。

「いいえ、お師匠さま!礼を言うのは、このワシの方!あなた様と旅をし、ワシは、真の『強さ』とは何かを、学びました!それは、鍛え上げられた筋肉でも、巨大な棍棒を振り回すことでもない!現実そのものを、己の食欲のために捻じ曲げる、その純粋な『意志』の力!そして、巨大な岩で、橋を作ること!この深遠なる教えを、ワシは、生涯、胸に刻み、修行に励む所存でございます!」

彼は、そう言うと、名残惜しそうに、しかし、晴れやかな顔で、去っていった。
こうして、一行のパーティは、再び、三人に戻った。

王都へと帰還したアッシュたちは、またしても、国王への報告のために、王宮へと召集された。
玉座の間には、国王、エリアス学院長、そして、セラフィーナ隊長の姿があった。

「うむ。見事、任務を果たしたこと、褒めて遣わす」

王の労いの言葉に、アッシュは、祖父からの土産である『温泉卵』を、誇らしげに差し出した。
国王は、もはや、この少年の奇行に慣れてしまったのか、穏やかな笑みでそれを受け取ると、侍従に、すぐに調理するよう、命じた。

報告を終え、本題に入る。
次の『礎石』の在り処だ。
エリアス学院長は、アッシュが持つ、二つのお守り――風の礎石から得た『葉のお守り』と、大地の礎石から得た『石のお守り』を、預かった。
そして、彼が持参した『始祖の魔導書』の、古びた表紙の上に、そっと、その二つを置いた。

すると、魔導書は、淡い光を放ち、以前は、白紙だったはずのページに、新たな、金色の文字が、ひとりでに、浮かび上がってきた。
リリアナが、その古代文字を、読み上げる。

「『水が生まれ、そして、眠る場所。大いなる湖に浮かぶ王国に、人魚の涙は、主を待つ。世界が、その悲しみに沈む前に、蒼き宝石を、取り戻せ』……」

「湖に浮かぶ、王国……」
アレクシスが、その言葉に、息をのんだ。

「その条件に、当てはまる国は、一つしかありません。大陸中央の、巨大なカルデラ湖に浮かぶ、水の都を首都とする、『アクアティア湖上王国』です」

その名を聞き、セラフィーナ隊長の表情が、険しくなった。

「厄介なことになりましたな。アクアティアは、ご存知の通り、極端な孤立主義を貫く、謎の多い国。五十年前の『大戦』以降、ほとんどの国との国交を断絶し、その首都『セレニア』に、外国人が入ることは、滅多に許されません」

王も、難しい顔で頷く。

「うむ。『人魚の涙』とは、おそらく、彼らの国の力の源であり、最大の秘宝とされる、伝説の宝石のことだろう。それを、『封印のために、力を貸せ』と、正面から申し出て、聞き入れられるとは、到底、思えん」

次の任務は、もはや、冒険ではない。閉ざされた国家との、極めて、繊細な、外交交渉。
一行は、大きな壁に、ぶち当たってしまった。

作戦会議が、行き詰まった、まさに、その時。
一人の侍従が、慌てた様子で、玉座の間に駆け込んできた。
その手には、人魚の紋章で封をされた、一通の、緊急の、外交書簡が、握られていた。

「陛下!たった今、アクアティア湖上王国より、親書が!」

王は、訝しげに、その親書を受け取ると、封を切り、中に書かれた内容に、目を通し始めた。
そして、読み進めるうちに、王の眉が、どんどん、吊り上がっていく。
やがて、彼は、信じられない、といった表情で、アッシュのことを見つめた。

「……どうやら、我々の悩みは、解決されたようだ」

王は、そう言うと、エリアスに、その親書を手渡した。
エリアスは、そこに書かれた内容を、玉座の間にいる、全員に、読み上げた。

「『アストリア国王陛下へ。貴国の代表選手、アッシュ・リンクスなる少年が、『魚を焼く、神の如き才能』を持つとの噂、我が女王陛下の耳にも、達しております。折りしも、来月、我が国では、恒例の『湖の幸祭り』が、催される予定。つきましては、賓客として、この『焼き魚名人』を、我が国へ、派遣していただきたく、お願い申し上げる。その調理の秘訣を、ご教示いただけるのであれば、一行の、首都への自由な滞在を、女王陛下の名において、お約束いたします』……」

親書を読み終えたエリアスは、静かに、天を仰いだ。
(いったい、どこから、そんな噂が……?まさか、あの時の、虹鱒か……?)

玉座の間は、静まり返っていた。
国家間の、重大な外交問題を、解決する糸口。それは、一人の少年の、規格外の「焼き魚の腕前」だった。

「えっ、本当!?」
話を聞いていたアッシュは、目を輝かせた。

「シーフードのお祭り!?やったあ!お魚、食べ放題だ!」

閉ざされた王国への扉は、今、外交でも、武力でもなく、ただ、一人の少年の、食欲と、そして、本人も知らない、謎の料理の腕前によって、こじ開けられようとしていた。
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