【完結・R18】触手彼氏

星式香璃143

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触手受胎《前編》

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 例えば、地球が一回自転する間。
 地球は同時に同じ方向で太陽の周りを公転している。


 なので、自転周期は1日(24時間)よりも236秒短くなる。

 言い換えれば、地球が1回転してなお昨日の太陽と同じ向きになるには、もう236秒必要とする。つまり、地球が一回自転するのにかかる時間は“約23時間56分4.06秒”となっている。

《みんな大好き百科事典Wikipediaより抜粋》


 なるほど、わからん。
 なぜいきなりこのような冒頭になったかというと、過去に一度。なぜか、地球の自転運動について調べてみたことがあったからだ。
 それを、なぜかこのタイミングで思い出した。



 「う、ぷ……!」



 目の前がぐるぐると回る。
 まるで俺は、地球のようだ。
 母なる海をたたえた地球。

 生命の根源、地球。

 その地球と同じ想いを俺は感じているのだろうか。
 目の前がぐるんぐるんと景色が渦を巻き、下手するとぐにゃりと歪む。



「……ッう」



 それにしても、俺の自転速度は速すぎやしないだろうか?
 そんな天文学的な話を唐突に持ち出すほど、俺は追い詰められていた。
 いや、切羽詰まっていた。



「――ッげほッ……!!」



 吐いた。
 あぁ、畜生。
 吐きそうだと思った途端にこれか。ダイレクトすぎだ俺の体。



「ッは、ぁ…は……」


 苦しげな吐息が無人のトイレに響く。
 嘔吐といっても、唾液しか出てこない。
 口の中が何度も何度も潤んでは、溜まる唾液が誘因となって嘔気を催す。
 がりがりと左手でトイレットペーパーをかき出しながら、右手で下腹部を押さえる。

 少し膨らみを持ち始めた腹部。



「………ン、の、野郎……ッ」



 目の前がぐるぐるするような眩暈。
 膀胱が圧迫されることによる頻尿。
 突然やってくる嘔気。


 妊娠悪阻つわりだ。


 触手の子を宿して、まだ3カ月。
 女性でいうなら妊娠初期らしい今日この頃。
 早くも俺は、妊娠に伴う合併症に悩まされていた。




触手受胎ショクシュ・ジュタイ





「おい日野、お前大丈夫か?」

 めちゃくちゃ顔色悪いぞ、と心配そうに話しかけてくるクラスメイト。
 正直、声もかけないでほしい。
 頭をあげると、ぐるぐるする。

 あぁ、確か地球が自転する時には、遠心力やコリオリの力なるものが生じて、地球上のあらゆる運動に影響を及ぼすらしいが、俺もそんな力がほしい―――【今】。


「……ちょっと、体調悪くて……」
「腹痛いのか? 下痢?」

「え?」

「いや、だってお前、最近ずっと腹をおさえてるから」



 それは全くの無意識だった。
 言われるまで気が付かなったが、実際、ヒノキの下腹部はほっこり大きくなって、キューピーさん状態だ。

 女性ならば、胎児の成長に伴って子宮が大きくなり、腹部が目立つのはつわりなどが収まり安定期に入った妊娠中期頃だが、さすがは【人外】の子。
 基本的な成長は自然界に従っているが、やはりどこか人間とは異なるのだろう。

