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40.侮辱

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「恐れ入ります、しかし奥様。大丈夫です」
 その言葉を聞きすぐさま扉の向こうから甲高く、しかし冷たい氷のような印象を受ける声で答えが返ってきた。

「へぇ~。そんなに無理、しなくても良くってよ。そうそう、そろそろこの重たい扉を開けてちょうだぁ~い、ジャニスティ?」
(奥様の様子、なんだ? このおかしな気配は)

 ジャニスティはアメジストとクォーツに再び視線を向ける。

 アメジストは継母への恐怖心から少し震えてはいるが声を出さずに、えていた。クォーツは何故か扉の方を見つめ意識を集中しているかのように見え、そのわったような無色の瞳は子供とは思えない顔つき、そして微動だにしない。
(クォーツには驚かされてばかりだが……強い、大丈夫だ。しかしこのままではお嬢様のお心が持たない)

 扉の前すぐに立っているであろうスピナ。その話し方や言葉にいつもと違った異様な雰囲気と異常さを感じていたジャニスティは、次第に警戒を強める。

 そして次の一手を打つかのようにスピナへ返事をした。

「いえ奥様、ご心配には及びません。この調子であれば、明日あすの朝には全回復するでしょう。旦那様詳細をご説明に伺いますので、そうお伝え下さい」
 するとしばらくの間、沈黙の時間が流れる。体感では五分……しかし長く感じた沈黙は実際一分程であった。

 それから低めで地に響くようなスピナの声が少しずつ近付いてくるようだ。まるで小さい音から大きく鳴る楽器音、クレッシェンドした声は苛立ち始める。

「ねぇジャニスティ。あなた『血』が足りないんでしょう? そんなになるまで魔力を何に使ったのかしらね? んふっ、まぁいいわ。それで、そう! わたくしの血……このスピナ様の美しい血を、たっぷりあげても良くってよ?」

「――?!」
 まるで自分の種族を侮辱されているような言葉に、さすがのジャニスティも怪訝な表情を隠せず眉間にしわを寄せる。

 そんな顔をされているとは知らず不気味に笑うスピナの声はまた、こう付け加える。

「ジャニスティ~? お前が望むのなら、それ以上も許しますわよ~」

(あの笑う声がいつもより恐い! 一体、何をお母様は言っているの? どういうお話?)

 アメジストの心が限界にきていると感じたジャニスティはベッドに座り、彼女の肩にそっと触れる。そして落ち着かせるように無表情で自分の胸に抱き寄せた。

――ジャニス?
 アメジストの心臓は、ドキドキと熱くなる。だがその視線にジャニスティが応える事はない。
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