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56.圧力
しおりを挟むミルクティーはスピナの命令で、運ばれた。
「ど、どうぞ。お嬢様」
お手伝いの未だ震える声と手。カチャカチャとカップは音を立てアメジストの前に、置かれる。
「ありがとう! まぁ美味しそう、それにとても良い香り」
自分の事よりも他人の心を大切に思う彼女は満面の笑みで、答えた。なぜならお手伝いが今感じている継母への恐怖や不安が痛い程理解でき、その気持ちを少しでも緩和させたかったからだ。
「いえ。きっとお嬢様のお口には合いません」
ボソっと呟く声は、泣きそうである。
「そんな! いただきます」
ニコッと楽しそうにミルクティーを飲むアメジストの姿を横目に、スピナはあの不気味な鼻歌を唱え始めた。
「ベ~ルメ~♪ ふっふ~ん、ベルメ♪」
その声を聴き一瞬にして身体が竦む。が、グッと心を強く持ち気持ちを保とうと、アメジストは努める。
――大丈夫、しっかりするのよ! お母様の威圧になんて負けない。
「さぁさぁ♪ アメジスト。その者が入れたお紅茶のお味は、いかがですの?」
フフッとにやけながら聞いてくるスピナへアメジストはいつもと同じ、愛くるしい笑顔で答えた。
「はい、お母様。とても美味しいですわ」
その嘘偽りのない、真実と分かる彼女の表情と声に「気に入らない」と眉をひそめるスピナはまた、嫌味な言葉をアメジストへ投げかけてくる。
「へぇ~……そんなはずはないでしょう? 嘘はいけないわ~アメジスト。だってお前の好きなミルクティーは、あのベッタベタといつもくっついている専属お世話役の入れた、お紅茶でないと」
ねぇ? と、まるで勝ち誇ったような目線で彼女を見る継母、スピナ。しかしその不快に感じるような言い方にも怯む事なく、紅茶を入れてくれたお手伝いにアメジストは話しかけた。
「いいえお母様、そのようなこと、決してありませんわ。ジャニスの紅茶とはまた違った優しい香りとほど良い酸味、そして上品な甘さがあって……私とても気に入りました」
その温かな心遣いにお手伝いはホッと、胸を撫でおろす。そして深々と頭を下げながら感謝の意を表した。
「お嬢様……過分なお言葉をいただき恐縮です」
涙目のお手伝い。その肩にそっと触れたアメジストは優しく、声をかける。
「顔を上げて、私の方こそいつも感謝しているのですよ。“ラミ”」
ざわっ――!!
「お、あ、アメジストお嬢様。どう、して……」
「えっ、どうしてって?」
言われた本人はもちろん、アメジストが発した言葉に皆、一驚していた。
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