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55.皮肉
しおりを挟む――ベルメ苺のミルクティー。
「ほぉ~スピナが紅茶とは……珍しいな」
アメジストの父、オニキスは少し驚いた様子で、話す。
その理由は昔からスピナは「紅茶が嫌いだ」と言い一度も口にしたところを見たことがなかったからである。ましてや甘い物も好んで食さないスピナが、甘い苺のミルクティーとは。部屋にいた者たちは皆、一様に驚いていた。
――おかしいわ。
不可解な継母の言動に少し怪訝になってしまったアメジストの表情を、スピナは見逃さない。
ゾワッ……?!
(エッ、何かしら。今の感じ)
悪寒が走り震え、ふと視線を感じた彼女は顔を上げると継母のニヤッとした笑顔が、目が向いていた。アメジストは恐怖心からか思わず目を逸らし、自分の両腕を抱き締める。寒くない時期、しかし寒気で鳥肌が立っていた。
(お母様は紅茶の香りすらご気分を害される程に、嫌いで。お飲みにならないはずなのに)
「……どうして」
アメジストの心から小さな疑問の声が漏れ出た。
皆の目を見開き驚く姿を満足するまで愉しんだ、継母スピナ。今度は歌うように陽気な声で自分の言ったことの、訂正を始めた。
「あぁ~そうそう。間違えましたわ。私が紅茶などと飲むはずがないでしょう? オッホホ」
何だろうかという雰囲気の中で安堵感すら感じ始める、お手伝いの者たち。しかしその言葉で様子が一変したのは、アメジストであった。
(お母様は、何をしようとしているの)
――こわい。
彼女の心が恐怖で満たされていく。そんな時はいつも傍で見守り、勇気付けてくれるジャニスティ。だが今は、どんなに頼りたくとも彼は此処にいないのだ。
カチャ、カチャ……。
しばらくするとスピナが頼んだ、ベルメ苺のミルクティーが運ばれてきた。
「お、奥様。お待たせいたしました」
先程怒鳴られたのが恐怖となり、震えた声で紅茶をテーブルへと置くお手伝い。いつもなら有り得ない食器の当たる音に気を悪くしたのか。スピナはギロっとした目で見ると皮肉たっぷりの声で、話し始めた。
「どうも、あ~り~が~と。さぁ、あなたの入れたお紅茶はどんな味がするのかしら?」
「ふ、あ、はい……」
今にも彼女は、泣き出しそうな顔だ。
「ねぇ~アメジスト。お前がお飲み……頂きなさぁ~い。好きでしょう? 『あまぁい甘い、ミルクティ~』ねぇ」
「――!!」
ハッとアメジストは固まる。そして理解したのである。ジャニスティの部屋へ来た継母が自分の存在に、気付いていたのだということに。
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