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113.切望
しおりを挟むそしてふと、思う。
(今なら、お母様と解り合えるかもしれない)
その考えに根拠は、ない。
しかしアメジストが内に秘める柔らかな心はただただ継母を信じたいと、懸命に一筋の光を見出そうとしていた。冷酷なスピナが向けてくる鋭い瞳の奥深くに視えた本当の姿が一瞬の言葉から、垣間見えたような気がしたからだ。
(もしも……もし本当に。私の中で目覚めた力が、少しでもあるのなら)
キラッ。
「あっ……」
(また、光った)
朝食前、スピナに「隠し事をしている」と言われ気付かれそうになった瞬間に手の平で感じた光る“何か”。それがどのような魔力効果があり力を持つのか? 自身であるアメジストにもまだ、解らなかった。
しかし生まれてからこれまでスピナの行き過ぎとも言える厳格な指導を受けながらベルメルシア家で過ごしてきた彼女にだけ分かる継母の、変化。
(そうよ、私は。お母様の“お傍”にいてずっと、暮らしてきた)
アメジストはどんなに苦しく辛い思いをしたとしても継母スピナの事を、恨んだりはしていない。そして今、この時も――過去を掘り返し責め合うこと、その失われてきた時間を取り戻そうという気持ちは、微塵もなかった。
むしろ彼女は目の前にある現実に向き合いこれから進んでいくべき道を、これからの未来を一緒に。もっと、もっと皆で話し合いながら様々なことを乗り越え本当の“家族”として歩んでいきたいという、その想いだけであった。
それはアメジストが唯一、継母スピナに求めること。
――そして彼女の心からの、願望。
長い間に積み重なり壁となった石垣は高く、手を伸ばしても届かない。今すぐには埋められないかもしれない遠い心と心の、距離。
(でも私しか成し得ない“何か”が、あるはずだから)
ずっと探し続けた意思疎通の方法、その欠けた心のピースを見つけはめ込むためにアメジストは――朝と同じ言葉、同じ声のトーンでスピナへ問いかけた。
「お母様、何かご心配事があるのですか?」
(お願い! お母様にこの心、どうか届いて!!)
そう願いながら再びアメジストはスピナの手へ静かに、触れる。
一気に流れ入る彼女の力を感じ負の感情から解放されるようにスピナの表情は物悲しく、今にも泣きそうに見えた。
ざわざわ……。
「奥様が、何だか」
「えぇ、様子がいつもと違うわ」
見たことのない初めての光景にざわつき囁く声で話すお手伝いたちは皆、目の前で手を取り合うお嬢様と奥様の姿に、驚きの色を隠せない。
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