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第二話:『外れ』の烙印
「……君が、今回の『召喚』で迷い込んだ娘か」
目の前の美しい人は、流暢な日本語でそう言った。
その言葉に含まれた『召喚』『迷い込んだ』という単語が、私の頭の中で反響する。
(召喚……? まるで、ファンタジー小説みたい……)
呆然とする私に構わず、銀髪の彼は、後ろで膝をついている兵士たちに、今度は私が理解できない言葉で短く指示を出した。
兵士たちは「はっ」と返事をすると、足早に部屋から出ていく。
重い扉が閉められ、部屋には私とその人、二人だけが残された。
シン、と静まり返る室内。
緊張で、喉がカラカラに乾く。
「あの……あなたは……?」
かろうじて、それだけを尋ねるのが精一杯だった。
彼は、私から少し距離を取り、壁に寄りかかると、静かに口を開いた。
「俺は、カイ・フォン・シルヴァスタ。
エルドラ王国騎士団に所属している」
「かい……さん……? えるどら、おうこく……?」
聞き慣れない名前に、思わず繰り返す。
「そうだ。
ここは君が元いた世界……ニホン、だったか? とは違う世界だ」
カイと名乗った男性は、淡々とした口調で続ける。
「数時間前、この国の神殿で『聖女召喚』の儀式が行われた。
異世界から、魔物や瘴気を浄化する力を持つ『聖女』を呼び出すための、古来からの秘術だ」
「聖女……召喚……」
まるで他人事のように、その言葉を繰り返す。
頭が追いつかない。
私が異世界に来てしまったのは、その『召喚』とやらのせいだというのだろうか。
「通常、召喚されるのは聖なる力を持つ女性一人だけのはずだった。
だが、今回は何らかの手違いがあったらしい。
二人、召喚されてしまった」
彼の紫色の瞳が、私をじっと見据える。
冷たい、温度を感じさせない視線だ。
「一人は、神殿が確認したところ、確かに聖なる力……『聖気』をその身に宿していた。
彼女こそが、我々が待ち望んだ『聖女』様だろう」
「……もう一人は……?」
嫌な予感が、背筋を駆け上る。
聞きたくない。
でも、聞かなければならない。
カイは、僅かに眉を寄せた。
同情、ではない。
どちらかというと、厄介なものを見るような、そんな表情。
「……それが、君だ。
君からは、聖気が一切感じられない。
儀式に巻き込まれ、ただ迷い込んできただけの……いわば『外れ』、ということになる」
『外れ』。
その言葉が、重い石のように私の胸にのしかかる。
期待されていた聖女ではなく、ただの間違い。
必要とされていない存在。
「そん……な……」
嘘だ、と言いたかった。
何かの間違いだ、と。
だって、私は昨日まで、普通に日本の高校に通っていたのだ。
テストの心配をしたり、友達とカフェに行く約束をしたり。
それがどうして、こんな……。
「私は……家に、帰りたい……! 日本に帰してください!」
必死に訴える。
涙が、頬を伝った。
「元の世界に帰る方法は、基本的には存在しない。
召喚の術は一方通行だ。
過去、帰還できたという記録は、ない」
カイの言葉は、無情な宣告だった。
帰れない。
もう、あの平凡だけど当たり前だった日常には、戻れない。
「うそ……」
ガクン、と膝から力が抜ける。
その場にへたり込みそうになった私を、カイは支えようともしなかった。
ただ、冷ややかに見下ろしている。
「どうして……どうして私が、こんな目に……」
嗚咽が漏れる。
訳が分からない。
納得できない。
誰か、助けて。
元の場所に、帰して。
しばらくの間、部屋には私のすすり泣く声だけが響いていた。
カイは何も言わず、ただ静かに待っているようだった。
やがて、私が少し落ち着いたのを見計らって、彼は再び口を開いた。
「君が日本語を話すこと、そして俺がそれを理解できるのは、過去にも何度か、君たちの世界から人間が召喚された事例があるからだ。
その際に記録され、一部の者が習得している」
「……」
そんな説明は、今の私には何の慰めにもならなかった。
「それで……私は、どうなるんですか……?
