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73.余裕

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「早朝から失礼いたし――」

 ガチャッ、バターン!!!!

 挨拶の言葉を遮るように部屋の扉が勢いよく開き、壁に当たる。出迎えた人物はツンと見下すようにいつもの冷淡な目でジャニスティを見ると、一言だけ話した。

「何?」
 品格を疑う程に人をさげすむスピナの、眼と声である。

 しかしジャニスティはその圧に動じる様子など、微塵みじんもない。それどころか余裕すら感じさせる笑みを、浮かべたのである。

「いえ、私は。奥様あなたにではなく、旦那様に所用ですので」
 よろしければ外して頂けるとありがたいのですがと、ポツリと呟く。

「なっ?! お前!」
 スピナは昨日、部屋の前で追い返された事が気に入らない上に顔色一つ変えず慌てることもなく、ゆったりと構えているジャニスティの姿勢が鼻につき、腹が立って仕方ないのだ。

 その怒りが今にも爆発しそうになったその時、部屋の奥からオニキスの軽く柔らかな声が聞こえてきた。

「おぉ、ジャニスティか! おはよう、調子はもう良いのかね?」
 ベルメルシア家当主オニキスはジャニスティの声に反応しおもむろに立ち上がると、笑いながら扉の方へ歩いてくる。

「はい、旦那様。ご心配おかけしました」
 その姿が見えるまでお辞儀をして立つ、ジャニスティ。

 この時、怒りを叫びそうになっていた声をやっとの思いで飲み込んだスピナは、何やら悔しそうな顔を見せた。オニキスへ自分の表情が見えないよう横にぴったりとくっつく。
 そしてジャニスティの事を恨めしそうな顔で、影から睨みつけていた。

(まるで「昨日の事は絶対に言うな」と、念を押されているようだが)
 この時のジャニスティは不思議と不快な気持ちやひるむような事は全くなく、逆に清々すがすがしく心の中には余裕が生まれていく。強気なスピナの態度にふと笑いが込み上げてくると、思わず吹き出しそうになるぐらいであった。

「ちょっと! 何がおかしいのよっ?!」
「スピナ! そろそろジャニスティに、辛く当たるのをやめなさい」
「なっ、どうしてよ~、あなた!」

 突然いつもの甘えた声に戻り手を握ろうとするスピナであったが、通じない。オニキスはそれを避けるように扉のある方向へ、スピナの身体を向かせた。

 今日ばかりは優しく接する事が、出来なかったのである。そしてオニキスはスピナへ冷たく強い口調で、あしらう。
「スピナ、外へ出ていなさい。ジャニスは大切な話があるようだからね。興奮状態の君がいては、会話にならない」

 その言葉に怒り心頭の、スピナであった。
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