天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ

文字の大きさ
51 / 55

第51話:伝説の客員講師

しおりを挟む

王都の一角に、白亜の美しい建物が新設された。
その名は『王立魔導医療研究所』。
モーゲンロートの呪縛から解き放たれた王国が、その医療の未来を託した最新鋭の教育の殿堂だ。

その講義室は、いつも張り詰めた空気に満ちていた。
集められたのは王国中から選りすぐられた若きヒーラーの卵たち。貴族の子弟、ギルドの推薦者、平民出身の天才。誰もが己の才能に絶対の自信を持つエリート中のエリートのはずだった。
だが今、彼らの顔に浮かぶのは自信とは程遠い、畏怖と緊張の色だ。

「―――以上だ。次の講義までに、古代竜種の魔力循環における第五元素の相互干渉についてレポートを提出しろ」

教壇に立つのは一人の男。銀色の髪を無造作に流し、怜悧な青い瞳で学生たちを見下ろしている。
彼こそが、この研究所の名誉所長ギルベルト。
彼の講義は天上の叡智そのもの。しかし、あまりにも高度で難解、そして一切の妥協がない。学生たちはその知識の奔流に必死で食らいつくだけで精一杯だった。

「さて」

ギルベルトが分厚い専門書をぱたんと閉じた。その乾いた音に、学生たちの肩がびくりと跳ねる。
「来週は特別実技演習を行う。……その日は外部から客員の講師を一人招いている」

講義室が、ざわめいた。
(あのギルベルト所長が、自ら招く講師とは一体……?)

「客員講師?」
「まさか、隣国から賢者を招くのか?」
「いや、あるいはエルフの森の長老様かも……」

学生たちの期待に満ちた囁き。それを、ギルベルトはふんと鼻で笑った。

「その講師は、王国の医療の歴史そのものを変えた人物だ。その功績により若くして特別な称号を授けられている。『王国特任巡回治癒師(ロイヤル・フィールド・ヒーラー)』……あるいは、街の噂好きどもはこう呼んでいるらしいな」

彼はどこか面白そうに、口の端を上げる。

「―――『魂の天秤を持つ、聖女』、と」

そのあまりにも伝説的な、御伽噺のような称号に、講義室の全ての学生が息を呑んだ。
モーゲンロートの大いなる厄災から王国を救ったという謎の英雄。その正体は固く秘匿され、様々な憶測が飛び交っていた。
ある者は何百年も生きる大賢者だと言った。
ある者は神の化身たる敬虔なシスターだと噂した。

そして運命の実技演習の日。
学生たちは張り詰めた面持ちで、その伝説の人物の登場を今か今かと待ちわびていた。
やがて講義室の重い扉が、ゆっくりと開かれる。

そこに立っていたのは、学生たちが想像したどんな荘厳な人物とも違っていた。
年の頃はまだ十代半ばにも届かないだろうか。栗色の柔らかな髪を一つに束ねた、どこにでもいそうな親しみやすい少女。そのあどけない顔には、人懐っこい太陽のような笑みが浮かんでいる。

講義室は、水を打ったように静まり返る。
あまりの予想外の光景に、誰もが言葉を失っていた。

少女はそんな学生たちの困惑など意にも介さず、ててて、と教壇の前まで歩いてくると、ぺこりと可愛らしくお辞儀をした。

「―――こんにちは、皆さん! 私、ユヅカって言います! 今日は、よろしくお願いしますねっ!」

伝説の聖女の、あまりにも気さくな第一声だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。  彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。  しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。    ――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。  その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。

kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。 桜は、目立たず生きることを決意したが・・・ 初めての投稿なのでよろしくお願いします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...