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ホットケーキ

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 桜の花が散り、若葉が出始める頃。
 私は日常に戻ったことをふと、嘆く。

「春休みって、あっという間だよね」
「え? まぁ、そうだけど。フフ」

 ルームシェアをしている同じ大学の友人、実乃里みのりちゃんが、朝食に作ったホットケーキにハニーシロップをかけながら「甘いねぇ~うん。甘い甘いで美味しくなぁれ~」と私の顔を見て、クスクス笑っている。

「ちょっと実乃里さぁん? なぜ笑っているのかなぁ?」
「えぇ~何でもないよぉ。ほ~ら出来た! 『みのりん特製ホットケーキ』ですよぉ♪」
「わぁーい、ありがとう~! すっごい美味しそ……って、そうじゃなくって!!」
「おや、ふわりちゃんてば、何のことかしら? さぁさぁ~冷めないうちに食べよ、食べよ」
「ん……ぅ。いただきまぁす」

(いつも、実乃里ちゃんに上手く話をはぐらかされる私ですが)

 ホットケーキは、私の大好物だ。

 何も言わなくても気持ちが伝わるのか? 私が元気のない時や、何か悩み事があったりすると必ず実乃里ちゃんはこの『みのりん特製ホットケーキ』を作ってくれる。その完璧な焼き加減と甘い香り、見るからにフカフカの生地が嘆いていた心を潤していく。

(しかも今日は、くまさんの型で焼いてくれてるぅ。可愛い~癒やされる~食べるのもったいなぁい!)

「でも……ぱくん。はぅ、かわひぃ~おいひぃ~、そして幸せぇ♪」

「そりゃあ、そうっしょ! 今日のホットケーキはねぇ、って込め込めぇしまして。ふわあまバージョンで作ったからねぇ」

「ぇ、にゃに、それ」

「だって。ふふっ、あれでしょ? ふわりは春休み中に“輝く金色髪の天使様”に、もう一度会いたかったんでしょ?」

「うッ……」

「だからさ『会えますように~』って意味で、甘々ホットケーキを作ったというわけさ」

「んぐっきゅん! ケホケホ……」

 なんと今日は、はぐらかされるどころか逆にグイッと突っ込まれた私は驚き、食べていたホットケーキと一緒に言葉を詰まらせる。

「んくっ、はー、そ……それはそのぉ」

――また、会いたい。
(確かにそうかも? だけどぉ)

 そう、気付けば私はあのお気に入りの並木道へ通うようになっていた。

 春休み中でも調べものがあると言って大学へ行き、もちろんそれは普段からあることなので怪しまれなかったが、しかし。いくらお気に入りの場所とはいえ、大学までずいぶん遠回りになる並木道を毎日のように歩いて通う私に気付いた実乃里ちゃんは、さすがにおかしいと思ったのか?

 ある日、とても心配そうに「どうしたの?」と聞かれた。

 それでずっと気になっていた桜並木道での出来事。あの日に出会った“天使のような人”の事を、話したのである。

――また、偶然あの人に会えないかな? なぁんて。

「でもさ、もし会えたらどうするつもりなの?」
「ふぇ? どう……え~、どうするんだろう」

 食器を片付けながらとぼけた顔で答えてしまった私を横目に、実乃里ちゃんはついに! 我慢できなくなったと言わんばかり「初々しすぎる!」と、お腹を抱えて笑い始めた。

「うっふふーフフはは!!」
「みーのーりーちゃん……」
「ごめ、だ、ゴメンゴメン! でも、可愛ぃ、ふっふふはは!」
「もぉー笑いすぎ!」

(だって、自分でもよく分からないんだもん)

 初めての感情に戸惑い、何だかよく分からない気分。ただ今は自分の顔が真っ赤なりんごのようになっていることだけは、鏡を見なくてもよくよく分かった。

「あ~ふぅ……まぁまぁ、ふわりん。いいじゃん可愛いから! それより自由科目決めた?」
「なにそれぇ、またぁ、上手く話を逸らすんだ」
「そんなんじゃないって! それで、決めた?」

(こうして結局私は、みのりんペースに持っていかれるのです)

「うーん、一応ずっと興味あった社会心理学の講義に……ってぇーわぁ!!」
「ねぇねぇ! それ、ホント!?」
「んぇ~? 痛たたぁ、もぉ。本当……だけど」

 顔を目の前まで近づけられ尻もちをついてしまった私に、キラキラ期待の眼差しを向け聞いてくる友人。このグイグイッには毎回、たじたじである。
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