レヴシャラ~夢想のくちびるは魔法のキスに抱かれて~

菜乃ひめ可

文字の大きさ
62 / 471

62.御者

しおりを挟む

 夜も更け、それは皆が寝静まった時間。

(キィー……カ、チャ……ッ)

 なるべく音を立てぬよう細心の注意を払いながら扉をゆっくりと開閉し、その部屋から出てきたのは――ジャニスティだ。

 カー……ン。

(うん、着いたか)

 何かの合図のような音を聞き、歩き出す。柔らかな月明かりの射し込む通路の窓へ移動すると、外に誰かが立っている。

 カチャ……ギィー。

「よぉ、すまない。こんな夜更けに」

 人が来ても問題ないよう裏口近くの窓際に腰掛け、囁くように話しかけた。

「いえいえ、坊ちゃまの頼みとあらば」

 深夜二時。ジャニスティが秘密裏に会っていた相手は長年ベルメルシア家の(特にアメジストが乗る)馬車を引いてくれている、御者ぎょしゃのエデである。実は昨夜、去り際に今日この時間此処へ来てほしいとエデに、依頼をしていたのである。

「その坊ちゃまってのはよしてくれ。私はただのお嬢様付き、お世話役だぞ。エデ」

「何をおっしゃいますか! ジャニスティ様は昔も今も、変わらず大切な坊ちゃまでございます」

「そうか……ありがとう」

 エデの二度目の言葉を素直に聞き従う、ジャニスティ。その顔は少し恥ずかしそうであった。

「坊ちゃん、それで。昨夜の、あの子は?」

 心配そうに聞いてきたエデの表情は、とても真剣である。

「あぁ、間に合ったよ。回復魔法で何とか無事に助ける事が出来た。それもこれもエデ、君が大雨で危険な道中も、安全かつ冷静な判断で馬車を走らせてくれたお陰だ、心より感謝する」

 その知識と馬を思い通りに走らせる技術を生かしたエデの御者としての腕を、ジャニスティは高く評価していた。加えてエデは情報通でもあり、この街以外にも顔も広い。

 ジャニスティにとって――いや、ベルメルシア家の未来にとっても頼りになる、存在である。

「なんと! ありがたいお言葉。お役に立てて光栄に存じます」

「そんなにかしこまらないでくれ。しかしまだまだ問題は山積みで、悩みはたくさんあるのだが」

 そう口を開いたジャニスティは珍しく、口調を崩しながら話し始めた。

(彼は唯一の良き理解者、何でも話せて信頼できる相手だ)

 ジャニスティは自分が動けない時や何か内密に事を進めなければならない、問題がある時。
 こうしていつもエデの力を借り様々な事に対応して解決してきたのだ。

「大変ですな。坊っちゃん、本日はどのようなご依頼ですかな?」

「あぁ、実はその助けた子の事なんだが」

――その背景には二人の、ある深い絆があった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする

藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。 そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。 派手な魔法も、奇跡も起こさない。 彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、 魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。 代わりはいくらでもいる。 そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。 魔法は暴走し、結界は歪み、 国は自分たちが何に守られていたのかを知る。 これは、 魔法を使わなかった魔術師が、 最後まで何もせずに証明した話。 ※主人公は一切振り返りません。

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜

藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、 名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。 公爵家の財政管理、契約、商会との折衝―― そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、 彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。 「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」 そう思っていたのに、返ってきたのは 「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。 ……はぁ? 有責で婚約破棄されるのなら、 私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。 資金も、契約も、人脈も――すべて。 成金伯爵家令嬢は、 もう都合のいい婚約者ではありません。

地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話

といとい
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...