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61.聡明 ✧
しおりを挟む――『その力が、ベリルから受け継がれたものだとしても』
アメジストの魔法がわずかにも開花し確認された、この時間。
幸いにも部屋に残っていたのはベルメルシア家の屋敷で古くから働き、生前のベリルと面識があり慕う者ばかりであった。
◇
ベルメルシア=ベリル。今は亡き、アメジストの母である。
ベルメルシア家の一人娘として大切に育てられたベリル。自身の十八歳の誕生パーティーの席で後に夫となるオニキスと出会い恋をする。それからゆっくりと愛を育み、二十歳で結婚。二十二歳の頃にアメジストを身籠り出産――が、しかしその夜。原因不明の病でこの世を去る。
真珠のように輝く美しいロングストレートに毛先だけはゆるくカールされ、ふわふわと優しい印象であった美髪と二重瞼で大きな瞳は同色、神秘と言われる翠玉色であった。生まれながらに持つその麗しき姿と聡明さは、皆が憧れる。それは風姿だけではなくかなりの努力家。それゆえ周囲の者からは全幅の信頼を、寄せられていた。
そしてジャニスティと同じ『治癒回復』を完璧にこなす魔法の使い手として、貴重な存在でもあったのだ。
◇
アメジストが昼食後の部屋で皆からの信頼を感じ前へ進み始めた、その頃。
謎多きレヴシャルメ種族であるクォーツの優れた頭脳に、ジャニスティは驚愕していた。
「良いかい、クォーツ。これから君が過ごしてゆく人族の中では“話し言葉”が必要となる。これから私が教える話し方を、よく聞いて覚えるんだ」
「うはゆ!」
クォーツはとても真剣な表情でジャニスティの話を聞き大きく頷きながら、返事をする。
「よし、良い返事だ。君がこれから先どのように進んで行くのか? まだ分からない。もしずっと人族として生きていくのであればとても必要な事だ。そして此処で暮らしていくには、レヴシャルメ種族だという事は言わない方が賢明だろう」
「うぅ……むん?」
――あぁ、眩い光のようだ。
ジャニスティが目を細める程にクォーツの瞳は大きく開かれ輝き、目を離させない。それは彼からの説明を待っているようにも、見えた。
「あぁ、無理もない。しかし自ずとその意味が見えてくるはずだ。なぁクォーツ、今は私の言葉を信じ、ついて来てはもらえないだろうか?」
基本重視と教え始めた、話し言葉。ひとまず明日に必要な最低限の挨拶と単語の指導に入る。すると驚きの速さで言葉を覚えていったクォーツは、ものの二時間で会話は全く違和感なく、通じるようになった。
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