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110.羨望 *
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『スピナ様。このお花、何というお名前なのですか?』
あの頃はそう、こんな私でも慈しむ心を持っていたのよ。学校の勉強も成績優秀、運動もそこそこ出来たし、友達もそれなりに多かったわ。
『あら、珍しい。それはマリーゴールドというのよ』
みーんな、みんなに囲まれて。何気ない話をしたり、笑い合って。毎日毎日、代わる代わる、素敵な贈り物をくれたりして。いつだって自然と、私の周りには皆が集まってくる。自分で言うのもなんだけれど、私は人気者だったのよね。
機嫌取りをされていると分かっていてもね、それなりに心地良くって、私はとても楽しかったわ。
――そう、あの娘が現れるまでは。
◇
ある日、名家のお嬢様が私の通う学校へ入学してきたのよ。歳が私よりも二つ下だったから、お会いしたこともなくて。存在すら知らなかったわ。
(まぁ、そうね。“ベルメルシア家”という名は、知っていたけれど)
容姿端麗、頭も良く、入学当初からすごい人気だった。もちろん私も最初は随分と可愛がってあげたものよ。でも数ヶ月経つと、私の周囲が一変したわ。
『ベリル様~! 帰りご一緒させて下さらない?』
『え……あ、あの。ハイ』
『あら! 抜け駆けは良くありませんことよ! 私もご一緒いたしますわ』
『あ、えっと』
――どういう事……なのかしら?
今まで、私の周りでちやほやしていた者たちのほとんどが、その名家のお嬢様である【ベルメルシア=ベリル】に乗り換えたってわけ。さすがに気分が悪かったけれど、私だって当時はもう十八歳。子供じゃないんだから、解っていたわ。
あの娘が悪い訳じゃないと、そんなことくらい十分に理解していたわ。でも、それでも! 私の心は荒んでいった。
◇
『マリー……とても綺麗なお花』
『そうね。でも、花というのは時に――怖い意味を持つ』
――そうよ。貴女の事が嫌いだったわけじゃない。
『怖い? いつもスピナ様が教えて下さる、花言葉ですか?』
――それでも、私は。
『えぇ。ベリルには想像できるかしら?』
『こんなに美しく可愛らしいお花ですのに。怖い意味……』
――私よりも皆に愛され、持て囃されて。
『花言葉には、両極端な意味もあるのは?』
『ハイ! スピナ様が教えて下さいましたので』
――その笑顔も今や、疎ましい。
『そう、これはオレンジ色。愛情や真心と明るい意味があるわ』
『素敵! でも……怖いのは』
――言えない。
『怖いから、秘密にしておくわ』
――今は、口が裂けても……言わないわ。
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