『外れ』の私は……」
震える声で尋ねる。
捨てられるのだろうか。
それとも、もっと酷い目に遭うのだろうか。
この国にとって、私は招かれざる客、それどころか、厄介者でしかないのだから。
「……通常であれば、聖女ではない異世界人は、発見次第、即刻国外追放、あるいは……」
カイは言葉を濁す。
その先に続く言葉が、ろくなものではないことくらい、私にも想像できた。
体が、恐怖で再び震えだす。
「だが、今回は状況が特殊だ。
召喚の儀式に巻き込まれた形であり、君自身に罪はない。
それに……」
カイは何か言いかけて、やめた。
そして、小さくため息をつく。
「当面、君の身柄は俺が預かることになった。
王命だ」
「……預かる……?」
「ああ。
君がこの世界で生きていくための最低限の知識と、身の安全は保証しよう。
ただし、監視下に置かせてもらう。
勝手な行動は慎むように」
それは、優しさとは程遠い、事務的な通告だった。
でも、今の私には、それに従う以外の選択肢はない。
この異世界で、頼れる人など誰もいないのだから。
「……わかりました」
力なく頷く。
生きるためには、彼の言うことを聞くしかない。
「立てるか?」
カイが、無表情のまま手を差し伸べてきた。
その手を借りることに、少しだけ躊躇いを覚える。
けれど、私はおずおずと、その白く長い指に自分の手を重ねた。
彼の手に力を込められ、ゆっくりと立ち上がる。
「まずはここを出る。
君に割り当てられた部屋へ案内しよう」
そう言って、カイは私に背を向け、扉へと歩き出した。
銀色の髪が、部屋に差し込む淡い光を受けてキラキラと輝いている。
大きな背中。
騎士、という彼の言葉が、少しだけ現実味を帯びて感じられた。
これから、どうなるのだろう。
『外れ』の私に、居場所なんてあるのだろうか。
不安と心細さで胸がいっぱいになりながらも、私はカイの後ろを、小さな歩幅でついていった。
異世界での、私の新しい(そして、望まない)生活が、静かに始まろうとしていた。
目の前の美しい人は、流暢な日本語でそう言った。
その言葉に含まれた『召喚』『迷い込んだ』という単語が、私の頭の中で反響する。
(召喚……? まるで、ファンタジー小説みたい……)
呆然とする私に構わず、銀髪の彼は、後ろで膝をついている兵士たちに、今度は私が理解できない言葉で短く指示を出した。
兵士たちは「はっ」と返事をすると、足早に部屋から出ていく。
重い扉が閉められ、部屋には私とその人、二人だけが残された。
シン、と静まり返る室内。
緊張で、喉がカラカラに乾く。
「あの……あなたは……?」
かろうじて、それだけを尋ねるのが精一杯だった。
彼は、私から少し距離を取り、壁に寄りかかると、静かに口を開いた。
「俺は、カイ・フォン・シルヴァスタ。
エルドラ王国騎士団に所属している」
「かい……さん……? えるどら、おうこく……?」
聞き慣れない名前に、思わず繰り返す。
「そうだ。
ここは君が元いた世界……ニホン、だったか? とは違う世界だ」
カイと名乗った男性は、淡々とした口調で続ける。
「数時間前、この国の神殿で『聖女召喚』の儀式が行われた。
異世界から、魔物や瘴気を浄化する力を持つ『聖女』を呼び出すための、古来からの秘術だ」
「聖女……召喚……」
まるで他人事のように、その言葉を繰り返す。
頭が追いつかない。
私が異世界に来てしまったのは、その『召喚』とやらのせいだというのだろうか。
「通常、召喚されるのは聖なる力を持つ女性一人だけのはずだった。
だが、今回は何らかの手違いがあったらしい。
二人、召喚されてしまった」
彼の紫色の瞳が、私をじっと見据える。
冷たい、温度を感じさせない視線だ。
「一人は、神殿が確認したところ、確かに聖なる力……『聖気』をその身に宿していた。
彼女こそが、我々が待ち望んだ『聖女』様だろう」
「……もう一人は……?」
嫌な予感が、背筋を駆け上る。
聞きたくない。
でも、聞かなければならない。
カイは、僅かに眉を寄せた。
同情、ではない。
