【BL】アナザーシンデレラ

星式香璃143

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2.ここは地獄






「――手押さえとけよ!」


 2人がかりで四肢を拘束され、板張りの床に押さえつけられる。
 アルコールが入っているとは思えないほどの強さで、楓は制服のシャツを破られ、抵抗すると殴られた。


「ほら、舐めろ」


 はぁはぁ、と下卑た笑みを浮かべながら男がズボンを下ろしモノを取り出す。頬に異臭のする、生暖かい粘膜を押し付けられる。
 ひどい嘔気に耐え切れず、顔をそむけてえづくと、再び男から舌打ちされ殴られた。


「おら! 舐めろって!」


 上肢側を押さえていた男が、頭部も固定してくる。鍛えていたつもりでも、体格差が違いすぎてろくな抵抗ができない。せめて、裕次郎の名前を出されていなければ。部屋に侵入者が居た、という事実だけであれば、一瞬で制圧できていたかもしれないのに。

 悔しい。
 結局、見た目で女のように扱われてしまうのか。


「う、ぶっ!」


 唇に、白い液を滴らせた異物を強引にねじこまれる。
 口腔内が腐った気がした。


「っ――最高だな!」
「お前一人楽しんでるんじゃねぇよ!」
「楓さん! 俺も、俺のも!」


 犬のように荒い息を吐きながら、狂った様に自分に群がる男達。食い荒らされて、男に触れられた部位から腐れ朽ち果てていく感覚。
 まるで、密教の儀式のようだな、なんて他人事のように俯瞰しながら、嵐が過ぎ去るのを待った。
 これが自分に与えられた罰なのだ。
 それならば、それらしい最後を遂げよう。そして、この地獄のような時間が終わったら――。



「貴様らぁッ!! 何をしている!!」



 雷鳴のような怒号が響く。
 次の瞬間、木材が折れるような音がしたかと思うと、今まで楓の口に異物を押し込んでいた男が絶叫した。



「ぎゃあああ! 腕がぁぁあ!」
「死にさらせ!! このゴミカス屑どもが!!」


 のた打ち回る男の腹部を蹴り上げていたのは、一人の老人だった。

 身長は楓より低く、ひょろりとした小柄の体型で、肩まである白髪をオールバックにした鋭い目線の執事服の老人。


「ごほ!! っが、はッ…!」
「楓様!! ご無事ですかッ!?」

 
 老人は鬼の様な形相で、再度男の急所をゴミのように蹴り上げて沈黙させた後に、泣きそうな声で楓の名を呼び、駆け寄ってきた。



「な、なんだよこのじいさん!」
「やべえよ! やっちまおうぜ!」


 異常事態に楓を押さえつけていた残りの男らが部屋にあった花瓶を掴む。
 しかし、ゴッという鈍い音を最後に、二人の男子生徒の声は聞こえなくなった。
 ぐりゃりと床に崩れ落ちた男たちの背後には、身長2メートル近い、黒服姿のスキンヘッド、サングラスをかけた大男。




「――愛、染アイ ゼン……? 布動フドウ……」




 朦朧と呟く楓の声に、愛染アイゼンと呼ばれた老人と、布動フドウと呼ばれた大男が反応する。



「げぼッ……な、ぜ………ここに?」


 喉の奥に汚らしい分泌液が引っ付いているのか、うまく声が出せない。
 何度か咳払いしながら問いかけると、困惑に揺れる瞳から逃れるように、二人は苦しげに眉根を寄せ、わずかに目を逸らした。
 先に口を開いたのは、老執事、愛染だった。



「突然の来訪、お許しください。最近、楓様の……いえ、正確には楓様の周囲がおかしいとの噂を聞きつけまして……」



 愛染は、一見して齢八十過ぎに見える外見を完全に裏切り、細い腕で楓を力強く抱き起こす。

 以前、深緑寺本宅で見た時よりも皺の増えた愛染の手。
 その手を見て、そういえばこの全寮制の学園に入ってから、ほとんど会っていなかったと思い出した。



「いてもたってもいられず、愛染とこうして来てみれば………!!」


 布動フドウが、憎々しげにつぶやきながら楓に近づき片膝を折る。
 サングラスでその表情はわかりづらいが、普段寡黙なだけに、ここまで激情を表に出すことは滅多にない。
 

 それだけに、尚更申し訳なくて恥ずかしかった。
 よりにもよって、男たちに辱めを受けていた場面を見られるなんて。


 二人はそれぞれ楓の実家【深緑寺しんりょくじ】に仕えるSPの様な存在で、普段は楓の父親の護衛している。
 愛染はか弱い老人の様な姿をしているが合気道、少林寺拳法の使い手であり、布動は元軍人だ。



「俺は構わないが、2人は大丈夫なのか?」


 本来、二人が主人として守るべきは楓の父親。もしくは、深緑寺の後継者である楓の兄・みきだ。


 この二人は、楓が物心ついた時にはすでに楓専属の護衛をしていた。
 二人はそろいもそろって「真に我々が仕えるのは楓様お一人ですから」と楓のそばを片時も離れなかったのだが、父が一方的に楓を全寮制の学園に入れることを決め、結果、楓が学園にいる間は父専属のSPとして働いていたのだ。



「俺の所に2人が来たことが知れたら、面倒な事になるんじゃないか?」


 楓の言葉に、愛染の顔がわずかに強ばる。
 嫌な予感がした。


「……そのお父上様が、楓様を一度屋敷に連れ戻せ、と」



 悲劇は連鎖する。
 堕ちるところまで、自分は堕ちていくのかもしれない。



「――そうか、用件は?」
「詳しくは存じあげませんが、恐らく、白里様のことでしょう」
「なるほど……」



 自分の声が遠くに聞こえる。
 ついに、父親の耳にまで入ってしまったのだろう。
 あの父親が、楓を快く出迎えてくれるなんてことは絶対にありえない。
 あるのは。



「ありがとう、助けてくれて。迷惑をかけたな……」
「楓様?」



 父親だけでなく、この二人にもすでに知られているのだろうと察して、顔を伏せる。
 自分が学園でしてきた事。男に入れ込んで、結果こんな事態になってしまった事。
 2人は顔や口には出さないが、きっと軽蔑しただろう。


「本当に、ごめん」


 ――それでも、初めての恋だったのだ。
 振り返れば、すべてが幼稚すぎて目も当てられないことばかり。男の背中ばかり追い掛けてて、まわりが見えず。自分の事ばかり。人を好きになる事が、こんなにも愚かな事だと、知りたくなかった。


「お止めください楓様! 謝る必要などございません!」
「そうです! 我々は何があっても楓様をお守りします! 楓様の味方です!」


 二人の言葉を聞いた瞬間、気がつくと二人にしがみついていた。
 惨めな泣き声はあげたくなかった。あんなぽっと出の《転校生》に負けたなんて、死んでも認めたくなかったからだ。
 どこまでもプライドだけが高い自分。そんな自分を嫌悪しながらも、それでも声を出したくなくて、代わりに瞳が溶けそうなほど涙を流した。
 このまま、どこか遠くに逃げ出してしまいたい。

 そんな願いを断ち切るように、愛染のスマホが鳴る。
 着信は、父・深緑寺松造しんりょくじ しょうぞう


 破滅を告げる鐘が、鳴り響いているようだった。


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