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第63話 終焉の渦
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『黄昏の祭壇』。
銀色の結界の内側は、冷たく、静まり返った、異質な空間だった。
儀式を続ける、数名の、術者たち。そして、彼らを守るように、立ちはだかる、護衛の、『黎明の子供たち』。
「愚かな……。自ら、墓穴に入るとは」
術者たちの、中心に立つ、リーダー格の男が、嘲るように、言った。
「儀式は、間も無く、最終段階へと、移行する。お前たちは、ここで、世界の、新たな、夜明けを、見届ける、最初の、証人となるがよい!……始末しろ」
その、合図と共に、護衛たちが、一斉に、襲いかかってきた。
アレクシスとブロックが、即座に、その前に、立ちはだかる。
しかし、この、結界の内側では、敵の、『白銀の光』の、力が、増幅されており、二人の、猛攻も、巧みに、いなされてしまう。
「みんな!これを食べて!」
その、膠着状態を、打ち破ったのは、やはり、アッシュの声だった。
彼は、背負っていた、バスケットから、王宮で、作り上げた、『勇気のクッキー』を、仲間たちへと、放り投げる。
アレクシスとブロックは、それを、食べると、その身に、『黄金の光』が、宿るのを、感じた。力が、みなぎり、武器が、輝きを、帯びる。
形勢は、逆転した。黄金の光を、まとった、二人の英雄は、銀色の、護衛たちを、次々と、打ち破っていく。
しかし、儀式を、止めるには、至らない。
空では、太陽が、完全に、月の影に、隠れようとしていた。
「もう、遅い……」
儀式の、中心に立つ、男が、歓喜の、声を上げる。
「時は、満ちた!開け、終焉の門よ!来たれ、我らが、偉大なる、主!『厄災』よ!」
その瞬間、世界から、音が、消えた。
皆既日食が、完成する。
祭壇の、中心から、天へと、昇っていた、白銀の光の柱が、虚空に、一点の、歪みを、生み出した。
やがて、その歪みは、空間そのものを、引き裂き、渦を巻く、巨大な、『無』の、穴へと、姿を変えた。
それは、悪意でも、敵意でもない。
ただ、そこに、存在する、全てを、吸い込む、絶対的な、虚無。
光も、音も、魔力も、生命も、この世界の、あらゆる、概念が、その、渦の中へと、引きずり込まれていく。
儀式を、執り行っていた、『黎明の子供たち』は、歓喜の、表情のまま、その、渦の中へと、吸い込まれ、その、存在ごと、消滅していった。彼らにとって、それは、究極の、救済だったのだ。
「ぐっ……!体が、吸い込まれる!」
ブロックが、戦斧を、地面に、突き刺し、必死に、耐える。
アレクシスとリリアナ、そして、ルナもまた、その、抗いがたい、引力に、なすすべもなく、苦しんでいた。
しかし、アッシュだけは、違った。
彼の、内にある、あまりにも、膨大な、生命エネルギーが、虚無の、引力に、拮抗していたのだ。
彼は、ただ一人、平然と、その、世界の、終わりの光景を、見上げていた。
彼は、恐ろしい、とは思わなかった。
ただ、その、全てを、吸い込む、巨大な渦を見て、思った。
(うわあ……。すごく、すごく、すっごく、お腹が、すいてるんだなあ……)
それは、彼が、これまで、見た、どんなものよりも、飢えていた。
彼の、単純な、思考回路の中で、これほど、飢えている存在は、決して、悪ではない。
ただ、とてつもなく、美味しい、ご飯を、必要としているだけなのだ。
そして、その、ための、最高の、ごちそうが、今、ここにある。
アッシュは、決意した。
彼は、仲間たちが、苦しむ中、一人、立ち上がると、リリアナが、大事そうに、守っていた、巨大な、おやつの、バスケットを、両手で、抱え上げた。
その中には、彼が、この、一週間、丹精込めて、作り上げた、『黄金プリン』、『勇気のクッキー』、『元気の干し肉』など、彼の、生命エネルギーと、優しさの、全てが、詰まっていた。
「よーし……!」
彼は、その、巨大な、バスケットを、まるで、砲丸投げの、選手のように、高く、掲げた。
「おーい!真っ黒くろすけー!そんなに、お腹が、すいてるなら、これ、全部、お食べーっ!」
彼の、規格外の、腕力が、唸りを上げる。
仲間たちの、希望と、そして、世界の、おやつの、未来が、詰まった、巨大なバスケットが、放物線を描いて、宙を舞った。
そして、世界の、全てを、飲み込もうとしていた、巨大な、『厄災』の、渦の中心へと、吸い込まれていった。
それは、攻撃では、なかった。
ただ、腹を、空かせた、相手への、最大限の、善意。