 お腹は目立つのに、未だにつわりに悩まされている。
 成長の速さに、身体がついていっていないのだろうか。

 ――成長が早い。それはそうだろう。
 毎晩、鬼のように栄養を注入しようとする考えなしのパートナーのせいだ。





「おい……!」

 ちなみに俺はベッドだが、シュウは布団だ。
 床に布団を敷いてるのだが、あまり役目をなしていないことが多い。
 ベッドの下から入り込み、もぞもぞと蠢く何か。

 それがどのような意図をもって侵入してきてるかなんて、考えなくてもわかる。
 ぬるりと、下着の中に滑りこむ何本ものソレ。


「んン、……馬鹿! はいって、くんな…ぁ……!」


 一際太くてぬめるソレが内股に絡みつく。


『――だって、サムイ』


 細い触腕は両手を拘束し、脚を左右に開かせようとする。確かに、腕を拘束する触腕は冷えていた。むしろ、本当に寒いからこそ人間化を保てていないのかもしれない。


「さむくねぇよ! まだ秋だよ! 布団だって羽毛だろうが!!」
『それでも、さむい………ヒノキ』


 ヒノキの中に入りたい。
 途端、目の前に綺麗な琥珀色の瞳をした男が現れる。


「――っだ、め…だ…! お前最近ホント、ヤリすぎ……なんだよ!」


 現在は出かけていて不在だが、普段だったら隣の部屋には姉がいるし、親だっている。
 そう訴えたくても、ゆっくりシュウの顔が近付くと息をのんでしまう。


『なぜ? ヒノキも早く産みたいだろ?』
「それは………あ、……!」


 ふにっ、と不謹慎にも膨らみを持ち始めた乳に男らしい大きな手が触れる。
 まだ慎ましやかなソレを、触手共が毎晩むさぼるように揉みまくるせいで、今では立派な弱点と化している。


「ぁ…ん、く………ぅ……」
『欲しいだろ?』


 尻の狭間に、一際巨大な何かをズリュッと押しつけてくる。
 ねっとりと舐めるような前後運動。下半身をそんな卑猥に擦りつけられて、胸を揉まれて、両手足拘束されて。


『俺の、精子』


 そう囁かれて。
 “NO”なんて言えるわけがない。

「――ぁ、ひッ! んぁああっ……!」

 ズブッ、ぬぶっといきなり最奥まで挿入され、胎内なかで一度ぶち撒けられる。
 しかし、数秒も立たないうちにソレはすぐ硬度を取り戻し、中出しした残滓のぬめりを借りて、傍若無人にかき回しだす。


「あ゛、ひぃうッ!! やだぁあ! 深ッ……やめ…!!」

 体の奥を突き刺すように挿れられてなかなか抜いてくれない。
 少しでも体外に出すのを嫌がるように密着し中に入り込んでくる。


「ぁ、ぁ……ッイク………も…、はや、く……」
『早く、何?』


 一番弱い奥を何度も刺激されて。ましてや、一回中だしされて。
 ずちゅ、ぐちゅと卑猥な音が心地よくなって、いつも最後は頭が真っ白になる。

「も、ッと……だし、っ、あぁあああ!!!」

 
 どぷっ、ごぽっと脳内まで精液で満たされるかのような勢いと熱に圧倒されて、結局自分も共犯者となるのだ。








 ―――うわぁあああああああ!!!!

 あの野郎…!!
 明日は体育があるから絶対にシないっていったのに!!

 突然思い出した昨夜のハイライト。
 思い出しただけで死にそうだ。いや、もう死んでいる。体力的に。なぜ、いつもあんなエロ漫画みたいな展開になるんだ。――なにより、あっさりとあいつに流されてしまう自分が悲しい。
 自分の前世は流しそうめんの素麺だったのだろうか。


「………ぬ、うっ」


 思わず、歴戦の戦士のようなうめき声が出てしまった。
 過去の回想で、はぁとため息をついた自分を叱咤激励しているのか、不意に腹部がうずくように蠢いた。
 いやいや、さすがにまだ胎動は速すぎだろう、3か月だぞ。3か月って……なんだ?
 こんなことなら、もっと真面目に保健体育の授業を受けていればよかった。


 ――あぁ、我が子よ。
 お前のお父さんは、とんでもないエロ親父だぞ。

 
 成長が早いのは決して自分が欲深いわけではなく、君のお父さんが仕掛けてくるからで――と、腹部をさすりながら、精一杯言い訳してみる。心で。

 元気に生まれてきてくれるなら、男の子でも女の子でもいいが、できたら【性的欲求に対して淡白な子】がうまれてくれると、大変助かる。心情的に。

 そう願いつつ、毎日平凡な生徒の振りして授業をうける毎日だ。
 


 そう。これまでの流れで察してくれたとは思うが。
 現在、触手は我が家に同居………否、【同棲】している。
 しかも、基本人型の方で。

 この時点で色々な疑問が湧いてくるだろうが、とりあえず《なぜ一般家庭である俺の家に触手が住むことができているか》ということから説明しよう。





 3か月前。


「―――き、帰国子女で、ハーフの葛飾かつしかシュウ君。ええっと………ハーフで、昔から文通してて、高校生になったし。どうしても日本の文化を学びたいらしくて………ホームステイしたいって………俺んちに」


 予行練習!! したのに!!
 日本語おかしすぎるだろ!!
 ハーフって二回言ってるし!! 『昔から文通してて』と『高校生になったし』が全くつながってねぇえ!
 イミフスギワロタ!!

