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122.表裏 *
しおりを挟むいつ如何なる時も悠然と、何があっても動じない小事にこだわらない、オニキスは強靭な精神力の持ち主。そのため仕事上での信用もあり、皆からの信頼も厚い。
――そんな芯のある彼でも、完璧ではないのだ。
表情にこそ出さないがあまりの忙しさに自分を見失いそうになる瞬間が、ごく稀にある。しかしその都度適時、心に語りかけるように自然と聴こえてくるのは――爺の、安心感を与える言葉とその声であった。
「いやいや……私も一度、君に会ってみたいと思っていたのでね」
そうオニキスは手をスッとソファの方向へ向け腰掛けるようカオメドに、促す。
「ありがとうございます、では失礼しますねぇ」
「あぁ」
(話し方が、変わったな)
「それでは早速! オニキス様、今回私の提案する事業ですが――」
先程の緊張した表情とは打って変わり突然、流暢に説明するカオメドはまるで別人のようだ。その掴み所がない彼の姿をオニキスは全く表情を変えることなく、見ている。
(これは。フォルに防衛魔法を頼んでおいて、正しかったようだ)
内心「やはり、話を聞くまでもない相手だろう」と黙って彼の企画提案を聞く、オニキスであった。
◇
朝食の時間、あんなに美しい朝陽が差していた青く爽快な空は少し、暗い雲が流れ始める。寂し気に揺れる緑葉を着飾った中庭の大きな木が急にザワザワと、音を立てた。
「それで、アメジストの事かしら? それとも……」
隠れるように話す二つの影は一定の距離を保ちながら木々の隙間、上から入る光でうっすらと地面に伸びている。
「はい、スピナ様。そのどちらも、です」
無表情なノワの発したその言葉にやっと欲しかったものを手に入れたかのような満面の笑みで「まぁ♡」と両手の平を組み一瞬、声を上げたスピナは自分専属お手伝いの耳元に近づき、妖艶に囁く。
「その話、早く聞かせてちょうだぁ~い」
それでもノワは瞬きの回数や手の動きすら全く変えることなく、通常通りの抑揚ない声で答えた。
「はい。では、詳細を――私の見たままの光景を、ご報告申し上げます」
そして片膝を地面に着けスピナの手を取り忠誠を誓うノワは、サラッと話し始めた。
「昨日、昼食前のことですが。ジャニスティ様のお部屋の窓から顔を覗かせる、アメジストお嬢様をお見掛けしたのです」
「……な、何ですって!?」
(やはり、あの香りは!!)
思わぬ密告にほくそ笑むスピナは嬉しそうにその場へしゃがみ込むと「ご褒美よ」とノワの頬へ、キスをした。
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