英雄の孫が、放った、一投。
世界の終わりを、止めるための、あまりにも、規格外で、そして、あまりにも、美味しそうな、一撃だった。
銀色の結界の内側は、冷たく、静まり返った、異質な空間だった。
儀式を続ける、数名の、術者たち。そして、彼らを守るように、立ちはだかる、護衛の、『黎明の子供たち』。
「愚かな……。自ら、墓穴に入るとは」
術者たちの、中心に立つ、リーダー格の男が、嘲るように、言った。
「儀式は、間も無く、最終段階へと、移行する。お前たちは、ここで、世界の、新たな、夜明けを、見届ける、最初の、証人となるがよい!……始末しろ」
その、合図と共に、護衛たちが、一斉に、襲いかかってきた。
アレクシスとブロックが、即座に、その前に、立ちはだかる。
しかし、この、結界の内側では、敵の、『白銀の光』の、力が、増幅されており、二人の、猛攻も、巧みに、いなされてしまう。
「みんな!これを食べて!」
その、膠着状態を、打ち破ったのは、やはり、アッシュの声だった。
彼は、背負っていた、バスケットから、王宮で、作り上げた、『勇気のクッキー』を、仲間たちへと、放り投げる。
アレクシスとブロックは、それを、食べると、その身に、『黄金の光』が、宿るのを、感じた。力が、みなぎり、武器が、輝きを、帯びる。
形勢は、逆転した。黄金の光を、まとった、二人の英雄は、銀色の、護衛たちを、次々と、打ち破っていく。
しかし、儀式を、止めるには、至らない。
空では、太陽が、完全に、月の影に、隠れようとしていた。
「もう、遅い……」
儀式の、中心に立つ、男が、歓喜の、声を上げる。
「時は、満ちた!開け、終焉の門よ!来たれ、我らが、偉大なる、主!『厄災』よ!」
その瞬間、世界から、音が、消えた。
皆既日食が、完成する。
祭壇の、中心から、天へと、昇っていた、白銀の光の柱が、虚空に、一点の、歪みを、生み出した。
やがて、その歪みは、空間そのものを、引き裂き、渦を巻く、巨大な、『無』の、穴へと、姿を変えた。
それは、悪意でも、敵意でもない。
ただ、そこに、存在する、全てを、吸い込む、絶対的な、虚無。
光も、音も、魔力も、生命も、この世界の、あらゆる、概念が、その、渦の中へと、引きずり込まれていく。
儀式を、執り行っていた、『黎明の子供たち』は、歓喜の、表情のまま、その、渦の中へと、吸い込まれ、その、存在ごと、消滅していった。彼らにとって、それは、究極の、救済だったのだ。
「ぐっ……!体が、吸い込まれる!」
ブロックが、戦斧を、地面に、突き刺し、必死に、耐える。
アレクシスとリリアナ、そして、ルナもまた、その、抗いがたい、引力に、なすすべもなく、苦しんでいた。
しかし、アッシュだけは、違った。
彼の、内にある、あまりにも、膨大な、生命エネルギーが、虚無の、引力に、拮抗していたのだ。
彼は、ただ一人、平然と、その、世界の、終わりの光景を、見上げていた。
彼は、恐ろしい、とは思わなかった。
ただ、その、全てを、吸い込む、巨大な渦を見て、思った。
(うわあ……。すごく、すごく、すっごく、お腹が、すいてるんだなあ……)
それは、彼が、これまで、見た、どんなものよりも、飢えていた。
彼の、単純な、思考回路の中で、これほど、飢えている存在は、決して、悪ではない。
ただ、とてつもなく、美味しい、ご飯を、必要としているだけなのだ。
そして、その、ための、最高の、ごちそうが、今、ここにある。
アッシュは、決意した。
彼は、仲間たちが、苦しむ中、一人、立ち上がると、リリアナが、大事そうに、守っていた、巨大な、おやつの、バスケットを、両手で、抱え上げた。
その中には、彼が、この、一週間、丹精込めて、作り上げた、『黄金プリン』、『勇気のクッキー』、『元気の干し肉』など、彼の、生命エネルギーと、優しさの、全てが、詰まっていた。
「よーし……!」
彼は、その、巨大な、バスケットを、まるで、砲丸投げの、選手のように、高く、掲げた。
「おーい!真っ黒くろすけー!そんなに、お腹が、すいてるなら、これ、全部、お食べーっ!」
彼の、規格外の、腕力が、唸りを上げる。
仲間たちの、希望と、そして、世界の、おやつの、未来が、詰まった、巨大なバスケットが、放物線を描いて、宙を舞った。
そして、世界の、全てを、飲み込もうとしていた、巨大な、『厄災』の、渦の中心へと、吸い込まれていった。
それは、攻撃では、なかった。
ただ、腹を、空かせた、相手への、最大限の、善意。
英雄の孫が、放った、一投。
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