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第一章
34 補佐のプロローグ
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「おはよう、オーウェン殿。今日はよろしく頼むね」
のそりと登場したジュノ様にこちらも挨拶を返していると、女性の声がかかった。
「おはようございます、ジュノ様。本日はクイーン直属第二部隊が護衛を務めます。よろしくお願い致します」
ハリのある落ち着いた声だ。その髪のように晴れ晴れとした青空のような澄んだ声でもある。騎士の礼を執り一息に言った彼女にジュノ様は眉根を寄せた。
「ふん。知らんぞ私は。第二部隊長のエルザ殿なんぞ、これっぽっちも知らん」
知っているのでは……?
怒っているというより拗ねた表情のジュノ様に訝しんで、思わず女性と目を見合わせた。
俺の視線に気付いた彼女は困ったように眉尻を下げて肩をすくめる。
「もう、おじいちゃんったら。補佐様の前なんだから格好つけさせてよ」
「……お孫様でいらっしゃいますか?」
全く似ていない二人を思わず見比べると女性は手を横に振り「違うんです」と否定した。
「ジュノ様のお孫様がアカデミーからの私の友人なんです。それで幼い頃から可愛がっていただいていて」
「そうだよ。昔からこの子達は本当に可愛くて可愛くて仕方なかったのに、ルー坊もゼン坊も最近では絶対におじいちゃんなどと呼ばなくなって。寂しいものよなぁ」
「……それ絶対にあの二人の前で言っちゃだめよ」
やれやれと首を振り嘆くジュノ様にかかる女性の声が苦い。
そんな彼女にもジュノ様は「ノエ坊は変わらず今も可愛い」とあっけらかんと言っている。
昔をよく知られている「おじいちゃん」に辟易しているキングとクイーンの姿を想像すると少し可笑しかった。
「すみません、お恥ずかしいところを」
拗ねる老人を微笑ましく見ていると、女性が申し訳なさそうに話しかけてきて慌てた。
「いえ、とんでもない!」
「本日護衛を務めます、第二部隊長のエルザと申します。よろしくお願い致します、補佐様」
差し伸べられた手を握るのに一瞬躊躇した。なにせあの巧みな魔法を操る手だ。手汗は大丈夫か。
「そうだ、エルザ。お前さんはまだルー坊と結婚しないのかい?」
手を握る寸前にかかった声に思わず手を引いた。
「もう。そんなんじゃないって言ってるでしょ。私は結婚なんてしません」
「まったく。孫と同じことを言いよるのだから」
嘆きながらこちらを見たジュノ様は良いものを見つけたとばかりに目を輝かせた。
「オーウェン殿には決まった人はおるのかな? うちの孫はなかなか見目も良いし気立ての良い子だよ。君の嫁にどうかな?」
唐突すぎないか!?
「いえ、私はまだ結婚は……」
「一度な、会ってみるだけでも」
「いえ、その……」
一度だけ! と拝まれて困っているとエルザ殿が助け船を出してくれた。
「そうですね、ミアが好きそうな方だわ」
助け船じゃなかった。
くすくすと笑うエルザ殿に少し恨みのこもった目を向けてしまう。
「聞き流してください。おじいちゃんったら若い男性を見るとすぐに孫を売り込むんです」
興味があれば別ですがと言い添えて、やってきた馬車にジュノ様を促した。
「エルザ、お前さんもこちらにおいで」
馬車の中で手招きするジュノ様にエルザ殿はにっこり笑って「護衛だって言ってるでしょ。補佐様、よろしくお願いしますね」と無情にも扉を閉めた。
「まったく。孫の成長とは喜ばしいことであり寂しくもあるのだから。オーウェン殿の御祖父母はご健勝かな?」
馬車の中の話題は俺の祖父母の話から巧みに若い人の結婚に変わり、揺れる馬車の中でお孫様を売り込まれ続ける羽目になった。
のそりと登場したジュノ様にこちらも挨拶を返していると、女性の声がかかった。
「おはようございます、ジュノ様。本日はクイーン直属第二部隊が護衛を務めます。よろしくお願い致します」
ハリのある落ち着いた声だ。その髪のように晴れ晴れとした青空のような澄んだ声でもある。騎士の礼を執り一息に言った彼女にジュノ様は眉根を寄せた。
「ふん。知らんぞ私は。第二部隊長のエルザ殿なんぞ、これっぽっちも知らん」
知っているのでは……?
怒っているというより拗ねた表情のジュノ様に訝しんで、思わず女性と目を見合わせた。
俺の視線に気付いた彼女は困ったように眉尻を下げて肩をすくめる。
「もう、おじいちゃんったら。補佐様の前なんだから格好つけさせてよ」
「……お孫様でいらっしゃいますか?」
全く似ていない二人を思わず見比べると女性は手を横に振り「違うんです」と否定した。
「ジュノ様のお孫様がアカデミーからの私の友人なんです。それで幼い頃から可愛がっていただいていて」
「そうだよ。昔からこの子達は本当に可愛くて可愛くて仕方なかったのに、ルー坊もゼン坊も最近では絶対におじいちゃんなどと呼ばなくなって。寂しいものよなぁ」
「……それ絶対にあの二人の前で言っちゃだめよ」
やれやれと首を振り嘆くジュノ様にかかる女性の声が苦い。
そんな彼女にもジュノ様は「ノエ坊は変わらず今も可愛い」とあっけらかんと言っている。
昔をよく知られている「おじいちゃん」に辟易しているキングとクイーンの姿を想像すると少し可笑しかった。
「すみません、お恥ずかしいところを」
拗ねる老人を微笑ましく見ていると、女性が申し訳なさそうに話しかけてきて慌てた。
「いえ、とんでもない!」
「本日護衛を務めます、第二部隊長のエルザと申します。よろしくお願い致します、補佐様」
差し伸べられた手を握るのに一瞬躊躇した。なにせあの巧みな魔法を操る手だ。手汗は大丈夫か。
「そうだ、エルザ。お前さんはまだルー坊と結婚しないのかい?」
手を握る寸前にかかった声に思わず手を引いた。
「もう。そんなんじゃないって言ってるでしょ。私は結婚なんてしません」
「まったく。孫と同じことを言いよるのだから」
嘆きながらこちらを見たジュノ様は良いものを見つけたとばかりに目を輝かせた。
「オーウェン殿には決まった人はおるのかな? うちの孫はなかなか見目も良いし気立ての良い子だよ。君の嫁にどうかな?」
唐突すぎないか!?
「いえ、私はまだ結婚は……」
「一度な、会ってみるだけでも」
「いえ、その……」
一度だけ! と拝まれて困っているとエルザ殿が助け船を出してくれた。
「そうですね、ミアが好きそうな方だわ」
助け船じゃなかった。
くすくすと笑うエルザ殿に少し恨みのこもった目を向けてしまう。
「聞き流してください。おじいちゃんったら若い男性を見るとすぐに孫を売り込むんです」
興味があれば別ですがと言い添えて、やってきた馬車にジュノ様を促した。
「エルザ、お前さんもこちらにおいで」
馬車の中で手招きするジュノ様にエルザ殿はにっこり笑って「護衛だって言ってるでしょ。補佐様、よろしくお願いしますね」と無情にも扉を閉めた。
「まったく。孫の成長とは喜ばしいことであり寂しくもあるのだから。オーウェン殿の御祖父母はご健勝かな?」
馬車の中の話題は俺の祖父母の話から巧みに若い人の結婚に変わり、揺れる馬車の中でお孫様を売り込まれ続ける羽目になった。
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