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121.青年 *
しおりを挟む「旦那様、そろそろ参りましょう」
「あぁ、そうだな」
静かに五秒程目を瞑った後に微笑んだオニキスはスーッと心を落ち着け左手を軽く振り、合図を送る。
――『承知しました……』
囁くようなフォルの声は主を防衛する魔力を、持つのである。
それを皮切りに周囲へ漂う空気の流れは百八十度様変わり、オニキスの意識はさらに引き締まっていた。
“ヵコン、コン、コン、カコン”。
扉を叩く音が――いや、ベルメルシア家の客間は少し違っていた。他の部屋と何だ変わりない入口扉には玄関と同じ、ドアノッカーが付いているのだ。
フォルはそのノッカーをいつも通りの間隔で叩くと部屋の中から返事が聞こえてくるよりも前に「失礼いたします」と声をかけ、ゆっくりと扉を開く。
カチャリ――キィ~。
広々とし清閑な客間に真っ直ぐ響いた、高く綺麗な音。
客間の奥にある窓際で薄雲の空を優雅に眺めていた隣街からの“お客様”は、部屋に入ってくるオニキスたちに気付く。その二人の姿が自身の視界に入る瞬間に素早く向き直り、姿勢良く深いお辞儀で挨拶をした。
「はっ、ベルメルシア様! お初にお目にかかります、私――カオメド=オグディアと申します。あぁ! この度はお会いできて光栄でございます」
(なるほど。キリッとした表情、思っていたより好印象だな)
――これが“表の顔”……というわけか。
オニキスは心の中でそう呟きながらも、愛想笑いを浮かべる。
この時すかさず、フォルが口を開いた。
「カオメド様、大変お待たせいたしました」
ベルメルシア家当主が部屋へ一歩足を踏み入れるのと同時にフォルは、少し興奮気味に話す本日の交渉相手に失礼のないよう滑らかな口調で、挨拶を返した。
そしてこの時、初めてカオメドと対面したオニキスは隣街の商業者――若き青年へ爽やかな笑顔で歓迎の言葉を述べると、握手の手を出す。
「やぁ、今日は遠い所をわざわざ……よく来てくれた。私がベルメルシア家当主、ベルメルシア=オニキスだ。よろしく」
「はい、何と!! 恐れ入ります。本日は貴重なお時間を割いて頂けるとのこと! 心より感謝申し上げます」
(しかし、奇妙な気分になる)
――この男に一体、何が隠されているというのだ?
オニキスからの握手に緊張した面持ちで応え再度深々と頭を下げる腰の低いカオメドが見せる態度や動きが、考えていた行動と違う。
その第一印象全てがとても好感の持てる青年であることにオニキスは微かな違和感を、覚えたのだった。
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