【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

第30話：音波ブレスレットと森の猟師

誠也はフィアルの宿で  
隠れ蓑マントを手に持っていた。  

窓の外、  
朝の光が土の道を照らし、  
遠くの森が静かに揺れる。  

「  護身用の道具が、もう少し欲しい。」  

フィアルの森で小さな魔獣が増えている噂を思い出す。  

大きな危険はないが、  
少し備えておきたい。  

隠れ蓑マントで目立たない暮らしを続けつつ、  
小さな守りを加える。  

市場へ向かう。  
鍛冶屋の店主が言う。  
「おお、また来たか。  
何が欲しい？」  

「細い鉄と小さな魔石をください。  
何か作ろうと思って。」  

「何かね。  
これでいいか？」  
細い鉄線と小さな魔石を出す。  
「鉄は銅貨10枚、  
魔石は5枚だ。」  

「ありがとう。」  
銅貨15枚を渡す。  

宿に戻り、  
製作を始める。  
机に鉄線と魔石を置く。  
「音波で魔獣を遠ざける護身用だ。  
小さくて目立たないやつにしよう。」  

鉄線を手に取る。  
冷たくて硬い。  
長さは腕を一周するくらい。  
「これをどう曲げるか。」  

小さなペンチを手に持つ。  
宿にあった古い工具だ。  
鉄線の端をつまみ、  
ゆっくり丸める。  
「きつすぎると着けにくいし、  
緩すぎると落ちる。」  

何度か試し、  
手首に軽くフィットする輪を作る。  
端を少し重ねて、  
外れないように調整。  
「これで形はいいかな。」  

次に魔石を手に取る。  
親指ほどの大きさで、  
透明に近い灰色だ。  
「音波を出すには  
振動が必要だ。  
魔石をどう固定するか。」  

鉄線の輪を広げ、  
魔石が乗る位置を探す。  
内側に小さな溝を削る。  
ナイフの先を使い、  
慎重に少しずつ掘る。  
「深すぎると割れるし、  
浅いと落ちる。」  

溝ができたら、  
魔石をはめる。  
ぴったり収まるが、  
まだ動く。  
「糸で固定しよう。」  

細い革紐を棚から取り、  
魔石の周りを巻く。  
鉄線に穴を開け、  
紐を通して結ぶ。  
「これで落ちない。  
見た目もシンプルだ。」  

最後に力を込める。  
「小さな音波を出し、  
敵を遠ざけろ」と意識を集中。  
目を閉じ、  
魔石に触れる。  

魔石が光り、  
ブレスレットが低く振動する。  
腕に着けると、  
ブーンと小さな音が響く。  
手に持つと、  
指先に軽い震えが伝わる。  

「できた。  
音波ブレスレットだ。  
これなら目立たず守れる。」  

試したい気持ちが湧き、  
森の入り口へ向かう。  
隠れ蓑マントを羽織り、  
木々の間を歩く。  
鳥がさえずり、  
風が葉を揺らす。  

すると、  
茂みから物音がする。  
小さな魔獣かと思い、  
ブレスレットを構える。  
だが、出てきたのは人だった。  

「おおっと、驚かせてごめん！」  
少女が手を上げる。  
短い茶髪に革の服、  
腰に弓と矢筒を下げている。  
目は鋭く、  
笑顔が明るい。  

「え、誰？」  
誠也がマントを脱ぐ。  

「私はリナ、  
フィアルの猟師だよ。  
森で魔獣を追ってた。  
お前、新顔だな。  
そのブレスレット何？」  

「誠也だ。  
フィアルに来たばかりで、  
これ、護身用に作ったんだ。  
音波で魔獣を遠ざけるやつ。」  

「音波？面白そう！  
試してみていい？」  

「うん、どうぞ。」  
ブレスレットを渡す。  

リナが腕に着け、  
森の奥へ向ける。  
低い音が響き、  
近くの茂みが揺れる。  
小さな魔獣「フォレストラット」が  
慌てて逃げ出す。  
鼠のような姿で、  
鋭い歯が光る。  

「おお、効いてる！  
これ、便利だな。  
森で魔獣が増えてて  
ちょっと困ってたんだ。」  

「そうなんだ。  
宿の主人が  
大したことないって言ってたけど。」  

「まあ、でかいのはいないよ。  
でも小さいのが  
畑を荒らすからさ。  
お前、道具作れるんだな？」  

「うん、ちょっとね。  
フィアルで静かに暮らしたくて。」  

リナが笑う。  
「静かか。  
でも森は賑やかだよ。  
私、猟師だから  
よく魔獣と会う。  
そのブレスレット、  
一緒に試さない？」  

「一緒に？  
どうするの？」  

「森の奥で  
魔獣の巣を見つけたんだ。  
小さいのが集まってる。  
音波で追い出したい。  
手伝ってくれると助かる。」  

誠也が考える。  
「平穏がいいけど、  
少しならいいかな。  
分かった、手伝うよ。」  

リナが案内し、  
森の奥へ。  
木々が密集し、  
地面が湿る。  
小さな穴がいくつか見える。  

「ここだ。  
フォレストラットが  
巣にしてる。  
音波は効くかな⁈」  

誠也が音波を出す。  
低い音が広がり、  
穴から鼠が飛び出す。  
10匹ほどが  
バラバラに逃げる。  

リナが弓を構え、  
「逃がすかよ！」  
矢を放ち、  
1匹の足を射る。  
鼠が止まり、  
リナが捕まえる。  

「これで畑は守れる。  
お前、いい道具作るな。  
また何か作ったら  
見せてくれよ。」  

「うん、いいよ。  
でも目立たないやつをね。」  

リナが笑う。  
「分かった。  
私も目立つの嫌いだ。  
また森で会おうぜ。」  

宿に戻り、  
音波ブレスレットを手に持つ。  
「リナか。  
フィアルにも面白い人がいるな。  
次は森で役立つ何か、  
罠センサーとかどうかな。」  

誠也は新たな出会いを胸に刻む。  
フィアルの静けさが、  
少し賑やかに感じられるのだった。