幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第84話 招かざる客人

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「我らが隙を見逃すわけなかろう……‼」
 
 突然に表れたフォルトゥナに対して、竜人のドレイクとオーキンスが襲い掛かる。
 両側面を挟み込むようにする攻撃に対して、フォルトゥナは両腕を水平に広げて何やら魔法を高速詠唱した。
 すると、彼女の手のひらから高速に回転する魔法陣のようなものが現れる。
 宙に浮く魔法陣は盾のように彼女の身体を守り、ドレイクとオーキンスの重たい一撃が肉体へ届くことはなかった。

「魔王軍式の体術を甘く見てもらっちゃ困りますぜ‼」

 ドレイクとオーキンスの影に隠れながら、フォルトゥナとの距離を詰めていたロキが吠える。
 地面を強く蹴って空高く跳躍していた彼は、フォルトゥナの視界の外である頭上から攻撃を仕掛けるのだった。
 しかし、フォルトゥナはそれにも即座に反応し、視線を空にいるロキへと送る。
 直後、彼女の瞳に小さな魔法陣が浮かびあがり、ロキの攻撃も透明な防御壁に阻まれてしまった。

「あらら、俺はバレないように黙ってたのに」

 ラティスが呟くと同時に、フォルトゥナが立っていた場所に鋭く尖った岩が突き出た。
 彼は詠唱することもなく無言で魔法を撃っていたのである。
 しかし、尋常ならざる高度な魔法技術にすら敏感に反応したフォルトゥナは、バックステップでそれを躱すのだった。

「もきゅー‼」

 フォルトゥナの後方から叫び声と共にふわふわした球体のようなものが飛んでくる。
 しかし、ワタアメの決死の突撃も難なく回避されてしまった。
 魔王軍が誇る4人と1匹の同時攻撃を簡単に抑え込んだフォルトゥナは、息一つ切らしていない。
 そして、戦闘の渦中にある今この瞬間であっても彼女は「私」の顔を見てニヤニヤとしていた。

「随分手荒い歓迎なのね」

 激しい戦いの始まりかと思いきや意外なことに、身体についた砂ぼこりを払いながらフォルトゥナは魔法を解除する。
 彼女が武装を解いた瞬間、瞬発的脚力に優れるロキが強く地面を踏み込もうとした。
 まきあがる砂埃を見た私は、ガウェインが過去の訓練の時に「あの人狼の踏み込みは凄まじく速い」と言っていたのを思い出す。
 しかし、なにやらフォルトゥナの様子がおかしいことに私は気づいた。
 
「ちょっとまって‼」

 私は勢いよくフォルトゥナへと向かうロキを止める。
 それを受けたロキは「姫さん、何をお考えで!?」と驚いた様子で身体を制御した。
 私が止めたことによって訓練場に広がっていた「戦闘」の雰囲気は少し弱くなり、一同はこちらに視線を送る。
 敵対しているフォルトゥナも「お?」と余裕そうな声をあげて私の方を見た。
 
「この子から前みたいな殺気を感じないわ、何か様子が変なのよ」

 邪神教の四天王であるはずのフォルトゥナから攻撃的気配を感じないと私は皆に告げた。
 たしかに、ロキ達も感じているであろうフォルトゥナの「敵対魔力」のようなものは感じるのだが、それだけなのだ。
 以前に本気の殺気をフォルトゥナから貰ってる身としては、納得がいかないのである。
 全身が震え上がるような、心臓を素手で握られているかのようなあの恐怖感がないのだ。
 ラティスやロキ達が守ってくれてるから安心してるというわけでもなく、純粋にフォルトゥナ自身から凍り付くような気配を感じない。
 そして、私の疑問に対する答え合わせをするように、フォルトゥナは一層深い笑みを浮かべた後で真剣な顔つきになった。

「メルヴィナちゃん、今日はお願いがあってここにきたのね」

 狂気をまとった殺戮ウサギは、似合わない真面目顔で私の目を見て言うのだった。



----



 訓練場に集まる一同は武装を解き、なにやら話があるという邪神教四天王と相対することとなった。
 魔王妃を守るという名目上、彼女への警戒が強かったロキとドレイクの意見により、フォルトゥナはラティスの作った「魔力の枷」を付けられる。
 その際にフォルトゥナが「拘束プレイもいいわね~」と恍惚の表情を私に向けて見せていたのだが、なんだか不気味だったので私は見て見ぬふりをするのだった。

「そこのウサちゃんからはこの前みたいな敵対心を感じないわぁ」

 私と同じように「殺気に塗れたフォルトゥナ」と過去に顔を合わせてるアルテミシアの意見であった。
 フォルトゥナの登場によって蚊帳の外となっていたアルテミシアは、少し寂しかったのか「メルちゃんもそう思うよね!」とやけに私に絡んでくる。
 なんだか「お姉さん」というよりも「妹」のようなアルテミシアの態度に困惑しつつも、自分の直感が間違ってなかったことを確認出来て安心するのだった。

「それで、話っていうのは何なんすかね」

 未だ怪訝な表情でフォルトゥナを見つめるロキが言う。
 対するフォルトゥナは、手足にはめられた魔力枷を見て満足そうな顔をしながらも「それじゃあ、話そっかね」と肩についてる砂に息を吹き替えていた。
 彼女の口からどんな「取引」を提案されるのかと、一同には緊張した空気が流れる。
 邪神教の四天王が直接「魔王軍の本部」へと侵入してきたのだ。
 考えたくないことだが、私の脳裏に「戦争が始まる」と言っていた魔王の言葉がよぎる。
 いよいよその時が来てしまったのだろうか……。



「私とお友達を魔王軍に入れてほしいのね」



 しかし、帰ってきた返答は想像の斜め上を行くものであった。
 
 

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