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第61話 決戦の前夜
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祖父という、あまりにも、規格外な「おとり」の作戦が、決定してから、決戦の日まで、残された時間は、一週間。
アストリア王国の王宮は、かつてないほどの、緊張感と、活気に、包まれていた。
世界の命運をかけた、最後の戦いのための、準備期間だ。
リリアナは、王立大図書館の、禁書庫に、泊まり込みで、こもっていた。彼女は、『黄昏の祭壇』、そして、『大いなる封印』に関する、あらゆる、古文書を、片っ端から、読み解き、敵の儀式に関する、僅かな、情報を、探していた。
アレクシスは、王宮の、訓練場で、セラフィーナ隊長を、相手に、来る日も、来る日も、剣を、振り続けた。彼の剣は、もはや、学生のレベルを、遥かに、超え、一人の、騎士として、その、輝きを、増していた。
ブロックは、ドワーフの、故郷から、呼び寄せた、最高の、職人たちと共に、王家の、鍛冶場に、こもった。彼らは、極北の、極寒と、敵の、異質な魔力の、両方に、耐えうる、一行のための、特別な、装備を、作り上げていた。
そして、ルナは。
彼女は、王宮の、静かな庭園で、ただ、一人、瞑想を、続けていた。自らが、操る、『白銀の光』。それは、かつて、彼女の、全てだった。しかし、今は、違う。彼女は、その力を、仲間を、そして、アッシュが、愛する、この、暖かな世界を、守るための、力へと、昇華させようとしていた。
一方、我らが、英雄の孫、アッシュは。
もちろん、王宮の、厨房にいた。
彼の、最後の戦いへの、準備。それは、もちろん、「料理」だった。
彼は、もはや、ただ、プリンを作っているだけでは、なかった。リリアナが、解読した、古文書の、知識と、彼自身の、野生の勘を、頼りに、彼は、次々と、奇跡の、携帯食糧を、生み出していく。
一口、食べれば、勇気が、湧いてくる、『勇気のクッキー』。
一枚、食べれば、疲れが、吹き飛ぶ、『元気の干し肉』。
そして、一杯、飲めば、どんな、混乱した、状況でも、心が、澄み渡る、『叡智のハーブティー』。
その、全てに、彼の、温かな、『黄金の光』が、たっぷりと、注ぎ込まれていた。
それは、最後の戦いに、臨む、仲間たちのための、彼にしか、作れない、最高の、支援物資だった。
出発の、前夜。
王宮の、月明かりが、差し込む、静かな、バルコニーで、五人は、久しぶりに、顔を、合わせていた。
「まさか、僕が、お前と、世界の、心配をすることに、なるとはな。数ヶ月前には、想像も、できなかった」
アレクシスが、夜空を見上げ、どこか、自嘲するように、呟く。
「がっはっは!千年の後に、語り継がれる、最高の、冒険じゃねえか!こんな、楽しい戦い、滅多に、あるもんじゃねえ!」
ブロックが、豪快に、笑い飛ばす。
「……読める限りの、本は、読んだわ。でも、最後は、きっと、本には、書かれていない、何かが、勝敗を、決める。そんな、気がするの」
リリアナは、隣に立つ、アッシュを、見つめた。
「『黄昏の祭壇』は、世界の、理が、最も、薄くなる場所。わたくしたちの、元いた場所……。彼らの、『白銀の光』は、そこで、絶対的な、力を、持つでしょう。でも……」
ルナは、静かに、言った。
「彼の、『黄金の光』は、そもそも、この世界の、理の、外にある。それだけが、我々の、唯一の、希望……」
仲間たちが、それぞれの、思いを、語る中、アッシュは、空に浮かぶ、月を、見上げていた。
その手には、焼き上がったばかりの、『勇気のクッキー』が、握られている。
「じいちゃん、今頃、何してるかなあ。ちゃんと、夜ご飯、食べてると、いいんだけど」
彼の、あまりにも、素朴な、呟きが、決戦前夜の、張り詰めた、空気を、ふわり、と、優しく、解きほぐした。
翌朝。
一行は、極北の、海へと、旅立つため、再び、『スターライト号』の、甲板に、立っていた。
エリアス学院長や、女王コーラリア、そして、各国の、代表たちが、彼らを、見送る。
