許される世界

クレイン

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僕の日常

日常1(いつも通りの通学、クラスのギャルとキス)

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 ピピピピ ピピピピ ピピピピ ピピピッ
 枕元にある目覚まし時計を止めて寝返りを打つ。うつ伏せのままカーテンを僅かに開けると細い光の筋が薄く部屋を照らした。微睡んでいると今度はスマホのアラームが鳴った。
 アラームを止めてスマホで音楽アプリのプレイリストを流す。シャッフル再生で最初の一曲目が終わったところで、アプリを落としてベッドから下りた。
 
「おはよう。」
「おはよう。早いわね。」
「いつも通りだよ。」
 キッチンに入ると母さんが作った父の弁当があった。その隣にはご飯だけ入った弁当箱が2つある。僕は昨夜作っておいたオカズを冷蔵庫から取り出し弁当箱に詰める。
 弁当の準備を終え、居間に入ると朝食が並べられていた。いつも通りのトーストした食パンにウィンナー3本、日替わりのスープはコーンスープ。
「いただきます。」
 手を合わせてから朝食を食べる。いつも通りだ。
 
 朝食を食べ終えたころには父が出社する時間だ。
「じゃあ行ってきます。」
「「行ってらっしゃい。」」
 母さんと一緒に父さんを見送り、自分の用意に取り掛かる。
 僕は髪が短いからセットの必要はない。寝癖に水をつけて直してから歯を磨く。その間も寝癖が再発しそうになるため左手で押さえながら歯ブラシを動かす。歯磨きを終えて洗顔をしたら、あとは着替えるだけだ。
 制服を着てから教科書の確認。今日は体育服も忘れない。2つの弁当を包んで家を出る十分前には準備が終わり、居間でスマホを弄って時間を潰した。
 無料の漫画アプリを見ていたらアラームが鳴った。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」

 階段で地上まで下り、マンションの裏手にある駐輪場で自転車を取ってから出入り口まで押して歩く。
「おはよう。」後ろから声が聞こえて振り返ると同い年の女子が立っていた。
「おはよう、愛莉。早いね。」
「あんたもじゃん。」
「僕はいつも通りだよ。」
「私もだよ。」
 あまり意味のない会話をしながら、2人で出入り口まで歩く。「昨日のお弁当美味しかったよ。はいこれ。」僕は包みを彼女に差し出す。「ありがとう。あんたのもいつも美味しいよ。」と彼女は弁当をカバンに入れながら言う。
「じゃあ、気をつけてね。」「あんたもね。」彼女は右に歩いて行き、僕は自転車に跨り左に曲がって漕ぎ出す。

 漕ぎ出して十分ほどで最寄駅にたどり着き、駐輪場に自転車を置いてから駅内に入っていく。構内は多くの通勤通学する人で忙しなく感じる。改札を通って電車が来るまでホームで待機。
 特急電車を一本見送ってから、各駅停車の電車に乗り込む。車内は席が埋まり、立っている人がまばらにいる。今日はいつもより人が多いな、と思いながら吊り革ではなく座席から上に伸びる棒を掴んで体勢を維持する。
 電車が発車して少し経ち、優先座席の前におばあさんが立っているのに気がついた。おばあさんはカラフルな杖を持って座席横の肘掛けを掴んでいる。
 あの杖はいつもなら僕が電車にいる間は肘掛けに立てかけられ、おばあさんは席に座っているのだが、今日は優先座席に若い男性が腕を組み座っている。
 僕はゆっくりとそちらに向かい優先座席に座るガタイの良い男性に声をかけた。
「すいません、このおばあさんに席を譲ってあげてくれませんか。」
 男性は少し眠っていたらしく、驚いた表情で「お、ああ。」と言い立ち上がった。
「どうぞ。」
「あら、ありがとう。お兄さんもありがとうね。」
 おばあさんは僕と立ってくれたお兄さんにお礼を言って席にゆっくりと座った。お兄さんは照れ臭そうな顔をして吊り革を掴む。僕もドアの取っ手を持ち電車に揺られた。
 
 今日は早速良いことをした。晴れやかな気分で電車を降りて改札を抜ける。もう4月の後半だがまだまだ肌寒くて僕は首を竦めながら歩く。周りにはポツポツと同じ制服を着た学生が見える。
 
 学校に着き校門を通ると声をかけられた。
「おはよう。」
「おはようございます。先輩。」
 長い黒髪をたなびかせた先輩が話しかけてくる。
「今日は部活に来るのか?」
 先輩の方が身長が高いため少し前屈みになる。フワッと香る甘さは彼女自身の匂いだろうか。
「はい。委員会が終わったら行く予定です。先輩。」
 僕が答えると彼女は一瞬不満気な表情を浮かべてから、頬を合わせるくらい顔を近づけてきた。
「何度も言ったじゃないか。忘れたのか。」
 耳に唇が当たりそうな距離で彼女は囁く。
「っ、……すみません。涼子さん。」
 当たる吐息がくすぐったくて震えてしまう。
「うむ。では部活でな。」
 彼女は僕に笑いかけてから校舎に向かって歩いて行った。

 下駄箱で上履きに履き替えていると横に来たクラスメイトに話しかけられる。
「おはよう。今日の数学の課題やった?」
「おはよう。そりゃあやったよ。」
 まだ寒いのに生足を出して、健康的ですごくきれいな足だなと思いながら下駄箱を閉じる。
「お願い!写させて。」
 彼女は手の平を合わせて頭を下げてくる。大きな胸が一緒に揺れている。
「5時間目なんだから昼休みにやればいいんじゃない?」
 僕が歩き出すと彼女も後に続いた。
「昼休みは友達とお昼ご飯食べるの。だから朝早めに出てきてやろうと思ったんだよ。」
「なら今からやろう。教えてあげるから。高橋さんならやる気になればすぐなんだから。」
 彼女は面倒くさがりなだけで頭は悪くない。
「えー。…分かった、お願い。」
 僕と彼女は並んで教室まで歩いた。

 1-1の教室に入ると何人か既に登校していて、そのうち何人かは課題をやっている。
「ほらやっぱ皆んなやってないじゃん。」
 何がほらなのか分からないが彼女は自分の席にカバンだけ置いて、僕の席の隣で課題を始めた。
 ギャルっぽい見た目で髪も明るいアッシュグレーに染めているが、やはり彼女は勉強ができないわけじゃない。スラスラと問題を解いていくが、最後の応用問題でピタッとシャーペンが止まってしまった。
「ここ、どうやんの?」
 ちゃんと聞かれれば、僕も教えるのは嫌いじゃないので丁寧に説明する。最初は首を傾げていた彼女も閃いたのか急に手を動かし最後の問題を解いた。
「終わった!ありがとう。」
 彼女の笑顔はきれいだ。少し課題を手伝っただけでこの笑顔が見れるなら安いものだ。だが
「じゃあお返しにキスしてよ。」
 僕は彼女の目を見ながら言う。
「うん。じゃあお礼ね。」
 彼女はそう言うと僕の顔に手を添える。
 チュッ チュー ヂュー チュッチュ 
 彼女は僕の唇と舌を吸って笑顔を見せた。
「じゃあありがとうね。」
 彼女は課題のプリントを持って自分の席に戻って行った。
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