【完結】勇者の孫は、自分が最強だとまだ知らない

シマセイ

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第59話 新たな仲間

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洞窟の中は、暖かな、黄金の光に、満たされていた。
アッシュの、不器用で、しかし、心のこもった子守唄は、この島を、何百年もの間、支配し続けてきた、悲しみの呪いを、優しく、溶かしていく。
砕け散った、銀色のオベリスク。その残骸は、もはや、何の力も、持っていなかった。

「……どうして」

ルナは、その場に、へたり込んだまま、震える声で、呟いた。

「わたくしの、白銀の光は、秩序にして、静寂。悲しみという、感情さえも、受け入れ、世界を、安定させる、絶対の力のはず……。なのに、なぜ、あなたの、その、ただの歌が……」

アッシュは、歌うのをやめ、彼女の前に、ちょこんと、しゃがみ込んだ。

「うーん、難しいことは、よくわからないけど」
彼は、首をかしげながら、言った。

「悲しい時は、静かにしてるより、誰かに、よしよし、って、してもらった方が、嬉しいんじゃないかなあ?」

その、あまりにも、単純で、あまりにも、核心をついた、答え。
ルナは、言葉を、失った。
彼女が、信じてきた、何千年もの、哲学と、理屈。それが、一人の、少年の、素朴な、優しさの前に、意味を、なさなくなっていく。

リリアナが、そっと、ルナに、近づいた。

「ルナさん……。あなたは、これから、どうするの?」

「……わかりません」
ルナは、力なく、首を振った。

「わたくしは、使命に、失敗しました。それ以上に……信じてきた、道に、迷ってしまった。もう、『黎明の子供たち』に、戻ることは、できません。わたくしは、もはや、案内人でも、何でもない。ただの、ルナ、です」

彼女の声には、これまでの、神秘的な響きはなく、ただ、道に迷った、普通の少女の、か細い、不安だけが、滲んでいた。

「ふん。ごちゃごちゃと、ややこしいこった」
それまで、黙って、成り行きを、見守っていた、ブロックが、腕を組んで、言った。

「理屈は、わからんが、ようは、お前さん、帰る場所が、なくなっちまった、迷子の、お嬢ちゃんってこったろ?それに、うちのアッシュは、お前さんのこと、気に入ってるみたいだしな」

その、ぶっきらぼうな、しかし、温かい言葉に、ルナは、はっと、顔を上げた。
アッシュは、そんな彼女の前に、すっ、と、自分の手を、差し出した。

「じゃあさ、僕たちと、一緒に行こうよ!」
彼は、にぱっと、笑った。

「仲間は、多い方が、楽しいし、おやつも、みんなで、分け合って、食べた方が、絶対、おいしいよ!」

敵でも、監視対象でもない。ただ、「仲間」として、彼は、手を、差し伸べていた。
ルナは、その、何の、裏もない、まっすぐな手と、アッシュの、屈託のない笑顔を、見つめた。
そして、おずおずと、しかし、確かに、その、冷たい自分の手を、アッシュの、暖かな手に、重ねた。

「……あなたの、見る、世界……。悲しくても、一人じゃない、世界……。わたくしも、もう少しだけ、見てみたい、です……」

一行が、洞窟を出ると、世界は、一変していた。
降り続いていた、冷たい雨は、完全に、止み、分厚い雲の切れ間から、数百年ぶりという、太陽の光が、島全体を、優しく、照らしていた。
黒く、濡れていた岩肌には、小さな、緑の若芽が、芽吹き始めている。
島の、すすり泣くような風は、今、穏やかな、安堵のため息のように、心地よく、吹いていた。

『嘆きの島』が、その、本当の、安らぎを、取り戻した、瞬間だった。

一行は、再び、『スターライト号』の、人となった。
パーティは、今や、五人。
新しい仲間、ルナは、まだ、口数も少なく、どこか、ぎこちない。
しかし、彼女が、一人で、船べりに、立っていると、アッシュが、やってきて、海面での、水切りの仕方を、延々と、自慢げに、語りかけていた。
その、あまりにも、他愛のない、日常の光景を、リリアナたちは、微笑ましく、見守っていた。

しかし、その頃。
『黎明の子供たち』の、神殿では。
首領である、サイラスが、水鏡に映る、その、和やかな光景を、静かに、見つめていた。

「サイラス様。ルナは、我らを、裏切りました。そして、『鍵』は、また、一段と、その、理不尽な力を、増しています。いかが、なさいますか」
側近の、問いに、サイラスは、表情一つ、変えずに、答えた。

「裏切りではない。彼女は、ただ、自らの、旅を、始めただけだ。何も、変わりはしない」
彼の、銀色の瞳が、冷たい、光を、宿す。

「あの少年の『黄金の光』が、優しさと、喜びの、光だというのなら、話は、簡単だ。いかなる、光も、届かぬほどの、絶対的な、深い、深い、影を、作り出してやればいい」

「……試練の時は、終わった。これより、我々は、最終段階へと、移行する。世界のへそ、『終焉の門』にて、『厄災』を、直接、呼び覚ますための、儀式を、始める」

英雄たちが、新たな、絆を、手に入れ、一時の、勝利に、安堵していた、その裏で。
世界の、本当の、終わりへの、カウントダウンが、静かに、そして、確実に、始まろうとしていた。
アッシュたちの、本当の、最後の戦いが、すぐ、そこまで、迫っていた。
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