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第50話 平和の終わり
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嵐の夜が明け、一行を乗せた『スターライト号』は、ついに、目的地である、アクアティア湖上王国の首都、セレニアへと、入港した。
『世界平和サミット』の会場である王宮は、各国の代表団が集い、華やかでありながらも、どこか、張り詰めたような、独特の空気に、包まれていた。
蒼氷帝国のクラウス皇子、砂漠の王国のアミーラ王女、そして、鉄鋼ドワーフ連邦のブロック王子。アッシュのかつてのライバルたちは、今や、一国の代表として、そして、彼の力を知る、数少ない理解者として、彼を迎えた。
そのやり取りは、友人としてのものでありながら、同時に、国家間の、高度な、外交の色を帯びていた。
そして、サミットの開会が、宣言される。
女王コーラリアが、高らかに、平和と、新たな同盟の時代の到来を、告げた。
各国の代表が、貿易協定や、安全保障についての、建前論を、丁重に、しかし、腹の探り合いをしながら、議論を進めていく。
アッシュは、その、あまりにも、退屈な会議に、こっそり、懐から、干しイカを取り出して、しゃぶっていた。
リリアナとアレクシスは、固唾をのんで、議論の行方を見守り、ルナは、相変わらず、無表情のまま、静かに、座っている。
その、平和な、しかし、偽りに満ちた、会議の空気を、破ったのは、予期せぬ、闖入者だった。
「申し上げます!所属不明の一団が、陛下への、緊急の謁見を、求めております!」
衛兵の、切羽詰まった声が、響き渡る。
場が、騒然とする中、女王コーラリアは、「平和のサミットです。話を聞かぬわけには、いかないでしょう」と、その謁見を、許可した。
玉座の間に、静かに入ってきたのは、白銀のローブを、深く、フードのように被った、十数名の、集団だった。
その中心に立つ、一人の男が、フードを取り、その顔を、露わにする。銀色の瞳を持つ、カリスマ的な、美少年だった。
「女王陛下、並びに、各国の王族、代表の方々。我々は、『黎明の子供たち』。この、平和の会議を、邪魔しに来たのでは、ありません。ただ、あなた方とは、違う、『真の平和』への道を、提示しに来たのです」
その、穏やかな、しかし、有無を言わせぬ響きを持つ声に、誰もが、息をのんだ。
「あなた方は、『大いなる封印』の強化を、祝っている。厄災という、混沌を、牢獄に閉じ込めたことを、平和と、呼んでいる。……しかし、それは、大きな、間違いです」
男は、リリアナが、禁書庫で、見つけた、あの、衝撃的な事実を、語り始めた。
「封印は、世界の、陰と陽の、バランスそのもの。混沌を、封じれば、秩序もまた、淀む。あなた方は、厄災を、封じると同時に、この世界の、生命力そのものである、『創造の力』をも、封じ込めてしまった。この世界は、今、緩やかな、安楽死へと、向かっているのです」
玉座の間が、大きく、どよめいた。
「異端者め!」「何を、馬鹿げたことを!」
各国の代表から、非難の声が上がる。
しかし、男は、動じない。彼は、その、銀色の瞳で、まっすぐに、アッシュのことを見つめた。
「だが、世界は、自ら、答えを用意した。その、淀んだ秩序を、内側から、破壊する、『鍵』となる、存在を」
そして、次に、彼は、ルナへと、視線を移した。
「そして、その『鍵』を、正しく、導くための、『案内人』を」
その瞬間、ルナが、静かに、立ち上がった。
彼女は、驚愕する、アッシュたちの席を離れると、まっすぐに、『黎明の子供たち』の元へと、歩み寄る。そして、そのリーダーである、男の前に、深く、頭を下げた。
「……欺いたこと、お詫びいたします。わたくしの使命は、この目で、『鍵』の資質を、見極めることでした」
裏切り。
その、あまりにも、静かな、告白。
「ルナさん……?チーム、替わっちゃうの?」
アッシュの、呑気な声だけが、静まり返った、玉座の間に、響いた。
『黎明の子供たち』のリーダーは、アッシュに向かって、静かに、告げた。
「我々は、王国と、戦争を、望むものではない。ただ、この、緩やかな死へと向かう、世界の運命から、人々を、解放したいだけ。そのために、『大いなる封印』は、解かれねばならない」
「そして、そのための『鍵』が、君だ、アッシュ・リンクス。君は、我々と共に、真の調和を、目指すこともできる。あるいは、我々の、乗り越えるべき、障害と、なることも」
少年と、その仲間たち、そして、ルナの体が、白銀の光に、包まれ始める。
「我々は、これで、失礼する。我々の言葉の意味、賢明なる、あなた方なら、いずれ、理解する日が、来るでしょう」
王宮の、近衛騎士たちが、彼らを、取り押さえようとする、その、一瞬前。
彼らの姿は、一筋の、銀色の光と共に、その場から、かき消えるように、消え去っていた。
後に、残されたのは、大混乱に陥った、各国の代表たちと、そして、呆然と、立ち尽くす、アッシュたちだけだった。
『世界平和サミット』は、その開幕と同時に、事実上の、『宣戦布告』の場と、なってしまった。
世界の敵は、もはや、封印された、単一の『厄災』ではない。
封印を、守ろうとする者たちと、封印を、解こうとする者たち。
二つの、正義と、哲学。
