「婚約破棄します」その一言で悪役令嬢の人生はバラ色に

有栖川灯里

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王都レーヴェンシュタインは、祭礼の準備に浮かれていた。

“聖女リリー=シャルマン、神の代弁者として正式戴冠”──。  
それは、王家と神殿が共同で行う宗教儀式にして、政治的演出でもある。

通りには花が飾られ、民衆は“奇跡の乙女”を見ようと期待に沸いていた。

けれど、王宮の奥。  
誰もが立ち入れぬ私室で、ユリアナ王妃は冷たい声で言った。

「……エヴァリーナが戻ってくるそうですわ。戴冠式の当日に」

執務机の前で凍りついたのは、王太子エドモンドだった。

「な、なぜ……いまさら……」

「あなたの失敗よ。彼女が沈黙を選ぶと思っていたのなら、甘かった。あの子は、そういう娘じゃなかったのよ」

ユリアナの指先が、帳面の写しをなぞる。

「神殿からの通達はすでに万全。でも、この帳面が公開されれば、リリーの奇跡はただの幻になる」

「だが……民は、彼女を信じている!」

「だからこそ、最も効果的なのよ。信じ切った時にこそ、真実の刃は深く刺さる」

ユリアナは涼しげな表情のまま言い切った。

「エヴァリーナの沈黙は、優しさではなく“戦略”だった。それに気づけなかったあなたが、王としては未熟だったの」

その言葉に、エドモンドは俯いた。

一方その頃──。

ヴァイセローゼ邸では、エヴァリーナが王都行きの馬車の準備を整えていた。

「……いよいよですね、お嬢様」

ユリアがそっと言う。  
私が頷くと、祖母マルグリットが背後で腕を組んだ。

「護衛は私の古い知り合いをつけてある。万が一、神殿が“手”を回しても平気なようにな」

「ありがとうございます。けれど、私は戦いに行くのではなく、ただ舞台に立ちに行くだけです」

「まったく……十七歳でそんなことを言える子なんて、他にいないだろうね」

祖母の言葉に私は小さく笑った。

──私は“悪役令嬢”として断罪された。  
──そして今、“悪役令嬢”として、真実を語る。

何も奪わない。誰も追いつめない。  
ただ、あの日の“嘘”に、静かに幕を下ろすだけ。

馬車の扉を開けたその瞬間、空に鳴り響いたのは鐘の音だった。

“戴冠の始まりを告げる鐘”  
──それは同時に、真実を暴く序曲でもあった。
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