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76.躊躇

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「……」
 無言で立ちすくむオニキスの表情は、固い。

(あの日、初めてジャニーに会った時と、この少女ではまるで印象が違い過ぎる)
――本物の兄妹とは、思えないな。

 思っている事を顔に出さないと有名なオニキスであるが、不覚にも一瞬だけ猜疑心をちらつかせてしまった。その表情をクォーツは見逃さず、じっと見ながら話しかける。

「旦那様? 私のご挨拶に何か失礼がございましたでしょうか」

「――なっ!! いや……」
 クォーツが話す言葉の一つ一つに、一驚を喫するオニキスはあまりの衝撃に、言葉を失う。

 その見た事のない動揺ぶりにジャニスティも様子をうかがい、声をかける。
「オニキス、大丈夫か?」

 その気遣う言葉に「あぁ、いや。すまない」と答えたオニキスはハッと、我に返った。そして子供であるクォーツには優しい笑顔に表情を変えると、やっと口を開いた。

「い、いや~素晴らしい。君の素敵な御挨拶に驚いてしまっただけだよ。ありがとうクォーツちゃん、こちらこそ宜しく。改めて……私の名は、ベルメルシア=オニキスだ」

 それからすぐにジャニスティへ鋭い目つきで視線を移すと「どういうことだ?」と言わんばかりの顔で、見ている。

 もう考え悩んでいる時間はない。追い詰められたジャニスティに天使の声が、聴こえてくる。

――『自分が正しいと思う意見を』
 ふと頭の中にいつもアメジストが言っている言葉が、浮かんだ。

(そう、間違った事はしていないのだから)
 種族は違えど生きる命を助けた事を責められるはずがないと、思い直す。

 そして。
――『大丈夫だ、必ず上手くいく。だからジャニー、自分を信じて思う通りにやりなさい』

 自分に生きていくための様々な規律を叩き込んでくれた恩人、エデからの心強い言葉。

(あぁ、後悔のないように……だよな)

「オニキス、聞いてくれ」
 その瞬間にジャニスティの心は少しの迷いもなく意志は、固まる。

「もちろんだ、聞かせてもらうよ」
 部屋の空気は一気に張り詰めこれまでにない程の緊張の糸が、張り巡らされている。

「まず昨日急な休みを取った理由、その説明をする。やはり俺は貴方に、隠し事をしたくはない」
 そう話を切り出したジャニスティは不思議と落ち着いた様子で、表情には自信が満ち溢れていた。

 それを見たオニキスはフッと笑い、一言。
「聞く前から度肝を抜かれている……そんな気分だよ」

 朝早くに入れテーブルに置いたままの冷えたモーニングティーを一口飲み彼は、聴く態勢に入った。
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