そして、その、巨大な、世界の運命の、天秤の、ちょうど、真ん中に。
一人の、おやつ好きの、呑気な少年が、否応なく、置かれてしまった。
『世界平和サミット』の会場である王宮は、各国の代表団が集い、華やかでありながらも、どこか、張り詰めたような、独特の空気に、包まれていた。
蒼氷帝国のクラウス皇子、砂漠の王国のアミーラ王女、そして、鉄鋼ドワーフ連邦のブロック王子。アッシュのかつてのライバルたちは、今や、一国の代表として、そして、彼の力を知る、数少ない理解者として、彼を迎えた。
そのやり取りは、友人としてのものでありながら、同時に、国家間の、高度な、外交の色を帯びていた。
そして、サミットの開会が、宣言される。
女王コーラリアが、高らかに、平和と、新たな同盟の時代の到来を、告げた。
各国の代表が、貿易協定や、安全保障についての、建前論を、丁重に、しかし、腹の探り合いをしながら、議論を進めていく。
アッシュは、その、あまりにも、退屈な会議に、こっそり、懐から、干しイカを取り出して、しゃぶっていた。
リリアナとアレクシスは、固唾をのんで、議論の行方を見守り、ルナは、相変わらず、無表情のまま、静かに、座っている。
その、平和な、しかし、偽りに満ちた、会議の空気を、破ったのは、予期せぬ、闖入者だった。
「申し上げます!所属不明の一団が、陛下への、緊急の謁見を、求めております!」
衛兵の、切羽詰まった声が、響き渡る。
場が、騒然とする中、女王コーラリアは、「平和のサミットです。話を聞かぬわけには、いかないでしょう」と、その謁見を、許可した。
玉座の間に、静かに入ってきたのは、白銀のローブを、深く、フードのように被った、十数名の、集団だった。
その中心に立つ、一人の男が、フードを取り、その顔を、露わにする。銀色の瞳を持つ、カリスマ的な、美少年だった。
「女王陛下、並びに、各国の王族、代表の方々。我々は、『黎明の子供たち』。この、平和の会議を、邪魔しに来たのでは、ありません。ただ、あなた方とは、違う、『真の平和』への道を、提示しに来たのです」
その、穏やかな、しかし、有無を言わせぬ響きを持つ声に、誰もが、息をのんだ。
「あなた方は、『大いなる封印』の強化を、祝っている。厄災という、混沌を、牢獄に閉じ込めたことを、平和と、呼んでいる。……しかし、それは、大きな、間違いです」
男は、リリアナが、禁書庫で、見つけた、あの、衝撃的な事実を、語り始めた。
「封印は、世界の、陰と陽の、バランスそのもの。混沌を、封じれば、秩序もまた、淀む。あなた方は、厄災を、封じると同時に、この世界の、生命力そのものである、『創造の力』をも、封じ込めてしまった。この世界は、今、緩やかな、安楽死へと、向かっているのです」
玉座の間が、大きく、どよめいた。
「異端者め!」「何を、馬鹿げたことを!」
各国の代表から、非難の声が上がる。
しかし、男は、動じない。彼は、その、銀色の瞳で、まっすぐに、アッシュのことを見つめた。
「だが、世界は、自ら、答えを用意した。その、淀んだ秩序を、内側から、破壊する、『鍵』となる、存在を」
そして、次に、彼は、ルナへと、視線を移した。
「そして、その『鍵』を、正しく、導くための、『案内人』を」
その瞬間、ルナが、静かに、立ち上がった。
彼女は、驚愕する、アッシュたちの席を離れると、まっすぐに、『黎明の子供たち』の元へと、歩み寄る。そして、そのリーダーである、男の前に、深く、頭を下げた。
「……欺いたこと、お詫びいたします。わたくしの使命は、この目で、『鍵』の資質を、見極めることでした」
裏切り。
その、あまりにも、静かな、告白。
「ルナさん……?チーム、替わっちゃうの?」
アッシュの、呑気な声だけが、静まり返った、玉座の間に、響いた。
『黎明の子供たち』のリーダーは、アッシュに向かって、静かに、告げた。
「我々は、王国と、戦争を、望むものではない。ただ、この、緩やかな死へと向かう、世界の運命から、人々を、解放したいだけ。そのために、『大いなる封印』は、解かれねばならない」
「そして、そのための『鍵』が、君だ、アッシュ・リンクス。君は、我々と共に、真の調和を、目指すこともできる。あるいは、我々の、乗り越えるべき、障害と、なることも」
少年と、その仲間たち、そして、ルナの体が、白銀の光に、包まれ始める。
「我々は、これで、失礼する。我々の言葉の意味、賢明なる、あなた方なら、いずれ、理解する日が、来るでしょう」
王宮の、近衛騎士たちが、彼らを、取り押さえようとする、その、一瞬前。
彼らの姿は、一筋の、銀色の光と共に、その場から、かき消えるように、消え去っていた。
後に、残されたのは、大混乱に陥った、各国の代表たちと、そして、呆然と、立ち尽くす、アッシュたちだけだった。
『世界平和サミット』は、その開幕と同時に、事実上の、『宣戦布告』の場と、なってしまった。
世界の敵は、もはや、封印された、単一の『厄災』ではない。
封印を、守ろうとする者たちと、封印を、解こうとする者たち。
二つの、正義と、哲学。
そして、その、巨大な、世界の運命の、天秤の、ちょうど、真ん中に。
一人の、おやつ好きの、呑気な少年が、否応なく、置かれてしまった。
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