どちらかというと、厄介なものを見るような、そんな表情。
「……それが、君だ。
君からは、聖気が一切感じられない。
儀式に巻き込まれ、ただ迷い込んできただけの……いわば『外れ』、ということになる」
『外れ』。
その言葉が、重い石のように私の胸にのしかかる。
期待されていた聖女ではなく、ただの間違い。
必要とされていない存在。
「そん……な……」
嘘だ、と言いたかった。
何かの間違いだ、と。
だって、私は昨日まで、普通に日本の高校に通っていたのだ。
テストの心配をしたり、友達とカフェに行く約束をしたり。
それがどうして、こんな……。
「私は……家に、帰りたい……! 日本に帰してください!」
必死に訴える。
涙が、頬を伝った。
「元の世界に帰る方法は、基本的には存在しない。
召喚の術は一方通行だ。
過去、帰還できたという記録は、ない」
カイの言葉は、無情な宣告だった。
帰れない。
もう、あの平凡だけど当たり前だった日常には、戻れない。
「うそ……」
ガクン、と膝から力が抜ける。
その場にへたり込みそうになった私を、カイは支えようともしなかった。
ただ、冷ややかに見下ろしている。
「どうして……どうして私が、こんな目に……」
嗚咽が漏れる。
訳が分からない。
納得できない。
誰か、助けて。
元の場所に、帰して。
しばらくの間、部屋には私のすすり泣く声だけが響いていた。
カイは何も言わず、ただ静かに待っているようだった。
やがて、私が少し落ち着いたのを見計らって、彼は再び口を開いた。
「君が日本語を話すこと、そして俺がそれを理解できるのは、過去にも何度か、君たちの世界から人間が召喚された事例があるからだ。
その際に記録され、一部の者が習得している」
「……」
そんな説明は、今の私には何の慰めにもならなかった。
「それで……私は、どうなるんですか……?
『外れ』の私は……」
震える声で尋ねる。
捨てられるのだろうか。
それとも、もっと酷い目に遭うのだろうか。
この国にとって、私は招かれざる客、それどころか、厄介者でしかないのだから。
「……通常であれば、聖女ではない異世界人は、発見次第、即刻国外追放、あるいは……」
カイは言葉を濁す。
その先に続く言葉が、ろくなものではないことくらい、私にも想像できた。
体が、恐怖で再び震えだす。
「だが、今回は状況が特殊だ。
召喚の儀式に巻き込まれた形であり、君自身に罪はない。
それに……」
カイは何か言いかけて、やめた。
そして、小さくため息をつく。
「当面、君の身柄は俺が預かることになった。
王命だ」
「……預かる……?」
「ああ。
君がこの世界で生きていくための最低限の知識と、身の安全は保証しよう。
ただし、監視下に置かせてもらう。
勝手な行動は慎むように」
それは、優しさとは程遠い、事務的な通告だった。
でも、今の私には、それに従う以外の選択肢はない。
この異世界で、頼れる人など誰もいないのだから。
「……わかりました」
力なく頷く。
生きるためには、彼の言うことを聞くしかない。
「立てるか?」
カイが、無表情のまま手を差し伸べてきた。
その手を借りることに、少しだけ躊躇いを覚える。
けれど、私はおずおずと、その白く長い指に自分の手を重ねた。
彼の手に力を込められ、ゆっくりと立ち上がる。
「まずはここを出る。
君に割り当てられた部屋へ案内しよう」
そう言って、カイは私に背を向け、扉へと歩き出した。
銀色の髪が、部屋に差し込む淡い光を受けてキラキラと輝いている。
大きな背中。
騎士、という彼の言葉が、少しだけ現実味を帯びて感じられた。
これから、どうなるのだろう。
『外れ』の私に、居場所なんてあるのだろうか。
不安と心細さで胸がいっぱいになりながらも、私はカイの後ろを、小さな歩幅でついていった。
異世界での、私の新しい(そして、望まない)生活が、静かに始まろうとしていた。
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