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「……以上をもって、本日の公開討論を締めくくります」
進行役の声が、ゆっくりと広場に落ちた。
だが、誰もすぐには動かなかった。
壇上に立った三人の姿を、王都の人々はただ静かに見つめていた。
神殿の象徴、問いかける神官、そして声を持たなかった者の語り手。
その余韻が消えぬまま、ひとりの王家使者が壇上へと歩み出る。
クラウス=レイネルト。
王妃の密使として、幾度もこの学び舎に足を運んだ男だった。
「──これより、王家よりの声明を代読いたします」
広場に再び沈黙が満ちる。
「王家は、“聖女制度”の存在を、信仰と秩序の両面から重く受け止めております。
同時に、これまでその制度の中で“語ることを許されなかった者たち”の声が、
制度の外に数多く在ったことを深く認識いたしました」
エヴァリーナは、言葉ひとつひとつに耳を澄ませた。
これは彼女が求めた“破壊”ではない。
“訂正”でも“赦し”でもない。
それは、“制度という物語の書き直し”だった。
「よって、王家は神殿に対し、“聖女制度の段階的見直し”と“信仰教育の再構築”を正式に提案いたします。
すべての者が、“名を選ぶ権利”と“祈る自由”を持つために──」
文が閉じられた瞬間、広場には言葉のない衝撃が走った。
だが次の瞬間、ひとつの拍手が上がる。
それは、群衆の中央で手を合わせていた少年だった。
その拍手は、次第に左右へ、後方へ、波紋のように広がっていった。
誰も声を上げなかった。
けれど、その静かな拍手の連鎖こそが、“理解された証”だった。
壇上に立つエヴァリーナは、ふと目を伏せた。
思えば、あの断罪の日。
この王都の広場で、自分はひとつの役を終えたにすぎなかった。
けれど今、自分はもう“語り終えた者”ではない。
──語り始めた者だ。
視線の先に、カミル王子が小さく頷いた。
その後ろで、神官たちの一部が小さく手を合わせていた。
すべてが変わるには、まだ遠い。
けれど、“変わると信じてもよい日”は、今日だった。
そしてその夜、エヴァリーナは迎賓館の書斎で一通の手紙を広げた。
差出人は、《アウストリアの灯》の子どもたち。
便箋には、幼い筆跡でこう記されていた。
《エヴァリーナさん、今日のお話、ちゃんと聞こえました。
名前って、もらうものじゃなくて、信じて呼ぶものだって、覚えておきます。
はやく帰ってきてください。ここは、あなたの居場所です》
私は目を閉じた。
──ただ語ることしかできなかったはずの私が、
いま、“何かを動かした”と、ようやく思えた。
そして私は、ようやく確信する。
名を奪われた物語が、今日、“名を取り戻した物語”へと変わったのだと。
進行役の声が、ゆっくりと広場に落ちた。
だが、誰もすぐには動かなかった。
壇上に立った三人の姿を、王都の人々はただ静かに見つめていた。
神殿の象徴、問いかける神官、そして声を持たなかった者の語り手。
その余韻が消えぬまま、ひとりの王家使者が壇上へと歩み出る。
クラウス=レイネルト。
王妃の密使として、幾度もこの学び舎に足を運んだ男だった。
「──これより、王家よりの声明を代読いたします」
広場に再び沈黙が満ちる。
「王家は、“聖女制度”の存在を、信仰と秩序の両面から重く受け止めております。
同時に、これまでその制度の中で“語ることを許されなかった者たち”の声が、
制度の外に数多く在ったことを深く認識いたしました」
エヴァリーナは、言葉ひとつひとつに耳を澄ませた。
これは彼女が求めた“破壊”ではない。
“訂正”でも“赦し”でもない。
それは、“制度という物語の書き直し”だった。
「よって、王家は神殿に対し、“聖女制度の段階的見直し”と“信仰教育の再構築”を正式に提案いたします。
すべての者が、“名を選ぶ権利”と“祈る自由”を持つために──」
文が閉じられた瞬間、広場には言葉のない衝撃が走った。
だが次の瞬間、ひとつの拍手が上がる。
それは、群衆の中央で手を合わせていた少年だった。
その拍手は、次第に左右へ、後方へ、波紋のように広がっていった。
誰も声を上げなかった。
けれど、その静かな拍手の連鎖こそが、“理解された証”だった。
壇上に立つエヴァリーナは、ふと目を伏せた。
思えば、あの断罪の日。
この王都の広場で、自分はひとつの役を終えたにすぎなかった。
けれど今、自分はもう“語り終えた者”ではない。
──語り始めた者だ。
視線の先に、カミル王子が小さく頷いた。
その後ろで、神官たちの一部が小さく手を合わせていた。
すべてが変わるには、まだ遠い。
けれど、“変わると信じてもよい日”は、今日だった。
そしてその夜、エヴァリーナは迎賓館の書斎で一通の手紙を広げた。
差出人は、《アウストリアの灯》の子どもたち。
便箋には、幼い筆跡でこう記されていた。
《エヴァリーナさん、今日のお話、ちゃんと聞こえました。
名前って、もらうものじゃなくて、信じて呼ぶものだって、覚えておきます。
はやく帰ってきてください。ここは、あなたの居場所です》
私は目を閉じた。
──ただ語ることしかできなかったはずの私が、
いま、“何かを動かした”と、ようやく思えた。
そして私は、ようやく確信する。
名を奪われた物語が、今日、“名を取り戻した物語”へと変わったのだと。
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