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39.声風
しおりを挟むコクッ、コクッ!!
ジャニスティの教えをきっちりと受け止めた様子のクォーツは頭を上下に二回、大きく振ると興奮気味に澄んだ瞳をキラキラ輝かせる。
「よし、良い子だ」
天使のような可憐さを醸し出すクォーツの頬はりんごのように丸く赤く、ジャニスティはその小さなお嬢様のツルツルンとした顔に、滑るくらいの艶を感じた。
(アメジスト様がいらしてから、ずいぶんと血色が良くなったな。この子は自己治癒力が非常に高いようだ)
――しかし、どうやって? 何も食べずに体力を回復しているのだろうか?
疑問を抱きながらも余裕なく、そのまま視線をアメジストへ向ける。少しだけ震えながらそれでも、クォーツを守らなくてはというその思いが強く表われていた。
カツーン、コツー……ン、カツ。
そして特徴あるその足音はジャニスティの部屋の前らへんで、ピタリと止まる。
コン……コココン……コンコン。
「ジャ~ニスティ~、いるのかしら? んっふふ、いるに決まっているわよねぇ」
変に気持ちの悪い間の取り方をする、扉の叩き方。嬉しそうに話しかけ、高笑いをしている女性。
そう、アメジストの予感通り――足音の主は継母スピナであった。しかし何かがおかしいと感じた彼女の心身はまるで、拒否反応を示すかのように鳥肌が立ち始める。嫌味たっぷりジャニスティの事をあまり良く言わない継母の、声のトーンではない。
(え? 本当にお母様……いえ、間違いなく“スピナお母様”なのだけれど)
なぜアメジストはそのようなおかしな事を、感じたのか?
それはいつもの冷たく低めの声を出すスピナとは思えない甘ったるさ。アメジストの父、オニキスにも聞かせないような声風をしていたからである。どんな顔をして扉の前にいるのかも全く想像がつかない程に、不気味だった。
「はい、そのお声は奥様……?」
ジャニスティはその違和感にも動じない。冷静沈着、何の迷いもなく普段通りの言葉で返事をする。
「まぁ~ジャニス、元気なの~? 私、心配で心配で。だってぇ、あなたが此処に来てから初めてでしょ? 魔力が枯渇したのは」
ジャニスティがアメジストに伝言を頼んだ『魔力回復をする』という魔法の言葉は、オニキスとの取引の際にジャニスティの方から提案したものだ。彼の力が一時的に失われた場合に使ういわば“合言葉”としたのである。
――その、一時的に失われた力の意味とは?
何よりジャニスティが血のサンヴァル種族である事をスピナは知っているのだ。
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