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111.偽者

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「待ちなさい、スピナ。私が不在の日に招宴は許可できない」

 とても厳しい口調で反対をするのはベルメルシア家のあるじ、オニキスだ。今この場で彼がいつも以上に強く言うのには、理由があった。それは明日、彼は仕事で遠方へ向かい数日間ベルメルシア家の屋敷を留守にする予定なのである。

――そのことは当然、知っているはずのスピナだが。

「あぁ! ごめんなさぁ~い、あなた。もぉ、嫌ですわぁ……わたくしとしたことが、お日にちを勘違いしておりましたのよ?」

 澄ました顔でそう言いながら開いていた扇を閉じるとゆっくり、その先を口に当てた。それから何かを考えるように斜め上へ、視線を向ける。

「スピナ、これまで君には――」
「あぁー! そうそう、そうでしたわ~」

 オニキスの声を遮り急に席を立ちほくそ笑むと、歩みを進める。そしてジャニスティの監視を気にすることもなくスピナはアメジストの後ろへ回り込みその肩を撫でながら耳元で、囁き始めた。

「あなたやアメジストを驚かせようと、余興も準備しておりましたのに。あぁ~残念……あっ、そうだわ! たぁいへん!! もう、招待状も送ってしまいましたのよ?」

 スピナの話した内容、その言葉は嘘である。彼女がお茶会を思いついたのは今朝の話でありまだ招待客の名簿すら、作成されていない。

「何という……どうしてそのような勝手な事を」

 呆れるオニキスは珍しく怒りをあらわに何かを言いかけたが再度その声を遮り、あるじの言葉などお構いなしよと言わんばかりのスピナは、話し続ける。

「本当に申し訳ないと思っているわ、オニキス様旦那様ぁ? でもねぇ、どうしましょう? 御取引先様にもすでに送ってしまったというのに。あっ、でもまだ御返信は届いておりませんし、お断りの連絡を? あぁ~でも、印象が悪くなりますわねぇ……困りましたわぁ」

 スピナの口から繰り返される“でも、でも”という、口調。

 それは彼女の狙いがあり意図的にあおっているのか? 周囲には凄まじくさげすんだ態度を、印象付ける。それは謝罪の言葉とは裏腹に全く悪びれた様子はなくむしろ、部屋中でその様子を窺う皆の目には、楽しそうにすら見えていたからだ。

「ねぇ、どう思う?」

 まるで演劇女優のような身振り手振りでアメジストの肩に手を置くスピナを危険に感じるジャニスティは今にも、継母を引き剥がす勢いである。
 背中に刺さる程に鋭い彼の視線に気付きながらもなお、自信に満ち溢れた笑顔のスピナは「ふん」と小さく声を出すのである。
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