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水族館に行く
昼食
しおりを挟む軽自動車に近付いていくと笑顔で手を振る鏡花さん。
「おはようございます。」
「おはよう。助手席乗って。」
「はい…失礼します。」
私服姿の鏡花さんに見惚れながら助手席に座ってシートベルトを掛ける。
「シートベルト大丈夫だね。じゃあ一旦車出すよ。」
「はい。」
「ごめんねちょっと遅かった?」
「いえ来たばかりだったので。」
「そう?」
実際会って会話できるか不安だったが自然に言葉が出て安心する。
「前と違う車だったので最初分かりませんでした。」
「普段使いはこっちなんだ。今日はプライベートだからね。こっちの方が小回り効くし。」
「そうなんですね。今日はよろしくお願いします。」
「うん、気楽に楽しもう。」
今日の鏡花さんは私服だ。薄いピンク色のニットのトップス、黒いジャケットを羽織って、下は白いカーゴパンツを履いている。俺はオシャレは空っきしだが彼女によく似合ってる気がする。
「鏡花さん、今日もおきれいですね。」
「ありがとう、慶介さんもかっこいいですよ。」
「…ありがとうございます。」
言われ慣れているのか笑顔で流されてしまった。
そりゃあこんなに美人なら言われることも多いだろう。記憶の中の彼女と変わらず、目の前にいる分記憶の中よりきれいに見える。思い出は美化される理論からいくと見慣れてもいいはずだが全然ドキドキする。
「ここまでもけっこう時間かかりましたよね?」
「うーんまぁ、2時間くらいですかね。」
「休憩とか大丈夫ですか?鏡花さんのタイミングで自由に取ってくださいね。あと何かして欲しいこととかあったら言ってください。」
「ありがとう、休憩は疲れる前に取るようにしてるから大丈夫。あと、そんなに張り切らなくていいよ。気楽にね。昨日の電話でもすごい申し訳なさそうにしてたし、2人でリラックスして楽しもう。プライベートだし。」
「…はい、すみません。そうですね。もうちょっと気抜きます。」
少し空回ってしまった。彼女の言う通り今日はプライベートなんだ。気楽に楽しもう。彼女と過ごせるだけで幸せなんだ、いいように見られようとかこれ以上求めたらダメだ。
「昼ごはんはテキトーにファミレスってことで良かったよね。」
「はい。入れそうなところでいいんじゃないですか?」
「そうね。タイミング良さげなときがあったら入るね。」
行き当たりばったりだが逆に普段の遊びみたいで楽しい。特別なところじゃなくてファミレスってところが何の気なしに遊んでる感じですごくいい。
左を見ると見慣れない景色が後ろに流れていく。右を向くと美人がハンドルを握っている。自然と右側を向くことが多くなり、やがてずっと右側を向くことになる。白いきれいなほっぺた、赤縁メガネの隙間から見える瞳、筋が通った高めの鼻、既に柔らかいことを知っている赤赤とした唇、どこを見てもきれいだ。
ボーッと横顔を眺めていると信号で車が止まった。彼女の顔から視線を外し正面を見る。
ドリンクホルダーからお茶を取って飲む彼女をチラ見する。唇がペットボトルに当たって形を変えているのが見えてなぜか興奮する。
「見過ぎ。」
「……え?あっすみません。」
一瞬何と言われたのか分からなくて反応が遅れた。見ていたのはバレていたらしい。
「そんなに見蕩れるくらい?」
「はい、見蕩れるくらいきれいです。」
「そんな直球で言われると照れるねぇ。」
微笑まれると年甲斐もなくトキメいてしまう。
「…慶介さん、さっき言ってた何かして欲しいことって何でもいいの?」
「えっ、はい俺にできることなら。」
「じゃあキスして。」
「えっ?」
「ほら信号変わっちゃうから。」
「はい…」
こちらを向いて口を少し突き出す鏡花さんはすごくきれいで緊張する。アームレストに手を置いて身を乗り出す。きれいな顔にどんどん近付いていって唇が唇に触れた。数秒間唇を押し付けてから座り直す。彼女は満足そうに笑っていた。
信号が青になって車が発進した。
「鏡花さんは普段は何してるんですか?」
キスしたことで振り切れた感がある。
「普段?休みの日はドライブしたりしてるよ。後は家にいるときは動画見たりとか、普通に友達と遊んだりとかかな。」
「そうなんですね。」
ドライブは1人で行くのだろうか、それとも誰かと一緒に?遊ぶ友達は女の人なのだろうか。聞きたいことがいくつもできてしまうが俺が聞けることじゃない。
「ドライブは最近どこか行きました?」
「一番最近は慶介さんと行った海かな。でもあれは一応仕事だったから、それ以外だと普通に何も考えずに車走らせてスパゲッティ食べて帰ったかな。」
「楽しそうですね。」
「うん、何も考えずに車走らせるのはいい気分転換になるよ。今度一緒に行く?」
「いいんですか?行きます。」
「じゃあまた予定決めようね。」
自分の都合のいい方向にばかり物事が進んでいく。こんなに何も苦労せずに美人といい感じになれていいんだろうか。
「ここのファミレスでいい?」
「はい、お願いします。」
ファミレスの店内は休日だからかけっこう混んでいた。8割方席が埋まっているが待つほどではない。
「水取ってきますね。」
「うん、ありがとう。」
セルフサービスの水を取ってからテーブル席に戻る。メニューを広げて眺める鏡花さんは店内だと少し目立つ。席を通り過ぎる男共がチラチラと見ている。
「お待たせしました。」
「ありがとう。」
男共の視線を集める美人と俺は食事を共にする。優越感と不安感を感じながら席に座る。
店員を呼んで注文して今は待ち時間、正面には鏡花さん。彼女を見ていれば待ち時間なんて一瞬だがジロジロ見る訳にもいかない。
「ここから水族館までどれくらいでしたっけ?」
「20分くらいだよ。」
彼女はスマホを取り出して弄り始めた。もっと会話したかったがしょうがない。俺もスマホで時間を潰そうと開くと彼女がスマホの画面をこちらに向けてきた。
「これ、さっき話してた動画投稿者。芸人さんなんだけど配信とかもしてて面白いよ。」
「そうなんですね。見てみます。」
「うん。〇〇って動画面白いから見てみて。」
笑顔でおすすめ動画を見せてくる鏡花さん。やばい、トキメいてしまう。
「おいしかったね。」
「はい。ファミレス久しぶりでしたけどやっぱり美味しいですね。」
「安いし、ときどき行きたいね。じゃあ目的地の水族館に向けて出発しますね。」
「…なんか運転手っぽかったですね、今。」
「あら、職業病かな?ふふ、じゃあ車出すよ。」
「はい。お願いします。」
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