エリアスは、最後に、リリアナへと、一つの、小さな、封印された、箱を、手渡した。
「全ての、希望が、失われたと、感じた、その時にだけ、これを開けなさい。旧友から、はるか、昔に、託された、最後の、お守りじゃ」
船が、ゆっくりと、港を、離れ、大海原へと、乗り出した、まさに、その時だった。
「……ん?」
アッシュが、ふと、遥か遠く、大陸の内陸部の方角を、振り返った。
「どうしたの、アッシュ君?」
リリアナが、尋ねる。
「なんだか……すごく、あったかい光が、見えた気がしたんだ。じいちゃんの、暖炉の火みたいな、懐かしい、光……」
アッシュが、そう言った、直後。
彼が、指さした方角の、地平線の上が、一瞬、昼間のように、明るく、輝いた。
それは、あまりにも、遠い場所で、起きている、出来事。音は、全く、聞こえない。
しかし、そこにいる、誰もが、その、圧倒的な、エネルギーの衝突を、肌で、感じ取っていた。
天を突くほどの、巨大な、光の柱。
その中には、二つの色が、激しく、せめぎ合っていた。
世界を、凍てつかせるかのような、冷たい『白銀』の輝き。
そして、それに、一歩も、引かない、太陽のように、暖かく、力強い、『黄金』の輝き。
「……じいちゃんが、始めたんだね」
アッシュは、今度は、確信を持って、呟いた。
仲間たちの、進むべき道を作るため。
伝説の英雄が、『黎明の子供たち』の、主力と、その、世界の命運を分ける、戦いを、始めたのだ。
数日後。
氷海を、駆け抜けた、一行は、ついに、目的の、諸島へと、たどり着いた。
空は、不気味な、夕暮れの色に、染まっている。
その、最大の島の中央に、それは、あった。
黒い、玄武岩でできた、巨大な、環状列石(ストーンサークル)。天を、指し示す、モノリスの、祭壇。
『黄昏の祭壇』。
そして、その中心では、既に、数人の、ローブの者たちが、詠唱を、始めていた。
祭壇から、空へと、向かって、不気味な、白銀の光の柱が、立ち上り始めている。
空では、月が、ゆっくりと、太陽を、喰らい始めていた。
最後の戦いの、舞台は、整えられた。
世界の、終わりへの、儀式は、既に、始まっている。
五人の英雄は、決意の表情で、運命の、島へと、その、第一歩を、踏み出した。
アストリア王国の王宮は、かつてないほどの、緊張感と、活気に、包まれていた。
世界の命運をかけた、最後の戦いのための、準備期間だ。
リリアナは、王立大図書館の、禁書庫に、泊まり込みで、こもっていた。彼女は、『黄昏の祭壇』、そして、『大いなる封印』に関する、あらゆる、古文書を、片っ端から、読み解き、敵の儀式に関する、僅かな、情報を、探していた。
アレクシスは、王宮の、訓練場で、セラフィーナ隊長を、相手に、来る日も、来る日も、剣を、振り続けた。彼の剣は、もはや、学生のレベルを、遥かに、超え、一人の、騎士として、その、輝きを、増していた。
ブロックは、ドワーフの、故郷から、呼び寄せた、最高の、職人たちと共に、王家の、鍛冶場に、こもった。彼らは、極北の、極寒と、敵の、異質な魔力の、両方に、耐えうる、一行のための、特別な、装備を、作り上げていた。
そして、ルナは。
彼女は、王宮の、静かな庭園で、ただ、一人、瞑想を、続けていた。自らが、操る、『白銀の光』。それは、かつて、彼女の、全てだった。しかし、今は、違う。彼女は、その力を、仲間を、そして、アッシュが、愛する、この、暖かな世界を、守るための、力へと、昇華させようとしていた。
一方、我らが、英雄の孫、アッシュは。
もちろん、王宮の、厨房にいた。
彼の、最後の戦いへの、準備。それは、もちろん、「料理」だった。
彼は、もはや、ただ、プリンを作っているだけでは、なかった。リリアナが、解読した、古文書の、知識と、彼自身の、野生の勘を、頼りに、彼は、次々と、奇跡の、携帯食糧を、生み出していく。
一口、食べれば、勇気が、湧いてくる、『勇気のクッキー』。
一枚、食べれば、疲れが、吹き飛ぶ、『元気の干し肉』。
そして、一杯、飲めば、どんな、混乱した、状況でも、心が、澄み渡る、『叡智のハーブティー』。
