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第51話:伝説の客員講師
しおりを挟む王都の一角に、白亜の美しい建物が新設された。
その名は『王立魔導医療研究所』。
モーゲンロートの呪縛から解き放たれた王国が、その医療の未来を託した最新鋭の教育の殿堂だ。
その講義室は、いつも張り詰めた空気に満ちていた。
集められたのは王国中から選りすぐられた若きヒーラーの卵たち。貴族の子弟、ギルドの推薦者、平民出身の天才。誰もが己の才能に絶対の自信を持つエリート中のエリートのはずだった。
だが今、彼らの顔に浮かぶのは自信とは程遠い、畏怖と緊張の色だ。
「―――以上だ。次の講義までに、古代竜種の魔力循環における第五元素の相互干渉についてレポートを提出しろ」
教壇に立つのは一人の男。銀色の髪を無造作に流し、怜悧な青い瞳で学生たちを見下ろしている。
彼こそが、この研究所の名誉所長ギルベルト。
彼の講義は天上の叡智そのもの。しかし、あまりにも高度で難解、そして一切の妥協がない。学生たちはその知識の奔流に必死で食らいつくだけで精一杯だった。
「さて」
ギルベルトが分厚い専門書をぱたんと閉じた。その乾いた音に、学生たちの肩がびくりと跳ねる。
「来週は特別実技演習を行う。……その日は外部から客員の講師を一人招いている」
講義室が、ざわめいた。
(あのギルベルト所長が、自ら招く講師とは一体……?)
「客員講師?」
「まさか、隣国から賢者を招くのか?」
「いや、あるいはエルフの森の長老様かも……」
学生たちの期待に満ちた囁き。それを、ギルベルトはふんと鼻で笑った。
「その講師は、王国の医療の歴史そのものを変えた人物だ。その功績により若くして特別な称号を授けられている。『王国特任巡回治癒師(ロイヤル・フィールド・ヒーラー)』……あるいは、街の噂好きどもはこう呼んでいるらしいな」
彼はどこか面白そうに、口の端を上げる。
「―――『魂の天秤を持つ、聖女』、と」
そのあまりにも伝説的な、御伽噺のような称号に、講義室の全ての学生が息を呑んだ。
モーゲンロートの大いなる厄災から王国を救ったという謎の英雄。その正体は固く秘匿され、様々な憶測が飛び交っていた。
ある者は何百年も生きる大賢者だと言った。
ある者は神の化身たる敬虔なシスターだと噂した。
そして運命の実技演習の日。
学生たちは張り詰めた面持ちで、その伝説の人物の登場を今か今かと待ちわびていた。
やがて講義室の重い扉が、ゆっくりと開かれる。
そこに立っていたのは、学生たちが想像したどんな荘厳な人物とも違っていた。
年の頃はまだ十代半ばにも届かないだろうか。栗色の柔らかな髪を一つに束ねた、どこにでもいそうな親しみやすい少女。そのあどけない顔には、人懐っこい太陽のような笑みが浮かんでいる。
講義室は、水を打ったように静まり返る。
あまりの予想外の光景に、誰もが言葉を失っていた。
少女はそんな学生たちの困惑など意にも介さず、ててて、と教壇の前まで歩いてくると、ぺこりと可愛らしくお辞儀をした。
「―――こんにちは、皆さん! 私、ユヅカって言います! 今日は、よろしくお願いしますねっ!」
伝説の聖女の、あまりにも気さくな第一声だった。
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