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第41話 湖上の王国
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アッシュの、あまりにも個人的な理由によって、次の目的地は、孤立主義を貫く水の都、『アクアティア湖上王国』に決定した。
国王の計らいにより、一行は、アストリア王国の公式な使節団として、かの国へと派遣されることになった。
王家の帆船『スターライト号』は、今、大陸中央に位置する、巨大なカルデラ湖の上を進んでいた。
国王の代理として、特務騎士団隊長セラフィーナが、監督役として同行している。彼女の、真の任務は、アッシュ・リンクスという、規格外な存在の、さらなる観察にあった。
「うーん、また焦げちゃったなあ」
甲板の上では、アッシュが、来るべき『湖の幸祭り』に向けて、焼き魚の練習に励んでいた。
しかし、その出来栄えは、あまりにも、不安定だった。
時には、食べた者が、天にも昇る気持ちになる、神がかった焼き魚が完成するかと思えば、次の瞬間には、目を離したすきに、炭のように、真っ黒な、ただの焦げた塊を作り出してしまう。
その、あまりにも気まぐれな調理風景を、セラフィーナは、難しい顔で、ただ、見つめていた。
やがて、一行の目の前に、信じがたい光景が広がった。
湖の上に、浮かぶ、巨大な都市。
いくつもの、真珠のように輝く浮島が、美しい滝や、水の橋で結ばれ、その間を、優雅なゴンドラが行き交っている。
それこそが、水の都、アクアティアの首都『セレニア』だった。
彼らの船が、首都の港に着くと、アクアティアの役人たちが、丁重な、しかし、どこか、品定めするような視線で、一行を出迎えた。
「ようこそ、アストリア王国の使節団の皆様。女王陛下が、『神腕の焼き魚名人』殿の、ご到着を、心待ちにしておられます」
出迎えた役人の視線は、まっすぐに、アッシュへと注がれた。
「こんにちは!すごく、きれいな場所ですね!」
アッシュは、片手に、練習で焼いた魚の串を持ちながら、陽気に手を振る。
アクアティアの役人たちは、呑気な少年と、その背後に立つ、いかにも切れ者といった風情のセラフィーナ隊長や、貴公子然としたアレクシスを見比べ、いったい、この使節団の、誰が、中心人物なのかと、内心、首をかしげていた。
一行は、都市の中心にそびえる、巨大な真珠を、そのままくり抜いて作ったかのような、壮麗な王宮へと、案内された。
そして、水のせせらぎが、心地よく響く、玉座の間へと、通される。
玉座には、アクアティアの女王、コーラリアが、静かに座っていた。
その美貌には、どこか、物憂げな、影が差している。彼女は、国一番の美食家として知られると同時に、長年、何事にも、心の底から、楽しむことができないでいる、と言われていた。
「あなたが、噂の、『焼き魚名人』ですわね」
女王の、鈴を転がすような、しかし、どこか、退屈そうな声が、響く。
「あなたの焼いた魚は、湖の精霊すら、喜びのあまり、涙を流す、と聞きました。ずいぶんと、大それた噂ですこと。……祭りは、明日。その『神の腕』とやら、存分に、披露していただきましょう」
リリアナとアレクシスの背中に、冷たい汗が流れた。
この国の、そして、世界の運命が、今、アッシュの、あまりにも不安定な、焼き魚の腕前に、かかっているのだ。
しかし、アッシュは、そんなプレッシャーなど、微塵も感じていなかった。
「はい!がんばります!女王様も、気に入ってくれると、嬉しいです!」
その夜。一行に与えられた、豪華な客室で、リリアナとアレクシスは、頭を抱えていた。
「どうしましょう……。アッシュ君の料理は、成功するか、失敗するか、その時になってみないと、全くわからないのに……」
「僕の人生で、最も、馬鹿げた任務だ。世界の命運が、バーベキューの結果に左右されるなど……」
そんな、二人の心配をよそに、アッシュは、自分のリュックサックを、ごそごそと、漁っていた。
そして、「あった!」と、嬉しそうな声を上げる。
彼が、取り出したのは、ごく、どこにでもあるような、小さな、木製の塩の瓶だった。
「大丈夫だよ、二人とも!僕には、とっておきの、秘密兵器があるんだ!」
彼は、その塩瓶を、誇らしげに掲げた。
「じいちゃんが、いつも言ってるんだ!『料理の味が、何だか物足りない時は、これを、一振りすれば、全てが解決する』って!」
それは、アッシュの祖父、特製の、『どんな料理も、天上の味に変える、魔法の塩』。
リリアナとアレクシスの頭の中に、揃って、一つの、絶望的な、しかし、どこか、希望に満ちた確信が、浮かんだ。
(……これも、絶対に、ただの塩じゃない)
アッシュは、明日の、重大な、調理実演に向けて、その、小さな塩瓶を、きゅっきゅ、と、丁寧に磨き始めた。
彼の仲間たちは、もはや、祈ることしかできない。