その、全てに、彼の、温かな、『黄金の光』が、たっぷりと、注ぎ込まれていた。
それは、最後の戦いに、臨む、仲間たちのための、彼にしか、作れない、最高の、支援物資だった。
出発の、前夜。
王宮の、月明かりが、差し込む、静かな、バルコニーで、五人は、久しぶりに、顔を、合わせていた。
「まさか、僕が、お前と、世界の、心配をすることに、なるとはな。数ヶ月前には、想像も、できなかった」
アレクシスが、夜空を見上げ、どこか、自嘲するように、呟く。
「がっはっは!千年の後に、語り継がれる、最高の、冒険じゃねえか!こんな、楽しい戦い、滅多に、あるもんじゃねえ!」
ブロックが、豪快に、笑い飛ばす。
「……読める限りの、本は、読んだわ。でも、最後は、きっと、本には、書かれていない、何かが、勝敗を、決める。そんな、気がするの」
リリアナは、隣に立つ、アッシュを、見つめた。
「『黄昏の祭壇』は、世界の、理が、最も、薄くなる場所。わたくしたちの、元いた場所……。彼らの、『白銀の光』は、そこで、絶対的な、力を、持つでしょう。でも……」
ルナは、静かに、言った。
「彼の、『黄金の光』は、そもそも、この世界の、理の、外にある。それだけが、我々の、唯一の、希望……」
仲間たちが、それぞれの、思いを、語る中、アッシュは、空に浮かぶ、月を、見上げていた。
その手には、焼き上がったばかりの、『勇気のクッキー』が、握られている。
「じいちゃん、今頃、何してるかなあ。ちゃんと、夜ご飯、食べてると、いいんだけど」
彼の、あまりにも、素朴な、呟きが、決戦前夜の、張り詰めた、空気を、ふわり、と、優しく、解きほぐした。
翌朝。
一行は、極北の、海へと、旅立つため、再び、『スターライト号』の、甲板に、立っていた。
エリアス学院長や、女王コーラリア、そして、各国の、代表たちが、彼らを、見送る。
エリアスは、最後に、リリアナへと、一つの、小さな、封印された、箱を、手渡した。
「全ての、希望が、失われたと、感じた、その時にだけ、これを開けなさい。旧友から、はるか、昔に、託された、最後の、お守りじゃ」
船が、ゆっくりと、港を、離れ、大海原へと、乗り出した、まさに、その時だった。
「……ん?」
アッシュが、ふと、遥か遠く、大陸の内陸部の方角を、振り返った。
「どうしたの、アッシュ君?」
リリアナが、尋ねる。
「なんだか……すごく、あったかい光が、見えた気がしたんだ。じいちゃんの、暖炉の火みたいな、懐かしい、光……」
アッシュが、そう言った、直後。
彼が、指さした方角の、地平線の上が、一瞬、昼間のように、明るく、輝いた。
それは、あまりにも、遠い場所で、起きている、出来事。音は、全く、聞こえない。
しかし、そこにいる、誰もが、その、圧倒的な、エネルギーの衝突を、肌で、感じ取っていた。
天を突くほどの、巨大な、光の柱。
その中には、二つの色が、激しく、せめぎ合っていた。
世界を、凍てつかせるかのような、冷たい『白銀』の輝き。
そして、それに、一歩も、引かない、太陽のように、暖かく、力強い、『黄金』の輝き。
「……じいちゃんが、始めたんだね」
アッシュは、今度は、確信を持って、呟いた。
仲間たちの、進むべき道を作るため。
伝説の英雄が、『黎明の子供たち』の、主力と、その、世界の命運を分ける、戦いを、始めたのだ。
数日後。
氷海を、駆け抜けた、一行は、ついに、目的の、諸島へと、たどり着いた。
空は、不気味な、夕暮れの色に、染まっている。
その、最大の島の中央に、それは、あった。
黒い、玄武岩でできた、巨大な、環状列石(ストーンサークル)。天を、指し示す、モノリスの、祭壇。
『黄昏の祭壇』。
そして、その中心では、既に、数人の、ローブの者たちが、詠唱を、始めていた。
祭壇から、空へと、向かって、不気味な、白銀の光の柱が、立ち上り始めている。
空では、月が、ゆっくりと、太陽を、喰らい始めていた。
最後の戦いの、舞台は、整えられた。
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