タクシー運転手さんと

クレイン

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水族館に行く

水族館

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 ファミレスから車を走らせること20分、今日の目的地である水族館に着いた。連休の土曜日ということもあってか結構人が多い。
「けっこう混んでますね。」
「そうね、家族連れが多いね。」
 チケットを買ってゲートを潜ると円柱型の水槽に入った魚たちが出迎えてくれた。
 
「パンフレットには右側に進んでいくようにありますね。それで最後に今左にあるお土産屋さんに着くルートがおすすめされてます。」
「じゃあそのガイドに沿って見ていこうか。」
 チケットと引き換えに貰ったパンフレットを2人で見ながら並んで進んでいく。

 奥に進んでいくにつれて照明の数が少なくなり、薄暗くなってきた。水槽から漏れてくる青い光で照らされる鏡花さんの横顔に見惚れながら魚たちを見て回る。
「きれいですね。今思えば水族館に来たの小学生以来です。」
「そうね。家族連れかカップルが多いものね。」
 名前も分からない魚が優雅に泳ぐ様を見ていると落ち着いてくる。
「なんか心が無心になってきますね。」
「そうね、なんかいつまでも見ていられるような感覚になるわ。」
 俺も同じことを思った、魚が泳いでる姿もだが、それを眺める鏡花さんもセットでいつまでも見ていられる自信がある。

 奥に進んでいくと暗いスペースに様々なクラゲが展示されていた。プカプカと浮かぶクラゲが青い照明に照らされて神秘的な雰囲気を醸し出している。
「さっきも同じこと言いましたけど、きれいですね。」
「ふふ、そうね。きれいしか思いつかないわね。」
 2人で水槽に近付いて間近にクラゲを鑑賞する。全体をフワッと見ると幻想的できれいに見えたが一匹に注目して凝視していると触手などに目が行ってしまう。
「クラゲって生きてるのか分かり辛いね。」
「そうですね。……クラゲ、種にもよるが寿命は数ヶ月から長くても一年。」
「そうなんだ。じゃあこの子たちも分からないだけで何ヶ月かで入れ替わってるんだね。」
「そうですね。知らないうちに。」

 更に進むと博物館チックなところに入った。
「うぉすごいですね。こんなデカいんだ。」
「ヤバいね、縦に飲み込まれちゃいそう。」
 目の前にはホホジロザメの歯が展示されており、家族連れが係員に写真を撮ってもらっている。
「俺たちも写真撮ります?」
「うん一緒に撮ってもらおうか。」
 ちょうど列が途切れて写真待ちをしている人が居なくなった。向かおうとすると鏡花さんが腕を組んできた。
「行こうか。」
「はい。」
 
「――撮りますよー。はい。もう一枚――」
 サメに食われる想像をしながら係員に写真を撮ってもらった。腕を組んだまま撮ったので傍から見れば恋人同士に見えるだろう。
「「ありがとうございました。」」
「いえいえ、この先もお楽しみください。」
 スマホを受け取って腕を組んだまま先に進んでいく。
「後で写真送って。」
「はい。」

 進むと深海コーナーに入った。
 タカアシガニやダイオウグソクムシなどが人気のようで少しずつ人が見ている。
「キモかわいいってやつだね。」
「そうみたいですね。」
 じっとしているダイオウグソクムシを見ながら小さい声で会話する。深海に寄せているのか今までより暗いのもあってすごく静かに感じる。
「……なんか鎧みたいでかっこよさも感じます。」
「ああ……うーん?そうかな。」
「男しか分からない感覚かもしれないですね。」
「ふふ、男の子だもんね。」
 28歳に男の子は恥ずかしいが、腕組みでテンションが高くなっているので気にならない。

 深海コーナーの一角には何か分からない生き物が展示されていた。
「これ何かな?すごいきれいだけど。」
「えーと、カイロウドウケツらしいです。」
「初めて聞いた、サンゴ的な感じかな?」
「……海綿動物らしいです。よく分かんないですね。」
 オシャレな間接照明のカバーみたいな生き物が淡い光に照らされている。よく分からないがきれいだ。
「何か説明がありますね。なんかここにはいないみたいですけどドウケツエビっていうエビと共生関係にあるみたいです。」
「へー、見せて。」
「どうぞ、そのドウケツエビの夫婦が一生カイロウドウケツの中で暮らすらしくて仲睦まじい夫婦の象徴らしいです。」
「へー。」
 パンフレットの説明には偕老同穴の契り、夫婦仲よく共に年を取り死後も同じ墓に葬られましょうという誓い。 夫婦の契りの固いことをいう。と説明書きがあった。
「……こんな夫婦って理想だよね。」
「……そうですね。」
 腕にかかる力が少し強くなった気がした。

「何かお土産屋さんで買いますか?」
「そうだね。一通り見てみようか。」
 水族館内を一回りして出入り口付近の土産屋にきた。魚やイルカなどをデフォルメしたぬいぐるみが人気らしく大きくスペースが設けられている。
「さすがにぬいぐるみはいらないなぁ。」
 華麗にスルーしてストラップやキーホルダーのスペースを見る。
「――これ鏡花さんに似合いそうですね。」
 濃い青色をしたイルカのイヤリングを手に取って彼女に見せる。
「そう?じゃあ買おうかな。」
「俺が買うのでプレゼントしていいですか?」
「本当?ありがとう。じゃあ私も何か慶介さんに似合いそうなやつ探すね。」
「ありがとうございます。もし見つかればお願いします。」
 俺の分の土産を探しに行った彼女の背中を見てから、下の方にあったエビの形のアクセサリーを手に取った。

「ありがとう慶介さん、早速着けてみました。」
「すごくきれいです。」
「ありがとう。ごめんね慶介さんに似合うアクセサリー分からなかったから、キーホルダーにしちゃって。」
「いえ、嬉しいです。」
 こちらも青いイルカのキーホルダーをもらった。着けるところがないので今は財布に入れている。
「じゃあ車出すね。」
「はい。お願いします。」

 水族館を後にして夕日を見ながら車に揺られる。
 魚たちを見て落ち着いた心がまた緊張してきた。
 前と同じようなホテルに行ってお泊まりコース。この間の予定を立てる電話で言われたことだ。
「鏡花さん。この後は。」
「電話で話した通りだけど。なんか予定あるなら拾った駅に降ろすけど。」
「いえ、ないです。前と同じでお願いします。」
 俺が情けなく縋るように見ると彼女は微笑んでいた。
「ふふ、ごめん意地悪言って。もし嫌って言われたら私も欲求不満になるところだったし。」
 生々しい表現をしながら僕に流し目を送る彼女の顔は夕日に照らされて赤く染まっていた。
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