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93.克服
しおりを挟む――『分かっているの? アメジスト。親の言う事は絶対ですのよ』
(お母様からのお言葉は時に、辛く悲しい気持ちになるの)
それでもアメジストは親の――継母スピナから「躾だ」と言われ、育ってきた。スピナの厳格な指導がたとえ、行き過ぎていると感じても、不合理で納得のいかない事があったとしても。口答えせず素直に従い、これまで過ごしてきた。
――自分の中にある“自分自身”を、失わないようにしながら。
(ずっと、心に何かが刺さっているようで“苦しかった”)
アメジストが食事の部屋へ着いてスピナが現れてからの、あの出来事。その後に起こったジャニスティとの揉め事でスピナの感情は恐らく、怒りの頂点に達しているであろうと分かる強く鋭い、あの視線。
背後に感じた瞬間再びアメジストを襲ってきた、恐怖心。
(それでも何とか、お母様とお話がしたくて……)
結局、アメジストが勇気を出したその思い、その言葉は。
継母スピナの耳に届くことは、なかった。
幼い頃から抱えてきた、怯え。
それは自分の考えや感情とは違う。
継母から強制された忠誠心は焼き付き、この心から一生剥がれないであろう、と。
――そう、諦めていたの。でも!
(もう、恐れない。私の心が『自分を信じて』と、そう言っているみたいで)
ふと、アメジストは気付く。自分の中で何かが、起こっている。
不思議なことに彼女の中でうずくまっていたスピナに対する“負”の感情はいつの間にか、フッと消えてなくなっていた。代わりにアメジストの心に生まれたものは――優しい気持ちで満ち溢れた、心情であった。
「そろそろ、旦那様がお見えになる時間ですね」
「そ、そうね」
ジャニスティは瞬時に普段のクールな彼に戻る。時間を確認するために視線を上へ向けたジャニスティの美しい天色の前髪が、サラッと靡いた。
そして――。
「お嬢様の笑顔が戻って、本当に良かった」
「ぅあ、ありがとう……ジャニス」
熱を帯びた頬と心臓の奥から響いてくる、ドキドキ。
そして身体中の血液の音が聴こえてくるかのように――トクン、トクンと、柔らかく流れている感覚とその、体温。
珍しく満面の笑みでいつもは言わない言葉をくれるジャニスティの瞳を見つめるだけでアメジストの鼓動はさらに、早まっていく。
「お嬢様、もうすぐ会えますよ」
「ん……あっ!!」
(やっと、やっと一緒に……)
――クォーツ、早く逢いたい!!
アメジストは嬉しさで弾け出しそうな声を必死に、抑えていた。
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