引退した英雄が残した、「魔法の塩」が、気難しい女王を満足させ、世界を救うことを。
湖の幸祭りを舞台にした、前代未聞の、料理対決の幕が、今、上がろうとしていた。
国王の計らいにより、一行は、アストリア王国の公式な使節団として、かの国へと派遣されることになった。
王家の帆船『スターライト号』は、今、大陸中央に位置する、巨大なカルデラ湖の上を進んでいた。
国王の代理として、特務騎士団隊長セラフィーナが、監督役として同行している。彼女の、真の任務は、アッシュ・リンクスという、規格外な存在の、さらなる観察にあった。
「うーん、また焦げちゃったなあ」
甲板の上では、アッシュが、来るべき『湖の幸祭り』に向けて、焼き魚の練習に励んでいた。
しかし、その出来栄えは、あまりにも、不安定だった。
時には、食べた者が、天にも昇る気持ちになる、神がかった焼き魚が完成するかと思えば、次の瞬間には、目を離したすきに、炭のように、真っ黒な、ただの焦げた塊を作り出してしまう。
その、あまりにも気まぐれな調理風景を、セラフィーナは、難しい顔で、ただ、見つめていた。
やがて、一行の目の前に、信じがたい光景が広がった。
湖の上に、浮かぶ、巨大な都市。
いくつもの、真珠のように輝く浮島が、美しい滝や、水の橋で結ばれ、その間を、優雅なゴンドラが行き交っている。
それこそが、水の都、アクアティアの首都『セレニア』だった。
彼らの船が、首都の港に着くと、アクアティアの役人たちが、丁重な、しかし、どこか、品定めするような視線で、一行を出迎えた。
「ようこそ、アストリア王国の使節団の皆様。女王陛下が、『神腕の焼き魚名人』殿の、ご到着を、心待ちにしておられます」
出迎えた役人の視線は、まっすぐに、アッシュへと注がれた。
「こんにちは!すごく、きれいな場所ですね!」
アッシュは、片手に、練習で焼いた魚の串を持ちながら、陽気に手を振る。
アクアティアの役人たちは、呑気な少年と、その背後に立つ、いかにも切れ者といった風情のセラフィーナ隊長や、貴公子然としたアレクシスを見比べ、いったい、この使節団の、誰が、中心人物なのかと、内心、首をかしげていた。
一行は、都市の中心にそびえる、巨大な真珠を、そのままくり抜いて作ったかのような、壮麗な王宮へと、案内された。
そして、水のせせらぎが、心地よく響く、玉座の間へと、通される。
玉座には、アクアティアの女王、コーラリアが、静かに座っていた。
その美貌には、どこか、物憂げな、影が差している。彼女は、国一番の美食家として知られると同時に、長年、何事にも、心の底から、楽しむことができないでいる、と言われていた。
「あなたが、噂の、『焼き魚名人』ですわね」
女王の、鈴を転がすような、しかし、どこか、退屈そうな声が、響く。
「あなたの焼いた魚は、湖の精霊すら、喜びのあまり、涙を流す、と聞きました。ずいぶんと、大それた噂ですこと。……祭りは、明日。その『神の腕』とやら、存分に、披露していただきましょう」
リリアナとアレクシスの背中に、冷たい汗が流れた。
この国の、そして、世界の運命が、今、アッシュの、あまりにも不安定な、焼き魚の腕前に、かかっているのだ。
しかし、アッシュは、そんなプレッシャーなど、微塵も感じていなかった。
「はい!がんばります!女王様も、気に入ってくれると、嬉しいです!」
その夜。一行に与えられた、豪華な客室で、リリアナとアレクシスは、頭を抱えていた。
「どうしましょう……。アッシュ君の料理は、成功するか、失敗するか、その時になってみないと、全くわからないのに……」
「僕の人生で、最も、馬鹿げた任務だ。世界の命運が、バーベキューの結果に左右されるなど……」
そんな、二人の心配をよそに、アッシュは、自分のリュックサックを、ごそごそと、漁っていた。
そして、「あった!」と、嬉しそうな声を上げる。
彼が、取り出したのは、ごく、どこにでもあるような、小さな、木製の塩の瓶だった。
「大丈夫だよ、二人とも!僕には、とっておきの、秘密兵器があるんだ!」
彼は、その塩瓶を、誇らしげに掲げた。
「じいちゃんが、いつも言ってるんだ!『料理の味が、何だか物足りない時は、これを、一振りすれば、全てが解決する』って!」
それは、アッシュの祖父、特製の、『どんな料理も、天上の味に変える、魔法の塩』。
リリアナとアレクシスの頭の中に、揃って、一つの、絶望的な、しかし、どこか、希望に満ちた確信が、浮かんだ。
(……これも、絶対に、ただの塩じゃない)
アッシュは、明日の、重大な、調理実演に向けて、その、小さな塩瓶を、きゅっきゅ、と、丁寧に磨き始めた。
彼の仲間たちは、もはや、祈ることしかできない。
引退した英雄が残した、「魔法の塩」が、気難しい女王を満足させ、世界を救うことを。
湖の幸祭りを舞台にした、前代未聞の、料理対決の幕が、今、上がろうとしていた。
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