レヴシャラ~夢想のくちびるは魔法のキスに抱かれて~

菜乃ひめ可

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 その瞳に映る光景はいつもの朝よりも、慌ただしく動いていた。ラルミを含め、部屋にいるお手伝いたちは先程の“揉め事”で遅れてしまった食事の準備を間に合わせるためバタバタと、急いでいる。

 ジャニスティとの会話を気にする余裕のある者は、いない様子だ。

 続けてアメジストは部屋全体を、ぐるりと確認。一番恐れていた継母スピナの姿はどこにも見当たらず、いつの間にかいなくなっていた。

(はぁ、良かった)
 ホッと胸を撫でおろすアメジスト。その安心した理由とは。

 普段、皆の前で見せる二人の印象は――余計なことは一切話さずにいつも、冷静沈着な、ジャニスティ。落ち着いた姿勢を崩さないように、日々努める、アメジスト。

――『お嬢様に必要な教養全ての教育とお護り役としていつも、お嬢様の傍で指導し見守っている方』

 御屋敷で働く者たちの間でジャニスティはそういう存在であり、それが当然のことと理解、認識されていた。

 ではこの時、アメジストが心配した事とは。
 それは今のように楽しそうに話す光景を周囲の者に見せてしまうと、のちに問題が生じる可能性があるのではないか? そう、思ったからである。

 ただでさえスピナはジャニスティの事を良く思っていない。いつも彼を見るや否やあの嫌味を含んだ口調や言葉で、話す。そんなスピナが見ていたら何を言い始めるか? 予想もつかないのである。

(お母様が見ていたら、きっと黙ってはいない)
 そう懸念したアメジストであったが見る限り「近くで聞いたり、見ている者はいなかったわ」と心から、安堵していた。

「いかがなさいましたか、お嬢様」
 考え込むような表情をしていた、アメジスト。

 いつも傍にいて見守ってくれて、安心できるその優しい声を聞くと――。

 言葉では言い表せない、嬉しさ。彼女は悪戯っぽくジャニスティの顔を覗き込むと小さな声で、話しかけた。
「うふふっ、残念! ジャニスの可笑しいお顔を……誰にも見せられなくて」
「お、お嬢様!! ご冗談が過ぎます」

 少しだけ頬を染めた彼を見たアメジストは楽しそうに、笑う。そして桃色に染まる自分の両頬を手で隠した。まるでポカポカと温かく、熱く上昇する自分の体温を確認するかのように。

「うふふ! ……っふふふ」
「コホンッ!! 笑い過ぎです」

 腕を組み目を瞑ったジャニスティは、咳ばらいを一つ。しかし最後には「まぁ、楽しんで頂けたのでしたら」と片目を開けながら、言う。

 その言葉で二人は、ふふっと静かに微笑み合った。
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