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47.公算 *
しおりを挟む――声が、聞こえたら?
アメジストの中にある疑問が生まれる。
「ジャニス、言われた事はもちろん守れるわ。でもその、声って……」
ジャニスティの言う注意事項三つ、出来ない事ではなかった。しかしその言葉の一つ一つを考え過ぎたアメジストはふと『この世の者ではない姿や声』が扉の中に住んでいるのかと、背筋の凍る話に思えてしまったのだ。
「いえ、お嬢様。例えでございます」
自然にニコッと微笑む今日のジャニスティは本当に、優しい雰囲気を醸し出す。長めで綺麗な天色の前髪から見える瞳は、これまでにない穏やかさを持っていた。
「どういう事?」
「アメジスト様だからこその可能性、と言ったほうが正しいかもしれませんね」
「……?」
アメジストはぼんやりと気の抜けた顔で困っているとジャニスティがその“可能性”を話し始めた。
「通路に危険がない事は間違いないのですが。その点検自体、あくまでも部外者である私が行ったもの――」
ジャニスティの話を真剣に聞き入るアメジストの感情は次第に変化していく。恐さは薄れていきその思いは、好奇心に戻っていった。
「この屋敷には、恐らくまだまだ隠された何かがあると、私は考えています。今回の隠し扉もそうですが……それは、ベルメルシア家を受け継ぐ者にしか感じ取る事の出来ないものが、あるのではという、可能性です」
「ベルメルシア家……」
「危険がない事は保証いたしますが、正直申しますと、お嬢様を扉の向こうへ一人で行かせてしまう不安は否めません。ですので、万が一の為、注意喚起です」
時間がない事もありあまり深く話さないジャニスティであったが、信頼する彼の言葉。今のアメジストにとってはその説明で、心の奥にあった見えないものへ抱いた不安を払拭するには、十分であった。
「分かったわ、ジャニス。今日は本当にありがとう。そして、迷惑をかけてごめんなさい……元は私がお約束を守らず、勝手に此処へ来てしまった行動が原因ですもの」
反省する気持ちを精一杯の言葉にのせて、アメジストは笑顔で話した。
その姿に胸を打たれるジャニスティ。ずっと大切な存在として護ってきたお嬢様への気持ちに、感じた事のない想いを持ってしまっていた。
ふわっ!!
「じ、ジャニス?!」
「こうして抱きしめる事が出来るのは、助けて下さった貴女様のおかげです。何一つ悪い事などありません」
「ありが……とう」
書庫にある隠し扉の前、永遠でもない別れを二人は、愛しんでいた。
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