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16.数学
しおりを挟む朝食後アメジストは、自分の部屋へ戻ってきた。
キィ~……――パタン。
毎日聞いている扉の開閉する音がいつも以上に長く耳に響き、物悲しく感じる。そして心の中にある不安がうっすらと膜を張るように、全身に広がっていった。
「はぁ、どうしよう」
そして、ふと溜息をつく。
屋敷から出られないという縛りのある、一日の始まり。アメジストは学校で勉強するはずであったこの時間は、机に向かい勉強をする事にした。しかし、どうにも気持ちが落ち着かない。その原因はもちろんジャニスティと、助けたレヴシャルメ種族の子はどうなったのか? とても気がかりだった。
――絶対に部屋へは近づかぬように。
ジャニスティから言われたその言葉が、頭を過ぎる。
「考えない、考えない! お勉強しなきゃ」
静かな部屋で聞こえるのはカチカチと時計の音だけ。アメジストは気になる気持ちを紛らわすようしばらくの間、苦手な数字の問題を解いていた。
(答えは一つ、頑張れば必ず導き出せるわ)
一時間ほど集中し勉強をしていた彼女は、ふとある事を思う。
「そう、数学の計算みたいに。何でもこうして頑張れば……考えれば、答えが見つかるのなら良いのに」
(ねぇ、そう思わない? ジャニス)
いつも傍で見守っていてくれる彼に、心の中で話しかけていた。そして問題集をパタリと閉じると部屋から出る。その足は自然と「近づくな」と言われ約束をしたジャニスティの部屋へ向かっていたのだ。
コツ……コツ……。
足音をなるべく立てないよう周りを注意深く見渡しながら、ゆっくりと廊下を歩く。出来れば誰にも会わずに辿り着きたい、そう思っていた。
屋敷の中でも少し離れた場所。この方向にあるのはジャニスティの部屋と書庫、あとは倉庫のような部屋ばかりだ。もし誰かにばったり会い「どこに行くのか?」と聞かれた時、後々面倒な事にならないようにと考えていた。
「お部屋に入るわけじゃないし。本当にほんの少し近くまで行くだけだから」
ボソッと呟く。
そして先に見える廊下の角を曲がれば彼の部屋だと、緊張しながら進む。もちろん部屋に入るつもりはない。近くへ行って何か答えが見つかるわけでもない。しかし少しでも二人の傍にいたかったアメジストは、約束を守れなかった。
ギィー。
すると突然、扉の開く音が聞こえ驚くアメジスト。
「エッ?!」
(角の方から聞こえた? まさか)
「誰か、いるの?」
足音は聞こえない。
彼女は扉の音が聞こえた方へ恐る恐る、近づいた。
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