 嫁にする宣言&妊娠している宣告をうけたその直後、触手はうちに住むといいだした。
 確かに、彼には居場所がない。
 むしろ、いままでどこで生活してたんだ。あ、学校のトイレか。と色々巡らせつつも、普通に考えて《同居》なんて無理だ、という俺に彼は。


『夫婦が一緒に暮さないなんておかしい』
『それに、その子がいつ生まれてくるかもわからないのに、ヒノキは不安じゃないのか?』


 はい、大不安です。

 というわけで、その夜。
 俺は全脳細胞をフル回転してシュウの設定を考え、帰ってきた両親と姉の前でシュウを紹介した。カッチカチの俺とは対照的に、シュウは仏かと思うほど落ち着いていた。


『ハジメマシテ、シュウといいます』

「あらぁあああ美形!! どちらのお国にいらしたのかしらッ?!」


 真っ先に食いついたのは母だった。
 さすがおかん。予想通り面食い&食い付きがいい。
 適当な海外の名前を言おうとした俺の横から、シュウがすかさず。


『フラスコです』


 ――がん!!
 産まれはシャーレです、とか続きそうだったシュウの右足を踵で踏みつける。シュウは黙って震えもしなかったが、目じりがほんのり赤くなっていた。



「フラスコ? フランスのことかしら?! さすが本場の発音は違うわね~!」
「お! 父さんと母さんも新婚旅行は大奮発してフランスにいったなぁ! おい、フランス語の本どこになおした?」
「あら、どこだったっけ。それより! フランスの名産ってワインだったかしら? 今ワインにはまってるのよぉ」


 冗談だろ。
 母だけでなく、父もいつになくノリ気でフランス語本なんか探しに行っている。
 いいのか。こんな得体のしれない男がいきなりホームステイしてもいいのか!?
 危機感なさすぎだろ!!


 そして、一番の難関である年頃の姉。いくら、三次元に興味がない姉といっても年頃の娘。
 過剰反応して嫌がられたりしたらどうしようかとおもっていると。


「あ、あんた………彼、本当に普通のフランス人なの……?」
「え?」


 心配するとこそこ?
 この世の終わりかのような顔と、聞いたことのない小声で囁かれた内容に、耳を疑った。


「じ、実は《貴族》とか、《王子》とか、まさか《皇子》じゃないわよね…!?」


 異国交流という名の社会見学で来日して『面倒だな……』とか思いながらも日本の高校を見学しているその中で見染められてしまったとかじゃないの―――!?


 うん。ちゃんと聞いてみたが王子と皇子の時点で、なんかもうよくわからんな。なんだ? 発音の違いか?
 

 高速早口で語られた内容。息継ぎはどこでしているのか。もはや、エラ呼吸なのか。
 心配した俺が、アホでした。

 姉は、すでに脳内でシュウと俺を公式カップリングと認定し、猛烈に興奮していた。
 もう、猛烈に。

「ヒノキ! フィアンセには気をつけるのよ?! いや、お姉ちゃんが守る! 守ったるわ! 二人の愛は誰にも止められないの! 見てなさい! 私渾身の『皇子に溺愛される弟を悪役令嬢から守ってみせます』! 乞うご期待!」

「勝手に次回作おっぱじめないでください先生」

「あぁ、ヒノキ! これから辛い事もあるかもしれない。色んな問題や障害が襲いかかってくるかもしれない――けど!! あなたは自分に誇りを持って彼と一緒に歩むのよ!」


 どうやら外国人御曹司とのBLのお約束敵展開を危惧しているのか、興奮しつつも心配する姉。
 姉さん、ごめん。
 相手は外国人御曹司でなく《人外》なので、すでに色々過程すっ飛ばして妊娠してます、なんていえるわけもなく。


『良い家族だな』


 ほんわかするシュウを横目に、我が家の適応能力の高さに、ただただ反応に困るヒノキだった。
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